人材育成に欠かせない「フィードバック」。なかでも、被評価者のモチベーションを向上させ、自発的成長を促す効果が期待されるのが「ポジティブフィードバック」である。「ポジティブフィードバック」は批評価者の行動・言動の良い面に着目し、肯定的かつ前向きな表現を用いて行うもので、ビジネスだけでなく看護や医療の現場でも活用されている。職場の「心理的安全性」を高め、メンバーのパフォーマンス向上につなげるためにも有効な手法だ。本稿では、「ポジティブフィードバック」の効果や具体的な方法、また反対に悪い面や改善してほしい点を指摘する「ネガティブフィードバック」との違いなどについて詳しく解説する。
看護でも用いられる「ポジティブフィードバック」の意味や効果とは? 「ネガティブフィードバック」との違いと例文も紹介

ポジティブフィードバック」の意味と「ネガティブフィードバック」との違い

「ポジティブフィードバック」とは、被評価者の言動の良い面に注目し、前向きな言葉や表現で伝えるというものである。主に、上司やリーダーが部下・メンバーに評価を伝える際に用いる。他者から良い評価を受けることで、被評価者の意欲が高まり、自発的な成長が促進される効果がある。

「ポジティブフィードバック」は、看護領域でも同様の意味で行われている。看護現場では、チームで連携して業務内容を最適化し、より良い医療を提供していくことが重要である。そのため、チーム内で認識を合わせるとともにメンバーの意欲を引き出し、ブラッシュアップを望める「ポジティブフィードバック」が有効な手法として用いられる。

●「ネガティブフィードバック」との違い

「ポジティブフィードバック」と対になる手法が「ネガティブフィードバック」である。「ポジティブフィードバック」が被評価者の良い面に着目するのに対し、「ネガティブフィードバック」は、言動の問題点や良くなかった点を、否定的な表現で指摘するというものだ。

「ネガティブフィードバック」は、被評価者の意欲や心理的安全性を低下させてしまうようにも考えられるが、具体的に課題を指摘することで、「改善点が明確に分かる」、「目標達成までの道筋が見えやすい」といったメリットもある。マネジメントの目的によって「ポジティブフィードバック」と上手く使い分けるようにしたい。

「ポジティブフィードバック」による効果・メリット

「ポジティブフィードバック」を有効活用できるよう、その効果やメリットも理解しておきたい。1つずつ見ていこう。

・心理的安全性が向上する
・部下の成長を促進できる
・業務進捗やスキルの把握がしやすい

●心理的安全性が向上する

「ポジティブフィードバック」では、被評価者が「自分の良い面を見てくれている」、「自分を理解してくれている」と感じるため、承認欲求が満たされて自己肯定感も高まる。そのため上司・部下間や組織内において「発言を拒絶したり、罰したりされない」という安心感につながり、意見を言いやすくなるというメリットがある。つまり、心理的安全性の向上が期待でき、被評価者はよりアイデアやパフォーマンスが発揮しやすくなるといえる。

●部下の成長を促進できる

上司からのポジティブな声掛けで部下のやる気を高めることができる。結果、仕事の意欲が増し、目標達成に向けて積極的に動けるようになる。

また、「ポジティブフィードバック」では、良い面・得意と思われる部分を指摘するため、部下は自身の強みを知ることができる。強みを知ると、得意分野を伸ばすことができるため、さらなる成長のきっかけにもなる。

●業務進捗やスキルの把握がしやすい

「ポジティブフィードバック」のためには、日頃からの被評価者の観察も重要だ。部下の様子をよく見ることで、部下の良い面の発見だけでなく、抱える業務の進捗状況、現在のスキルの把握もしやすくなるというメリットもある。

「ポジティブフィードバック」の手順と例文

「ポジティブフィードバック」にはさまざまなメリットがあることを説明したが、実際に「ポジティブフィードバック」を行うにはどうすればいいのか、具体的な手順と伝え方について確認する。

◆「ポジティブフィードバック」の方法

「ポジティブフィードバック」の主な方法は次のとおりである。

(1)成果につながった行動を示す
(2)業務プロセスにおいて良かった点を具体的に挙げる
(3)目標の達成度と、今後の課題・アドバイスを伝える

一つずつ詳しく見ていこう。

(1)良かった行動・言動を具体的に伝える
「ポジティブフィードバック」の基本は、被評価者の業務目標をしっかり把握し、評価できる内容を具体的に伝えることである。単に「良かった」、「頑張った」などの言葉ではなく、どの行動のどのような点がなぜ良かったのか、明確かつ客観的に示すことが重要だ。また、フィードバックはなるべく早いタイミングで行うことで、該当する行動に焦点が当たりやすく、より効果が高まる。

(2)成果につながった行動を示す
良かった点だけでなく、「その行動がどのような成果をもたらしたのか」という結果まで示すことで、被評価者は「評価に値するパフォーマンスができた」と認識することができる。あわせて、会社への貢献度も伝えられればなお良い。

(3)目標の達成度と、今後の課題・アドバイスを伝える
目標達成に向けたフィードバックの場合は、現時点での達成度および今後の課題に加え、アドバイスを伝えるようにしたい。被評価者は、評価を受けることで意欲を高めるだけでなく、自らの立ち位置と目標へのプロセスを確認することができ、明確に次のステップへ進むことができる。あわせて、目標達成度とは別の観点における「良かった点」も伝えるようにすると、さらに「ポジティブフィードバック」の効果が高まる。

◆「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の例

次の場合の「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の例を確認してみよう。

・入社2年目の営業担当社員
・新規顧客開拓が主な業務
・50件の新規顧客を作ることが今年度の目標
・上半期(4月~9月)終了時点で新規顧客件数は20件(達成率40%)。8月と9月だけで10件の新規顧客ができた
・目標は未達成であるものの、積極的な営業活動ができている

●「ポジティブフィードバック」の例
「見込み客に積極的に声を掛けていますね。作った資料も見やすい。これらが、8月と9月の契約数増加につながっていますね。ぜひこのまま続けてください」
「8月からの伸びがすごいね。自分ではどこが良かったと思いますか?」

●「ネガティブフィードバック」の例
「現時点で達成率は40%と、半分に満たないですね。原因は何だと思いますか? また、あと半期で目標達成するためには、どう改善すればいいと思いますか?」
「見込み客でまだ顧客になっていない方も多いようですが、どのようなアプローチをしていますか?」

このように、結果は同じでも「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」では視点と伝える内容が大きく異なる。部下の性格、状況を判断し、場面に合わせて使い分けるようにしたい。

「ポジティブフィードバック」のポイントと注意点

相手を褒めることが多い「ポジティブフィードバック」は、さまざまなメリットを生む一方で、内容によっては被評価者が現状で満足してしまったり、方向性に合わないやり方を続けてしまったりすることも考えられる。「ポジティブフィードバック」の効果を適切に出すポイントや注意点を押さえておこう。

◆「ポジティブフィードバック」の効果を出すポイント

「ポジティブフィードバック」をより効果的に行うためのポイントは次のとおりだ。

・結果にかかわらずまずは労をねぎらう
・仕事の区切りにタイミングを合わせて行う
・「サンドイッチ型」や「SBI型」を活用する
・「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」を意識する

●結果にかかわらずまずは労をねぎらう
「目標達成ができなかった」、「思っていたほどの成果が出なかった」という部下もいるかもしれないが、結果にかかわらず、まずは今まで頑張った労をねぎらうようにしたい。

その際も、「作ってもらった営業資料が取引先から評判が良かった。グラフも見やすかったよ」など、具体例を挙げて肯定的にフィードバックすると良い。

●仕事の区切りにタイミングを合わせて行う
上半期の成果を年度終了時点に伝えるなど、フィードバックのタイミングが遅すぎると、部下の心に響かない可能性もある。

「月ごとに」、「上半期終了時点で」など、仕事の区切りにタイミングを合わせて行うことで、部下のモチベーションアップも期待でき、成長や改善につなげることができる。

●「サンドイッチ型」や「SBI型」を活用する
フィードバックを行う際は、ポジティブな意見の間にネガティブな意見を挟む「サンドイッチ型」を活用すると効果的だ。被評価者は「注意はされたけれども、良い点も認められている」と前向きに捉えやすく、モチベーションを低下させずに改善点を伝えることができる。

また、状況(Situation)、行動(Behavior)、影響(Impact)を順序立てて具体的に伝える「SBI(Situation Behavior Impact)型」のフィードバックも活用したい。例えば「今回のプロジェクトで(状況)」「スケジュール通りに業務を進められたことで(行動)」「タイトな納期を守ることができ、クライアントの満足度が高まった(影響)」というように伝えると、被評価者は、良かった点や改善点を明確に理解しやすくなる。

●「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」を意識する
フィードバックを行う際は「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」を意識することも重要である。用語の意味を理解しておこう。

・ピグマリオン効果
期待が大きいと、相手もそれに応えようとし、高い成果が発揮できる

・ゴーレム効果
期待が低いと、相手もそれに相応した低い成果しか発揮できない

「ポジティブフィードバック」の場合はピグマリオン効果を利用し、期待が高いことを相手にしっかり伝えるようにしたい。

◆「ポジティブフィードバック」を行う際の注意点

「ポジティブフィードバック」を行う際の注意点として、下記の3点も確認しておこう。

・主観的で根拠のない褒め方はしない
・本人の行動と関連性が低い点を評価しない
・人前でのフィードバックは避ける

●主観的で根拠のない褒め方はしない
「ポジティブフィードバック」は褒めることが主体になるが、あくまで目標に対して出せた成果を尺度とした、客観性のある内容でなければならない。主観的で根拠のない褒め方では、被評価者に納得感を持たせることができず、成長にもつながりづらい。被評価者を満足させることではなく、さらに伸ばすべき点や克服すべき点を理解させ、前向きに取り組んでもらうことが目的であることを忘れないようにしたい。

●本人の行動と関連性が低い点を評価しない
プロジェクトと関連のない資格について褒めたり、被評価者がほぼタッチしていない業務にばかりフォーカスしたりするなど、業務に関わりのない点を評価しても、目標達成にはつながらない。また被評価者に「自分の業務内容や行動を正しく把握してもらえていない」という不信感を抱かせてしまうことになる。

●被評価者のタイプによっては人前でのフィードバックを避ける
他の人がいる前で褒められることを委縮するタイプの人もいる。そのような場合、「ポジティブフィードバック」の際はできれば1対1で行うようにしたい。


「ポジティブフィードバック」とは、相手の良い面に注目し、その部分を中心に伝えるというフィードバックの手法である。特に部下育成の場合、良かったことを具体的に伝えることでモチベーションを高め、さらに高い成果を出すことも期待できる。しかし、ただ褒めるだけでは「ポジティブフィードバック」とはいえない。効果的に行うためには、被評価者の業務内容を正しく把握し、迅速なタイミングで行う、「サンドイッチ型」や「SBI型」を使い分ける、客観的な指標で示すといったポイントを押さえておくことが重要である。

  • 1

この記事にリアクションをお願いします!