仕事に対する向き合い方を見直すだけで、新たな楽しみややりがいを見出すことができるようになる。それが、「ジョブ・クラフティング」という考え方だ。人材育成にも効果が期待できるとあって、近年取り組む企業が増加傾向にある。そこで、今回は「ジョブ・クラフティング」の定義に始まり、人材配置や育成に活かすためのポイント、企業の事例などを詳細に解説していきたい。

「ジョブ・クラフティング」の定義や必要性とは何か

「ジョブ・クラフティング」とは、従業員が仕事のやりがいを持てるよう、主体的に捉え直す理論である。米国イエール大学ビジネススクール教授のエイミー・レズネスキーとミシガン大学名誉教授のジェーン・E・ダットンの二人が、2001年に提唱した。日本では、2016年頃から注目されている。誰しも、上司からの指示、会社の意向でやらされているという気持ちでは、仕事に対するモチベーションは上がらない。単なる作業と化してしまうからだ。それを、従業員が自ら進んでやっている。そうした気持ちに変えていくのが、「ジョブ・クラフティング」と言える。

「ジョブ・クラフティング」の本質を理解するために、良く用いられる話がある。経営学者であるピーター・ドラッカーによる「3人の石工」だ。それぞれの石工に「何をしているか」という質問を投げかけたところ、1人目は「親方の命令でレンガを積んでいる」、2人目は「レンガで塀を造っている」、3人目は「人々がお祈りをするための大聖堂を造っている」と答えた。

それぞれの石工にどのような違いがあるか。1人目は上司の命令に従っているだけであるのに対して、2人目は職人の仕事と捉え、3人目は仕事の意義を感じ主体的に取り組んでいることが分かる。この3人目のようなモチベーションを持てるようにするのが、「ジョブ・クラフティング」の目指すところとなってくる。

●「ジョブ・クラフティング」が注目されている理由

一点目は、旧来の日本企業で一般的であったトップダウン方式が、時代にそぐわなくなってきたことが言える。ユーザーニーズの多様化・複雑化などもあって、上司からの指示を粛々とこなしていれば成果が導けるという甘えが許されなくなっている。二点目は、従業員の価値の多様化だ。もはや、組織の歯車として与えられた仕事をこなすだけの働き方で満足できる人は少なく、仕事にやりがいを求める人が増えている。そして、三点目はイノベーションを創発するには、従業員の情熱が不可欠であるという意見が高まっていることだ。そうした企業風土を醸成するためにも、従業員の意識を高める仕掛けが必要になってきている。

●ジョブ・デザインとの違い

「ジョブ・クラフティング」に類似した言葉に、ジョブ・デザイン(職務設計理論)がある。いずれもモチベーションに関する理論である点は共通しているが、それぞれの内容は全く異なっている。端的に言えば、ジョブ・デザインは、経営者のための理論だ。従業員がやりがいを持って取り組めるよう、経営者が仕事を設計し、割り振っていくことを言う。ここでは従業員は、あくまでも与えられた仕事をこなす受身の存在と位置づけられている。一方、「ジョブ・クラフティング」は、従業員の主体的な行動や創意工夫を促す考え方である。

「ジョブ・クラフティング」の3つの目的

次に、「ジョブ・クラフティング」の目的について取り上げよう。

(1)業務の捉え方を変える

まずは、「ジョブ・クラフティング」には、業務の捉え方・進め方を変える目的がある。自分の仕事を単に作業と捉えているだけでは、何の工夫も生まれない。「こうしたら、もっと流れがスムーズになるのでは」と考え創意工夫していく必要がある。仕事への「動機」や「情熱」、「強み」を基に、業務の捉え方を変えていけば、パフォーマンスの向上が期待できる。

(2)仕事の意義を捉え直す

現在行っている仕事の意義を再定義するというのも、「ジョブ・クラフティング」を行う目的の一つだ。毎日同じ仕事をしていると、こなすだけになりがちである。「この仕事は何のために行っているのか」、「どう役立っているのか」、「仕事を行う上で何に喜びを感じているのか」などを自分に問い直すことで、「やりがい」を見出しやすくなるはずだ。

(3)人間関係の捉え方を変えてみる

人間関係をどう捉えるかも、仕事のやりがいに大きく関わってくる。「ジョブ・クラフティング」により、利他的なモチベーションを持てるようになると、これまで以上に顧客や同僚とのコミュニケーションが円滑になる。人間関係が豊かになれば、新たな刺激を受けやすくなるし、チームとしての一体感も高まって来るのでパフォーマンスの最大化に繋がりやすい。

気になる「ジョブ・クラフティング」の効果

次に、企業や組織にとって「ジョブ・クラフティング」の効果はどんなものがあるのかを見てみよう。

●社員に主体性が生まれる

「ジョブ・クラフティング」は、仕事に対する従業員の姿勢を大きく変えてくれる。これまで受身でしかなかった従業員が、主体的・自主的に取り組めるようになるからだ。プロ意識を身に付けるためにも有効であると言える。

●人材配置やリーダー育成に有効

仕事に対して主体的になると、自分が果たすべき役割を明確に理解し、それを全力で遂行しようとする。自ずと、それぞれの強みを活かした適材適所の人員配置が出来上がっていき、その過程でリーダーシップを発揮する従業員も出てくる。そのため、リーダーの育成も円滑に進むだろう。

●創造的なアイデアが生まれやすい

単なるルーティンとして捉えるのではなく、主体性を持って創意工夫を繰り返していくことで、自ずと創造的なアイデアが生まれやすくなる。発想もダイナミックに転換することができれば、今までになかったような画期的な製品を開発することもできるはずだ。

●従業員満足度の向上

「ジョブ・クラフティング」により、仕事にやりがいが生まれると組織に対する参画意識も高まってくる。そうなると、従業員の満足度は自ずと向上する。結果として、離職率を下げることができ、新たな人材の採用もスムーズに進めていけるだろう。

「ジョブ・クラフティング」に取り組むうえでおさえておきたいポイントとは

「ジョブ・クラフティング」に取り組むにあたり、留意したいポイントがいくつかある。

●主体性が発揮できる余地はあるか

まずは、従業員が主体性を発揮できる余地を残しておくことだ。「仕事のやりがい」が重要であると言っても、上司から押し付けられたくはない。また、従業員が自主的に色々なアイデアや工夫を提案しても、上司がそれらをすべて否定するような職場であるのも問題だ。従業員の主体性・自主性をしっかりと認める姿勢が求められる。

●仕事が属人化していないか

属人化とは、個人の裁量にあまりにも任せすぎてしまい、他の人が代替できなくなる状態を言う。これでは、組織としては好ましくない。また、自主性について「自我を出すこと」と誤って捉えてしまうと、上司や同僚のアドバイスを聞かなくなり、周囲への気くばりを欠いた行動をしがちなので注意しなければいけない。

●チームワークに影響が出ないか

個人が主体的に取り組むのは良いが、その意識が強すぎてしまうとチームワークに悪い影響を及ぼしてしまう。バランスをいかに取るかを考える必要がある。

●業務を見つめ直す機会を提供しているか

人事部が、従業員にいきなり「自分の業務を見つめ直してください」と呼びかけても、実際にはなかなか難しい。まずは、業務について深く考えるきっかけを提供してみてはどうだろうか。例えば、「ジョブ・クラフティング」を学ぶ研修やワークショップを行うのも有効だ。参加者を同じ職位にあえて限定すると、さらに効果が期待できる。悩みや課題を共有しあえるからだ。

●やりがい搾取になっていないか

やりがい搾取とは、「やりがいが報酬である」と会社が押し付け、低賃金・長時間労働を従業員に強いることを言う。やりがいは、従業員自らが見出すべきものだというのが、「ジョブ・クラフティング」の考えだ。従業員自身が、自分にとって「仕事とは何か」、「労働とは何か」を日頃からしっかりと確立しておかないといけない。

「ジョブ・クラフティング」の企業事例を解説

最後に、「ジョブ・クラフティング」の企業事例として東京ディズニーリゾートのケースを紹介したい。東京ディズニーリゾートに行くと、どのスタッフも活き活きと働く様子に感動を覚える。例えば、清掃スタッフは、ただ黙々と園内の掃除をしているだけではない。来場者に少しでも楽しんでもらおうと、バケツの水で地面にキャラクターの絵を描いたり、ユーモアを交えて道案内をしたり、写真を撮影してあげたりなどと、創意工夫をしながらもてなしている。実は、東京ディズニーリゾートの清掃スタッフは「カストーディアルキャスト」と名付けられている。来場者を楽しませるキャストの一員であるわけだ。まさに、「ジョブ・クラフティング」のお手本となりえる事例と言えよう。
毎日の仕事が、すべてクリエイティブというビジネスパーソンはどれくらいいるだろうか。どうしてもルーティンの業務を担当することが誰しもあるだろう。ただ、マンネリに陥っても致し方ないと諦めてしまうか、それとも、仕事に対する視点や捉え方を変え、新たな喜びや楽しみを見出していくかで、大きな差が生まれる。後者を志向する組織に、「ジョブ・クラフティング」は大いに役立つ。従業員の主体性・自主性を高め、生産性の向上をもたらしてくれるからだ。従業員が当事者意識を持って仕事に取り組んでくれれば、企業の業績は間違いなく向上する。いくつか留意点はあるものの、これを機に「ジョブ・クラフティング」の導入・推進をぜひ検討してみてはいかがだろうか。
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