「採用マーケティング」とは、マーケティングの視点と手法を取り入れ、学生や求職者のニーズを把握したうえで戦略的に採用活動を進めていくことを意味する。少子高齢化に伴う採用の激化、IT技術の発展、価値観の多様化などを背景に、効率的で効果的な採用を実現するものとして注目を集めている方法論だ。本記事では「採用マーケティング」の定義やメリット、具体的な手法などについて解説する。

「採用マーケティング」とは? 実践に欠かせない「ファネル」、「ペルソナ」など重要キーワードも解説

「採用マーケティング」とは、マーケティングの考え方を取り入れた採用活動を意味する。優秀な人材の効率的・効果的な採用が可能なものとして、急速に広がりを見せている手法だ。

どれだけ優れた商品を開発しても、ただ店頭に並べるだけでは大量に売ることはできない。市場調査やPR、さらには品質とコストの管理、輸送や販売ルートの確保など、緻密な販売戦略に取り組んではじめてヒット商品は生まれる。こうした市場活動が、いわゆるマーケティングだ。

マーケティングの手法は、採用活動の強化にも役立つ。学生や求職者のニーズを見極め、自社が必要とする人材を正しく設定し、さらには自社のセールスポイントを整理。そのうえで、ターゲットとなる人材に対して効果的なアピールを実行する。そうした活動こそが優秀な人材の獲得につながるのである。

「採用マーケティング」の実践にあたって、理解しなければならない2つの重要なキーワードがある。それは「ファネル」と「ペルソナ」だ。

●「ファネル」

「ファネル」とは、液体や粉末を容器へと流し込む際に使われる器具、漏斗(ろうと)・じょうごを意味する英語だ。

マーケティングの世界では、人が商品を購入するまでの流れが、この「ファネル」に当てはめられることになる。まず大勢の消費者が商品を認知し、その中の何割かが商品に興味を持ち、さらに何%かの人が他の類似商品と比較、あるいは自身の趣味嗜好・ライフスタイルと照らし合わせて購入を検討し、一定数の人が実際に購入へと至るわけだ。

この流れを採用活動に置き換えると、多くの人がある会社の存在を認知し、その事業内容や社風に興味を持ち、同業他社などとの比較および自身のライフスタイルとの照合を経て、一定数の人が実際に応募・入社する、ということになる。

企業にとっては、この認知から応募・入社へと至る各ステップにおいて、適切な打ち手を繰り出すことが重要だ。広く自社を認知してもらうためにはどうするか、どのようにして興味を抱いてもらうか、就職・転職先候補として比較・検討・応募してもらうためには何が必要か……。「ファネル」を意識することで、各採用プロセスにおける課題が明確になってくるのである。

●「ペルソナ」

「ペルソナ」とは、商品を買ってくれるユーザー像を意味する。採用活動においては「自社が求めている人物像」といい換えることが可能だ。

各企業は採用活動において「どんな人材が必要か」を定義しているはずだが、「採用マーケティング」ではより明確に「ペルソナ」を設定することが重要となる。自社を認知してくれた人たちの中から、どのようにして興味、比較・検討、応募と絞り込んでいくか。その過程においては、なるべく具体的に「ペルソナ」を設定しなければならない。年齢や家族構成、学歴・職歴、専門知識とそのレベル、趣味嗜好、仕事と生活に対する価値観……。さまざまな角度と要素から「ペルソナ」を設定し、その「ペルソナ」に向けてもっとも効果的なアプローチ方法を実践することが求められる。

このように「ファネル」と「ペルソナ」を意識した「採用マーケティング」は、ただ求人募集をして応募を待つのではなく、本当に欲しい人材を戦略的に採りに行く“攻めの採用”といえるだろう。

「採用マーケティング」が注目される3つの背景とは

「採用マーケティング」が注目されるようになった背景としては、3つのファクターがあげられる。

(1)採用市場の激化

少子高齢化による人手不足が進み、どの企業も人材の確保に苦しんでいる。ましてや自社が本当に求めている人物の採用は困難を極め、優秀な人材は獲得合戦の様相だ。また新卒採用ルールの撤廃により、通年採用の常態化、採用活動・就職活動の長期化が予想されている。そうした状況下で優秀な人材を採用するためにも、企業側から積極的かつ戦略的にアプローチしていく必要が生じているのだ。

(2)IT技術の高度化と手法の多様化

IT技術の発展により、インターネットを通じての採用活動・学生の意識調査・データ分析、さらにはダイレクトリクルーティングが一般化し、リモートによるインターンシップや選考も普及し始めている。これら多彩な手法を効率的に取り入れられるのも「採用マーケティング」の強みだ。

(3)価値観の多様化

一括採用、画一的な労働、集団的な育成、終身雇用などは、すでに過去の遺物となっている。「自分にとって最適のタイミングで就職したい」、「給与より働きがいやワークライフバランスを重視する」、「転職に抵抗がない」、「個性や資質を生かせる仕事に就きたい」……など、労働者の価値観は多様化している。

そうした中から、自社にふさわしい人材、定着してくれる人物を確実に採用するためには、的確な採用活動を行わなければならない。それを実現するものこそ「採用マーケティング」であり、時代に適応した手法といえるだろう。

「採用マーケティング」を進めるための5つのプロセス

「採用マーケティング」は、以下の5つのプロセスによって成り立っている。

(1)自社分析

自社の魅力を効果的にアピールするためには、まず自社の経営理念・経営戦略、事業内容・商品・サービスなどを分析し、セールスポイントとウイークポイントを整理しなければならない。アンケート、インタビュー、リサーチ会社への依頼など、外部からの視点で分析を試みることがベターだ。

(2)「ペルソナ」の設定

自社分析をもとに、どんな人材が必要か、どのような人であれば興味を持ってくれるのか、どんな人物が実際に応募してくれそうか……などを見極める必要がある。前述した「ペルソナ」の設定=採用ターゲットの明確化である。

(3)ニーズの調査

設定した「ペルソナ」が企業や仕事に対して何を求めているのか把握しなければならない。たとえば「自分の資質を最大限に生かしたい人」は実績に基づく評価を望んでいるだろうし、「プライベートを充実させたい人」は残業の少なさや有給休暇の消化率などを重視するかも知れない。

(4)効果的なアプローチ方法の検討

「ペルソナ」と「ファネル」を意識しつつ、誰に、何を、どのようにしてアピールするか、適切な情報を適切な手法で発信する必要がある。効果的な施策を検討・準備することが大切だ。

(5)施策の実施と継続的な改善

「ファネル」と「ペルソナ」を意識したアプローチが効果を発揮しているのか、検証作業も重要だ。発信した情報は正しく相手に届き、理解してもらえたのか。設定した「ペルソナ」に対して有効な情報内容と手法だったのか。効果が認められなければ、施策の改善も必要となるだろう。いわゆる“PDCA”に取り組むことも「採用マーケティング」では必要なのだ。

「採用マーケティング」の3大メリット

「採用マーケティング」を導入することで得られるメリットは、主に以下の3点であるといえる。

(1)必要とする人材・優秀な人材からの応募増

採用ターゲットに対して効果的・積極的な採用活動を実現する「採用マーケティング」は、当然、自社が必要とする人材・優秀な人材へのアピール力が大きくなる。“待ちの採用”に比べ、応募者に占める「採りたい人」の比率は高まるはずだ。

(2)自社と人材のマッチング

上記とも関連するが、「ペルソナ」を意識した採用活動によって、応募・入社してくれる人材と自社とのマッチングも高まる。内定辞退やミスマッチによる早期退職の防止にもつながるだろう。

(3)コスト削減

「ファネル」と「ペルソナ」を意識し、ターゲットに対して効果的なアプローチ方法に絞って採用活動に取り組めば、広告費などの削減が可能だ。ミスマッチ防止と人材の定着率向上も期待できるため、長期的な視点でもコスト削減が見込める。

「採用マーケティング」に取り組む際のポイントは、魅力ある組織作りやデータ活用

「採用マーケティング」においては、社内の体制や意識の面で注意しておくべき事柄もある。

●魅力ある組織作り

マーケティング能力が優れていても、商品そのものに魅力がなければヒット商品にはならない。採用活動においても、まずは自社が魅力的な企業であることが肝心だ。自社分析の結果によっては、社内の体制を見直し、より魅力的な組織づくりに取り組むことも求められる。「採用マーケティング」を進めるにあたって、社内各所から適切なサポートを得られるような組織に変革する必要もある。

●データの収集と活用/システムの整備

これまで必要な人材の設定や書類選考・面接などにおいては、採用担当者の経験が重視されてきた。だが「採用マーケティング」では、より緻密な「ペルソナ」の設定と、ターゲット人材に対する効果的なアプローチが重要となる。そのためには客観的なデータが不可欠だ。

各種のリサーチやサーベイの結果、人材管理システムに蓄積されたデータをもとに、自社のどこに魅力を感じてもらえているのか、どのような人材が活躍できているのかなど、細かく分析し、その結果を採用活動に生かすべきである。「ファネル」の各ステップでの適切な採用活動とPDCAを実現するために、採用管理システムを整備することも重要だろう。

「採用マーケティング」に欠かせない3つのメディア

「採用マーケティング」では、「ファネル」の各ステップにおいて、さまざまなメディアを使い分けることが採用活動の有効性と効率化を押し上げることになる。

(1)ペイドメディア

「ペイドメディア」とは、お金を支払って求人広告や各種情報を掲載してもらう求人サイト/求人情報誌などのことを指す。大多数に向けて情報を発信するメディアであるため、自社について広く認知してもらうのに有効といえる。

(2)オウンドメディア

「オウンドメディア」とは、自社が独自に所有するメディアのことである。最近では、自社サイトの採用情報ページを拡充し、動画による業務内容の紹介、先輩社員インタビュー、入社後キャリアアップの具体例を発信するなど、「オウンドメディア」の運用に力を入れている企業が増えている。ターゲット人材へ向けてダイレクトに質の高い情報を提供できるため、「採用マーケティング」に欠かせないツールといえる。

(3)アーンドメディア

「アーンドメディア」とは、消費者やユーザーが自ら情報を発信するメディアのことで、主として「Facebook」、「Twitter」、「Instagram」、「LINE」といったSNSのことを指す。「アーンドメディア」によって適切な情報が拡散されれば、自社の認知度・好感度・信頼度の上昇が期待できる。多くの学生にとってSNSは、もっとも身近な情報収集ツールであり、また判断材料ともなっていることから、「アーンドメディア」の活用は「採用マーケティング」における最重要課題であるといえるだろう。

「採用マーケティング」を成功へと導くために

あらためて「採用マーケティング」に必要なことを整理しておこう。まず準備段階として、自社の魅力や弱みを客観的に分析し、ターゲットとなる人材=「ペルソナ」を適切に設定する。何を、誰に対してアピールするのかを明確にしておく。実践段階では「ファネル」の各ステップに応じて、認知度の上昇、興味を惹くアピール、比較・検討のための材料提供などを進める。もちろん各段階で意識すべきなのはターゲット人材の人物像=「ペルソナ」であり、3つのメディアを使い分けて、適切な情報を適切な相手に届けることが求められる。

より具体的には、「ペイドメディア」や「アーンドメディア」によって認知度アップを図り、「オウンドメディア」を通じて訴求力を高め、全メディアを活用して「この企業で働きたい」と思ってもらう、ということになるだろう。できれば選考・内定承諾から入社までの期間にも、「アーンドメディア」を利用して内定者のフォローにも取り組みたいところだ。これらを効率的かつ効果的に、そして組織的に実践できるかどうかが、「採用マーケティング」における大きなポイントである。
  • 1