時代の不確実性が増すとともに、市場競争が国境を越えて激化する中、企業は持続的な成長を目指しそれぞれが独自の経営戦略を策定している。自社のビジョンや経営資源を踏まえて、「経営戦略」をどう練り上げていくかは、経営者の手腕に掛かっている。昨今では、経営と人事を連携させながら、現場の課題解決を導いていく戦略人事が注目されている。それだけに、人事であっても「経営戦略」の理解を深めておかなければいけない。そこで、今回は「経営戦略」をテーマとして、その定義や種類、フレームワークなどについて詳しく解説していきたい。
「経営戦略」の定義や種類とは? 策定の際に役立つフレームワークや成功事例、事業戦略との違いなどを解説

「経営戦略」の定義とは

「経営戦略」とは、企業が競争環境の中で自らの経営目的・経営目標を達成するための方針や計画全般を意味する。どれほど巨大な企業であっても、保有する経営資源(ヒト、モノ、カネ)は有限だ。企業が掲げる目標や目的に応じて、選択し分配していく必要がある。そうした企業活動の基軸となる指針や指標、また方策を実現するための体制づくりなども「経営戦略」には含まれる。

●「経営戦略」の目的

企業はすべてのリソースを有しているわけではない。当然ながら、強みや弱み、特性がある。それらを経営者は理解・把握した上で、組織改革や事業の方向性を決定していかなければならない。やるべきこと、やらなければいけないことは数多くある。それらにどのような優先順位を付けて実行していくかを明確に打ち出していくためにも、戦い方の根幹がどうしても必要になってくる。それが、「経営戦略」を策定する目的と言って良いだろう。

●「経営戦略」の必要性とは何か

グローバル化の進展やIT・AIの普及、ニーズの多様化、競争環境の激化など、現代は変化のスピードがますます増している。こうした時代において、企業は10年、20年先の生き残りに向けてどのような成長シナリオを描いていくかが、一段と問われるようになってきている。そのためにも、経営者は自社の強みや特性を把握・理解し、組織改革や事業の方向性をスピーディ、かつダイナミックに決定していかなければならない。「経営戦略」の必要性が高まっているのもそのためである。

「経営戦略」にはどのような段階や分類があるのか

次に、「経営戦略」にはどのような段階や分類があるのかを解説していこう。

【段階】

「経営戦略」はその対象・範囲の違いから、企業戦略・事業戦略・機能別戦略の3つの段階に分類できる。

●企業戦略
企業戦略(全社戦略)とは、「どの事業に注力するか」や「どういった成長を目指すか」など、会社全体の方向性を定める中長期的な戦略を指す。代表的な施策としては、企業経営の基本的な考え方や哲学を示した経営理念の策定・浸透、企業の長期的なドメインの定義、事業の基本構成としての戦略的事業単位の設定、経営資源配分方針の決定などが挙げられる。

●事業戦略
事業戦略とは、全社的な企業戦略を各事業レベルで実現するために落とし込まれた戦略を意味する。近年企業では、事業の多角化や事業部制の進展などもあって、それぞれの事業の経営戦略を明確にする必要性が高まってきている。代表的な施策としては、どのようなターゲットにどんな商品・サービスを提供するかといった事業領域の設定と資源配分、ビジネスユニットごとの市場・顧客戦略と商品・サービス戦略の策定、収益が還元される仕組みである事業モデルの設定などがある。

●機能別戦略
機能別戦略とは、社内の機能組織を最適化させるために策定する戦略を指す。具体例としては、マーケティング戦略や営業戦略、財務戦略、人事戦略、研究開発戦略、購買戦略、生産戦略、物流戦略などが挙げられる。

【戦略の種類】

「経営戦略」にもさまざまな種類がある。ここで、いくつかを紹介しよう。

●多角化
多角化戦略は、既存事業とは別の新規事業を展開する「経営戦略」を指す。大手企業で良く採用されており、その目的としては、売上・利益の向上や経営資源の有効活用、リスク軽減などがある。多角化戦略はさらに、既存技術を活用し、既存と同様の顧客をターゲットに新たな製品を提供する「水平型多角化戦略」や、既存製品の製造フェーズや流通フェーズに展開する「垂直型多角化戦略」、自社の中核技術を活かし、ターゲット顧客に関連した事業に参入する「集中型多角化戦略」、既存事業と関連性のない業種に参入する「コングロマリット型多角化戦略」などに分類される。

●差別化
差別化戦略とは、競合他社との違いや優位性が明確な商品(製品)・サービスを特定の市場に投入し、高いシェアを獲得する「経営戦略」だ。明確な差別化ポイントがアピールできなければ、類似した商品・サービスとの価格競争に巻き込まれるだけになってしまう。代表的な差別化戦略としては、ブランド戦略が挙げられる。これに成功すると、商品(製品)・サービスに対する顧客の愛着や信頼が構築でき、長期的な売上と高い利益率を期待できる。

●グローバル
グローバル戦略とは、新たな市場開拓や競争優位の獲得を目的として世界規模での事業展開、事業開発を行なう「経営戦略」を意味する。製造業を中心に、昨今は多数の日本企業がこの戦略を実施している。グローバル戦略の代表的な事例としては、生産拠点を人件費の低い海外に置く海外生産移転や原料調達からの全プロセスをより効果的に管理するサプライチェーン戦略、グローバル人事の策定、リバース・イノベーションなどが挙げられる。

●コストリーダーシップ
コストリーダーシップ戦略とは、 他社が実現困難な低コストを強みにシェアの拡大を図る「経営戦略」を指す。ただ単純に価格を下げるだけではない。バリュー・チェーンの見直しや経済規模、経験曲線などによって、製造・販売に関連したコストを大幅に圧縮することで、初めて実現できる。

「経営戦略」を策定する際に役立つフレームワークとポイント

ここでは、「経営戦略」を策定する際に役立つフレームワークやポイントを取り上げてみたい。

【フレームワーク】

●SWOT
SWOTとは、自社の強みや弱みを分析する際に用いられるフレームワークだ。内部環境を強み(Strength)・弱さ(Weakness)に、外部環境を機会(Opportunity)・脅威(Threat)の4つのカテゴリーに分けて情報を整理し、経営戦略を検討していく。

●5フォース
5フォースは、米国ハーバード・ビジネススクール教授、マイケル・E・ポーター氏が生み出した、業界の特徴を分析し事業戦略を策定するためのフレームワークツールだ。企業の事業環境を、以下の5つの競争要因に分類して分析する。

(1)既存企業との競争
(2)新規参入の脅威
(3)代替品・代替サービスの脅威
(4)売り手の交渉力
(5)買い手の交渉力


●3C
3Cは、自社を取り巻く市場環境を分析する際に有効なフレームワークだ。以下の3つのCから名付けられている。

・顧客、市場(Customer)
対象とする市場の規模や推移をマクロ的視点から整理するとともに、顧客のニーズや行動を分析する。

・競合(Competitor)
自社の競合となる企業を特定したり、競合のビジネスにおける結果やリソース、リソースと結果の関係性を分析したりする。

・自社(Company)
自社が提供するビジネスのバリュー、バリューを生み出すリソースなどについて分析する。

【ポイント】

●ビジネスモデルの明確化
「経営戦略」を成功させるためには、ビジネスモデルの明確化が欠かせない。ビジネスモデルとは、他社と競争しながらも利益を生み出し続けていける仕組みであり、これが構築できていないと企業は持続的な成長を実現できない。もちろん、ビジネスモデルも一度作れば、それで終わりではない。時代の潮流や顧客ニーズの変化を鑑み、必要に応じて見直したり、PDCAサイクルを実施したりするといった取り組みが必要になる。

●人材戦略の推進
「経営戦略」を実行するのは、言うまでもなく人材だ。それだけに、人材をどのように確保・育成し、定着させていくかという人材戦略が「経営戦略」の成功に密に関わってくる。競争力の高い人材を育成する方法の一つとして注目されているのが、タレントマネジメントだ。従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上、離職率の低下、生産性アップ、顧客満足度の向上においても効果が期待できるとあって、多くの企業が取り組んでいる。

●戦略的なIT投資
自社が手掛ける事業の特性を理解し、戦略的にIT投資を行なうことも重要だ。ITシステムは、業務の効率化や生産性向上に欠かせない上に、営業力・販売力の強化や売上拡大などに寄与する。また、企業活動でのデータをリアルタイムで活用できる。

●イノベーションとマーケティングへの理解
経営戦略を機能させるためには、イノベーションとマーケティングの正しい理解が不可欠となる。競合他社に負けない商品(製品)・サービスを生み出すには、新たな価値創造をもたらすイノベーションが必要であり、顧客のセグメントにはマーケティングによる決定が欠かせない。

「経営戦略」の企業事例

最後に、卓越した経営戦略を策定し、高業績を実現している企業を2社紹介しよう。

●ニトリホールディングス

ニトリホールディングスは、中長期ビジョンである「2022年1,000店舗、2032年3,000店舗」の達成に向けた経営戦略を策定している。

戦略を“海外店舗黒字化と事業領域拡大の基盤づくり”、“海外高速出店と成長軌道の確立”、“グローバルチェーン確立に向けた経営基盤再構築”という3つのステップに分けている。また、重点方針として“供給体制の再構築”、“品質の強化”、“顧客サービスの向上”、“事業戦略の再構築”、“マネジメントの強化”、“教育と組織体制の再構築”、“商品戦略の再構築”の7項目を掲げている。

同社ではさらに先を見通しており、「2032年、3,000店舗・売上高3兆円」に向けた取り組みも進めている。

●ファーストリテイリング(ユニクロ)

ユニクロを展開するファーストリテイリングは、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略に重きを置いた経営戦略により、高品質と低価格を両立させ衣料品業界に革命を起こした。

その最大の特徴は、カジュアル衣料を自社で企画から製造、販売まで全て手掛ける、「SPA化」と呼ばれるビジネスモデルを採っていることだ。その結果、低価格ながらデザインや機能性に優れた衣料品を生み出している。

また、差別化という点で見ると、「服はこれがいい」ではなく、「これでいい」と思わせる、割り切ったファッションアイテムに特化している点も見逃せない。もちろん、流行は取り入れており、シーズンごとにアップデートもしている。流行を追いつつも割り切って使えるところに、ユニクロの強さがうかがえる。
経済のグローバル化が加速し、市場競争が激化していく中、企業には中長期を見越した経営戦略の策定が求められている。その際、大切になってくるのは、企業の業績や利益だけではない。「経営戦略」は企業が策定した経営理念、経営ビジョンを実現するための具体的な方策となる。それだけに、ロングスパンの視点を持って、方向性をぶらさないよう確実に練り上げていく必要があると言える。

その意味では、今回企業事例として取り上げた2社は、常に10年後・20年後の市場と自社の在り方を見つめ、今何をすべきかとブレイクダウンしながら、一つひとつを確実に具現化している企業である。「経営戦略」についてインプットする際は、2社の戦略がなぜ成功しているのかというケーススタディから入るのも面白いかもしれない。
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