戦国武将である毛利元就のエピソード『3本の矢』は、「1本の矢は簡単に折ることができるが、3本の矢がまとまれば簡単には折ることができない」という話です。今回は、女性活躍推進に必要な視点を「3本の矢」に例えてご紹介します。1つの視点(1本の矢)だけではなく、3つの視点(3本の矢)がまとまることで、初めて女性活躍推進としての本来の効果が生まれます。
「女性活躍推進」に必要な『3本の矢』の視――1つが欠けただけでも本来の効果は得られない

【1本目の矢】『数』の視点〜魅力的かつ現実的な数値目標を掲げ、取り組みを「見える化」する〜

2022年4月より、「女性活躍推進法」に基づく一般事業主行動計画の策定・公表の義務が、「常時雇用する労働者数301人以上の事業主」から「101人以上の事業主」まで拡大されました。そして、その計画の中には「数値目標」を定めることが求められています。つまり『数(会社としての目標)』の視点が必要になります。

例えば、

●男女の勤続年数の差を〇年以下とする
●採用者に占める女性比率を〇%以上とする


といったことなどです。

『数』の視点で留意すべきポイントは、「数値目標」や「それを実現するための取り組み」が広く公表されることです。女性の活躍を推進することは「SDGs」などでも世界共通の目標とされています。また、現在は子どもの頃から「仕事と生活の両立」の必要性を学んでいますので、このような数値目標は、若い世代であればあるほど“会社を評価する上で重要な判断要素”となります。つまり、数値目標が魅力的であるほど、優秀な人材が集まる可能性が高いということです。

だからといって、非現実的な数値目標を掲げたのでは意味がありません。一見すると平凡な目標であったとしても、それを目指すための取り組みが充実したものであれば、その目標は魅力的なものとなります。

また、数値目標を達成できなくても、「何が問題であるか」が明確になり、その解決のために全力で取り組むことができれば、その姿勢は社外からも十分評価されるはずです。さらにこうした姿勢は、社内でも女性活躍を推進する職場風土が醸成される大きな契機となります。行動計画を労働局へ提出するためだけではなく、『数』の視点を大事にし、魅力的かつ現実的な数値目標を掲げ、取り組みの「見える化」により、広く公表することを人事戦略の軸としていきましょう。

【2本目の矢】『個』の視点〜一人ひとりの女性労働者の「キャリア形成」、「ワークライフバランス」を支える〜

「女性労働者が多ければ多いほど、一人ひとりの女性が働きやすい環境になるか」と言えば、必ずしもそうとは限りません。男性が多い職場でも、“働きやすい”と感じる女性もたくさんいると思います。また、女性活躍推進のための『数』を掲げたとしても、一人ひとりの女性労働者にとって直接的な効果があるか分かりません。

例えば「技術職の女性を5人にする」という目標を掲げても、既に違う職種で働いている女性にとっては何もメリットがないかもしれません。つまり『数(会社としての目標)』と『個(一人ひとりの女性が働きやすい環境)』は直接的な効果を想定せずに、分けて考えるべき内容となるのです。

『個』の視点で大切なのは、一人ひとりの女性労働者が「生涯にわたり、どのような職業人生を歩みたいと考えているのか」ということ(キャリア形成)や、「仕事と生活の両方を充実させるため、どのようなことを求めているのか」ということ(ワークライフバランス)会社が知ることです。面談や研修などの場面を通じて、一人ひとりの労働者の思いに寄り添い、共に考える姿勢が大切です。

しかし、「面談や研修などの場面では本音を打ち明けにくい」という女性労働者もいるかもしれません。そこで、大事になるのが『数』です。『数』と『個』は必ずしも直接的な効果を及ぼすものではありませんが、『数』を通じて女性活躍を推進する職場風土が醸成されれば、女性として苦労を重ねてきたことなどの本音を打ち明けやくなることにつながります。

つまり『数』は、『個』を支える上で間接的に大きな影響を及ぼすことになります。

【3本目の矢】『全』の視点〜女性活躍推進を通じて、すべての人の「キャリア形成」、「ワークライフバランス」を支える〜

上記では『個』の視点により、一人ひとりの女性労働者を支えることの必要性についてお伝えしましたが、それは女性だけに限ったことではなく、会社は“すべての労働者”を支えなければなりません。つまり『全(すべての人が働きやすい環境)』の視点が必要です。面談や研修を女性のみの対象とするなど、男性労働者に比べて女性労働者を優先的に取り扱う取り組みについては、一部の場合を除いて法令違反となります。『全』の視点で大切なのは、人事労務に関する規則や取り組みなどを、「女性活躍推進」を通じて見直すことです。

ここでは「短時間労働」を例に挙げ、その内容を掘り下げていきます。正社員の女性から、「1日8時間は働けない。仕事を辞めたい」と申し出があったとします。内心では1日6時間働くことを望んでいますが、そうなると会社のルールにより有期雇用となり、収入が半分になってしまうことから「辞める」という決断に至ったとします。

「労働時間が減ると有期雇用になること」や、「労働時間が4分の1減ったら、収入が半分になること」と定めていることについては、会社としてもそれなりの理由があるのでしょう。もし会社として明確な理由がないのであれば、世帯主(男性)が家族の生計を支える文化が醸成されてきたことなどにより、「フルタイム正社員または非正社員の二者択一」という風習が残ったままであることも考えられます。

一方で、「テレワーク・短時間正社員・フレックスタイム制などの導入」によって、このような従業員の退職を引き留める方法があるかもしれません。『個(一人ひとりの女性が働きやすい環境)』の視点に立ち、一旦立ち止まって規則や取り組みを見直すことは、『数(会社としての目標)』の視点でも指摘した「優秀な人材を確保すること」にもつながっていきます。

なお、「短時間労働を希望する」のは女性に限ったことではありません。家事・育児をきっかけに短時間労働を希望することが多いかもしれませんが、当然ながら家事・育児をするのが女性とは決められていません。家事・育児を理由に短時間労働に切り替えたい男性がいても何ら不思議なことではないのですが、希望しながらも“会社へ申し出ができない”という男性もいるかもしれません。申し出ができない理由の1つとして、「男性はこうあるべき」という固定観念が社会に残っていることも考えられます。

女性の活躍を推進することは、「性別に対する固定観念」、「それにより生まれた矛盾」に気づく機会ともなります。会社として、それらを1つずつ改善していくことで『全ての人』のキャリア形成・ワークライフバランスを支えることにつながっていきます。そして、『全ての人』が働きやすい環境が生まれることは、会社の生産性にも大きな影響を及ぼすことへとつながるのです。

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