「ネガティブフィードバック」とは、被評価者の問題点を指摘し、改善および成長を促すフィードバック手法だ。部下に自らの課題を認識させ、精度の高いPDCAサイクルの実践を促すことで、目標達成やスキル向上が望める。一方、「ネガティブフィードバック」は改善が必要な部分に焦点を当てて指摘するため、伝え方には十分な配慮が必要である。本稿では、「ネガティブフィードバック」を「批判」と捉えられることなく、効果的に行うためのヒントとして、「ネガティブフィードバック」の意味や目的、伝え方のポイントや例文などを解説する。
「ネガティブフィードバック」の意味や目的とは? 効果的な方法を例文でわかりやすく解説

「ネガティブフィードバック」の意味と「ポジティブフィードバック」との違い

より良い成果のために被評価者の行動への評価を伝える「フィードバック」のうち、被評価者の問題点を強調して指摘し、改善を促す手法を「ネガティブフィードバック」という。「ネガティブフィードバック」では問題点を明確にして改善策を伝えるため、相手は次回以降、より適切に軌道修正を図ることができる。一方、「資料の内容が薄い」、「営業成績が伸びていない」など、厳しい指摘内容になることが多いため、上司・部下間の信頼関係の構築や伝え方の工夫が必要である。

●「ポジティブフィードバック」との違い

「ポジティブフィードバック」とは、相手に「できたこと」や「良かった点」などポジティブな面を指摘し、被評価者のモチベーション向上を図り、成長をサポートするフィードバック手法である。一方、「ネガティブフィードバック」は問題点や課題点などネガティブな面を指摘する手法であるため、「ポジティブフィードバック」とは指摘内容が真逆となる。

●「フィードフォワード」との違い

「フィードフォワード」とは、未来に焦点を当て、目標達成のためにこれから取るべき行動や解決策などを話し合うことである。一方、「ネガティブフィードバック」は過去の問題点・課題にフォーカスして改善を促すものであり、目を向ける時間軸が異なる。また、「フィードフォワード」は役割を固定せず対談形式で行うのに対し、「ネガティブフィードバック」は上司から部下への指摘を意味する。

「ネガティブフィードバック」の目的

効果的な「ネガティブフィードバック」を行うために、その目的を確認しておきたい。「ネガティブフィードバック」の主な目的は下記の3つだ。

・組織の目標達成
・部下の成長促進とモチベーション向上
・改善の継続による成果向上

一つずつ見ていこう。

●目標の達成

「ネガティブフィードバック」は、課題点や改善点を正しく伝えることを通して、部下ひいては組織の目標達成のために行われる。「ネガティブフィードバック」では、目標達成のために足りない要素・スキルをストレートに伝えるため、部下としては目標と現状とのギャップを正しく認識し、適切に軌道修正を行いやすい。現時点で不足していることは何か、それを補うにはどのような行動をどの程度積み重ねていくべきかといった、目標達成への道筋を明確化させることで、部下は着実に歩みを進められるだろう。

●部下の成長促進とモチベーション向上

「ネガティブフィードバック」を受ける部下は、自らの改善点がクリアになり、成長するためには何をすべきかがはっきりする。パフォーマンスの向上に焦点を当てた行動変容につながりやすく、積極的に成長に向かうことができるだろう。また、具体的に指摘することで被評価者は「上司が自分のことをよく見てくれている」と感じられるため、モチベーション向上も期待できる。

●改善の継続による成果向上

定期的な「ネガティブフィードバック」により、被評価者はより精度の高い改善行動を継続しやすくなる。例えば、1度目のフィードバックでは「資料が見づらい」と課題点を伝える。そして資料作成業務に改善が見られたら、次のフィードバックでは「プレゼンテーション能力が低い」と次の課題点を伝えるというように、問題点・課題点を指摘し続けることで、部下には常にPDCAサイクルを意識してもらうことができ、より成長した状態を目指す環境を提供できる。改善を継続して部下が成長していけば、自然と成果も向上していくだろう。

効果的な「ネガティブフィードバック」の伝え方

マイナス面を指摘する「ネガティブフィードバック」は、伝え方に十分気を付けなければならない。ここでは、「ネガティブフィードバック」の効果的な伝え方について解説する。ポイントは下記の6つだ。

・信頼関係を築いた上で行う
・客観的な観点で具体的に指摘する
・責任の押しつけや人格否定など、追い詰める発言をしない
・ポジティブフィードバックを交えて伝える
・個別に時間を取って行う
・早いタイミングで伝える

●信頼関係を築いた上で行う

「ネガティブフィードバック」は、「営業トークに具体性がない」「事務処理能力が低い」など、辛辣な内容を指摘することもある。そのため、信頼関係を築いていない状態で行ってしまうと、部下は「頭ごなしに否定されている」と感じやすく、指摘を素直に受け止めることが難しいだろう。

一方、信頼関係さえ築けていれば、ネガティブな内容の指摘であっても、部下は「自分のことをよく知ったうえで、自分の成長を考慮して指摘してくれている」と思うことができる。部下と日常的にコミュニケーションを取り、互いに理解を深めておくことが大切だ。

●客観的な観点で具体的に指摘する

「ネガティブフィードバック」では、主観的かつ抽象的ではなく、事実や結果に基づく客観的かつ具体的な指摘をすることが重要だ。例えば、主観的に「あなたの営業トークはなんとなく分かりづらい」という指摘では、部下は具体的に何を改善すべきか分からない。一方、「結論から話していないから営業トークが分かりづらい。他社A社の事例もトークに交えれば、説得力が増した」というような、客観的・具体的のある指摘をすることで、部下はこれからすべき行動を理解することができる。

●責任の押しつけや人格否定など、追い詰める発言をしない

「ネガティブフィードバック」は、部下を詰問することが目的ではない。部下の成長を促したり、モチベーションを向上させたりするために行うものだ。「のろまだから仕事が遅い」、「受注できなかったのは君のせいだ」といった、部下を追い詰める発言は、本来の目的に沿わないばかりか、部下の精神に悪影響だけが及ぶリスクがある。パワハラにもなりかねないため、責任の押しつけや人格否定などは絶対にしないようにしよう。

●「ポジティブフィードバック」を交えて伝える

マイナス面を指摘する「ネガティブフィードバック」に、プラス面を強調する「ポジティブフィードバック」を交えて伝えることで、より効果的に機能する。部下にとっては「良い部分もしっかり見て評価してくれている」と感じ、「ネガティブフィードバック」の内容も受け入れやすくなるためだ。フィードバックを行う上司側にとっても、指摘を伝えやすくなるだろう。ただし、マイナス面をごまかすために用意したと分かるような抽象的なポジティブフィードバックでは、逆効果になりかねないため注意が必要だ。

●個別に時間を取って行う

「ネガティブフィードバック」を不特定多数の人がいる前で行うと、被評価者の自尊心を傷つける可能性が高く、必要以上に自分を責めてしまうことになるなど、被評価者の心理的負担が増す。「ネガティブフィードバック」をする際には、当人同士以外誰もいない個室で、個別に時間を取るようにしよう。

●早いタイミングで伝える

部下の記憶が新しいタイミングでフィードバックを行うことで、相手は「ここが自分の改善点なのか」とより深く印象に残る。逆にフィードバックが遅れてしまうと、部下は自身の行動に関する記憶が薄れた状態で指摘を受けることになるため、実感がわきづらく、効果が低下する。また、タイミングが遅れることで、「なぜ今さら過去の話を持ち出されるのか」と部下の不信感が高まるリスクもある。そのため、できるだけ早いタイミングでフィードバックをすることが大切だ。

「ネガティブフィードバック」の例文

具体的に、「ネガティブフィードバック」を行う際にはどのように伝えれば良いのか。最後に「ネガティブフィードバック」の例文を押さえよう。

●「ネガティブフィードバック」の例文

以下に「ネガティブフィードバック」の例文を紹介する。

「ネガティブフィードバック」の例文
「作ってくれた提案資料は、既存の資料をつなぎ合わせただけの説得力に欠けるものでした。次回からはどの企業にも当てはまる内容ではなく、もっと提案する企業に向けた内容にして欲しいですね。

そのためには、ヒアリング段階で企業の潜在ニーズを深掘りしておくことが重要です。さらに効果的なヒアリングをするためには、あらかじめ企業について徹底リサーチをして、課題をいくつも想定しておかなければなりません。その点、今回はリサーチ不足だったと思います。

次回以降はもっとリサーチの時間を増やし、有効なヒアリングを行い、魅力的な提案資料を作れるようにしましょう」

このように、問題点を指摘した上で、具体的な改善策および次回以降のアクションに言及するのが「ネガティブフィードバック」のポイントだ。

●「サンドイッチ型フィードバック」の例文

「サンドイッチ型」のフィードバックとは、「ネガティブフィードバック」の前後に「ポジティブフィードバック」を行い、被評価者の行動で良かった点と問題点を交互に伝えて改善を促す手法である。以下に例文を紹介する。

「サンドイッチ型フィードバック」の例文
「限られた時間の中で、よく提案資料を完成させられましたね。これでお客様への提案が可能になりました。

ただし、内容には改善点が見られます。今回の提案内容は、どこの企業にも当てはまるもので、提案先企業に特化したものとは言えません。企業に特化した提案資料を作るためには、事前のリサーチ・ヒアリングが重要です。今回はリサーチの時間が足りなかったと思うので、次回以降はスケジュール管理を徹底し、リサーチの時間をもっと確保してください。

とは言え、伝えたいことがわかりやすくまとまった資料が仕上げられたと思います。市場の動向がわかるデータの挿入など、お客様に説明しやすい工夫をしてくれましたね。今後も期待しています」

上記のように、「できなかったこと」を「良かったこと」や「できたこと」で挟んで伝えることで、伝えるべきことは伝えつつも、全体的にマイルドな印象を相手に与えることができる。

ただし、問題が深刻である場合や、ストレートに要点を伝えなければ理解度が低くなるタイプの部下に指摘をする際は、「ネガティブフィードバック」のみの方が効果的なケースもある。


「ネガティブフィードバック」は、部下の成長促進や組織の目標達成などを目的に実施されるフィードバック手法だ。部下にとっては向き合いたくない辛辣な内容を指摘される手法ともいえるが、信頼関係を構築した上で2人きりで行う、必要に応じてポジティブな内容も交えるなど、ポイントを押さえて行えば、相手の能力を大きく伸ばすことができるだろう。部下の個性や問題点の深刻度などに合わせて、「ポジティブフィードバック」で「ネガティブフィードバック」を挟むサンドイッチ型フィードバックなども活用し、より効果的に成長を促したい。

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