そこで本レポートでは、本調査の全体傾向についてHR総研で分析・考察した結果を以下に報告する。
本調査の回答者属性
調査に参加した回答者の属性として、所属する企業の従業員規模と業種の内訳について以下に示す。
【回答者の所属する企業の従業員規模 内訳】

【回答者の所属する企業の業種 内訳】

「信頼・互恵」が最も高く、職場の信頼関係に新入社員の満足度が高い傾向
まず、エンゲージメントレベルに影響を与えうる9つの「規定要因」について、5段階評価の平均値を確認する。なお、規定要因は、主に従業員体験の項目で構成されている。
今回調査(2024年度)と前回調査(2023年度)の結果について、各調査に参加した新入社員全員の平均値を比較すると、9つの項目ほぼ全てで前回より今回の方が高い値となっており、レベル3~4の間にあることが分かる。なかでも「会社支援」は前回の3.52から3.74へと、0.22ポイントも向上している。
今回調査では、最も高い値となっているのが昨年と同様に「信頼・互恵」で3.94、逆に最も低い値となっているのが「自律性」で3.37である(図表1-1)。入社して1年間で、職場の先輩や上司、同期社員との信頼関係を構築できていると感じている一方、仕事を覚え始めた現段階においては上司や先輩の指導の下で業務を行うことが多く、自身の判断で業務遂行できる場面は多くないと感じる新入社員が多い傾向となっている。
【図表1-1】「規定要因」項目別スコアの平均値(5段階評価)

この規定要因項目別スコアの平均値について、従業員規模別に1,001名以上の大企業、301~1,000名の中堅企業、300名以下の中小企業の3区分に分けて比較する。
企業規模別に各項目を比較してみると、まず、ほとんどの項目について中小企業が大・中堅企業より高い平均値となっていることが分かる。また、平均値の上位3項目は中小企業で「評価プロセス」の4.17、次いで「信頼・互恵」4.14、「会社支援」が4.07となっている。特に、「評価プロセス」(上司が自分の仕事ぶりを正しく丁寧に見て評価し、その評価結果について自分に対して納得いく説明をしているかを評価する項目)と「信頼・互恵」(職場のメンバー同士の人間関係を評価する項目)については大・中堅企業でも3.8以上で比較的高く、新入社員が職場メンバーや上司との信頼関係を築くことができていると推測される。
一方、平均値の下位3項目については、すべて「自律性」となっており、最も低いのは中小企業で3.34、次いで大企業と中堅企業でともに3.38となっている。この「自律性」の意味するものは、仕事を自分の想定したプラン通りに進行できているか、自分の判断で進め方を変更できるなどの裁量権があるかなどを評価するものであり、新入社員のうちは裁量権が大きくなくて当然でもあるため、この項目のスコアが高くなくても必ずしも大きな問題とはいえないと考えられる。ただし、Z世代の若手社員は自身の早期成長が感じられキャリアプランの実現ができる企業で働きたいと考える人が少なくないと言われており、今後、少しずつ彼らの自律性を尊重した業務指示を意識する必要もあるだろう(図表1-2)。
【図表1-2】従業員規模別 「規定要因」項目別スコアの平均値(5段階評価)

業種別に見ると、最も高い値となっているのが「金融」の「フィードバック」で、平均値4.36と4を超える高い水準であることが分かる。「フィードバック」とは、自分の仕事の成果に関する情報にどれだけ触れることができているかを評価する項目で、上司だけではなくクライアントを含む社内外からの感謝や指摘による情報もこれに含まれる。これに次いで、同じく「金融」の「評価プロセス」(4.29)や「信頼・互恵」(4.14)、「マスコミ・コンサル」の「評価プロセス」(4.17)となっている。ただし、「マスコミ・コンサル」の回答数は3件と非常に少ないため、参考値としてみていただきたい。これらに次いで高い項目を見ると、「運輸・不動産・エネルギー」の「明確性」が4.09、「金融」の「多様性」が4.07などとなっている。「明確性」は期待される役割や成果が明確である程度を、「多様性」は職務内容がどの程度変化に富み、多様性があるかを評価する項目である。これら2項目を両立した業務指示は難易度が高いものだが、「運輸・不動産・エネルギー」と「金融」では、「明確性」と「多様性」の両項目とも全体平均値より高い水準となっており、比較的バランスの良い職務内容であることがうかがえる。
一方、最も低い値は「マスコミ・コンサル」の「会社支援」で3.00、これに次ぐ項目も「マスコミ・コンサル」の「多様性」、「自律性」、「重要性」、「処遇」で3.17となっている。ただし、前述のとおり「マスコミ・コンサル」の結果は参考値として、これらに次いで低い項目を挙げると、「運輸・不動産・エネルギー」の「自律性」が3.25となっている。「明確性」が高い一方で、自分の判断で悩みながら自律的に進める業務には不足感があるようだ(図表1-3)。
【図表1-3】業種別 「規定要因」項目別スコアの平均値(5段階評価)

24年度新入社員のエンゲージメントは前年よりやや高い、特に中小企業が高水準
次に、「エンゲージメント」3項目について5段階評価の平均値を確認する。
なお、エンゲージメントには、主に自身の仕事に対する愛着や熱意などを示す「職務エンゲージメント」、実際に仕事で関わる頻度の高い職場環境に対する愛着や貢献意識などを示す「職場エンゲージメント」、会社全体に対する愛着や貢献意識などを示す「組織エンゲージメント」の3項目がある。前述した規定要因の状態が、エンゲージメントの向上にどのように影響しているかを分析で把握し、エンゲージメント向上に効果的なポイントを抽出することができる。
まず全体では、前回調査時より今回調査の方が、平均値がやや高くなっている。項目ごとに見ると「職務エンゲージメント」は3.57、「職場エンゲージメント」が3.63、「組織エンゲージメント」は3.39で、前回調査時と同様に「組織エンゲージメント」は他2項目よりやや低くなっている(図表2-1)。2024年度新入社員においても、自身が担当している職務や日頃関わりの多い職場メンバーへの愛着は高いものの、会社全体への愛着はあまり強く醸成されていないことがうかがえる。
【図表2-1】「エンゲージメント」項目別スコアの平均値(5段階評価)

従業員規模別に見ると、全てのエンゲージメントにおいて中小企業の平均値が最も高くなっており、中でも「職務エンゲージメント」が最も高く3.82となっている。一方、最も低いのは中堅企業の「組織エンゲージメント」で3.33となっている(図表2-2)。いずれの従業員規模でも「組織エンゲージメント」が他2項目より低い傾向は同じで、入社した会社に対する誇りや企業理念・パーパス対する共感が十分に持たれていないことが背景にあると考えられる。今後、上司や先輩社員との対話等を通じて、日常的に自社の経営理念やパーパスについて社員からの共感が得られるための働きかけを、積極的にしていくことが必要だろう。
【図表2-2】従業員規模別 「エンゲージメント」項目別スコアの平均値(5段階評価)

業種別に見ると、「金融」の「組織エンゲージメント」が最も高く3.79となっている。回答数が7と少ないため業種の傾向としては参考値ではあるが、前述のとおり、全体では「職務/職場/組織エンゲージメント」の3項目中で最も低い状態にあることを踏まえると、特徴的な状態といえるだろう。これに次いで「サービス」の「職場エンゲージメント」が3.76となっており、職場メンバーに対して強い愛着や誇りを持っていることがうかがえる。規定要因の「信頼・互恵」の平均値が4.01で高水準となっていることからも、職場で日常的に協働するメンバー同士の信頼関係が着実に構築され、職場エンゲージメントに繋がっていることが推測される。
一方、「マスコミ・コンサル」の「組織エンゲージメント」が最低で2.83、次いで同じく「マスコミ・コンサル」の「職場エンゲージメント」が3.00、さらに「商社・流通」の「組織エンゲージメント」が3.32となっている。「商社・流通」に関しては、規定要因の「フィードバック」(3.40)、「重要性」(3.40)が他の項目よりやや低いことを踏まえると、自身の業務が会社や社会にどのように貢献するものなのか、意義があることなのかを感じづらい状態にある新入社員が少なくないと推測される。これにより「組織エンゲージメント」が低くなりやすい傾向となることも考えられるため、新入社員の業務の重要性を丁寧にかみ砕いて分かりやすく伝えることで、会社に対する愛着心が芽生えることも期待される。とはいえ、中央レベルである3.00より高い値であり、強く懸念する必要はないだろう(図表2-3)。
【図表2-3】業種別 「エンゲージメント」項目別スコアの平均値(5段階評価)

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【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】2024年度新入社員のエンゲージメント合同調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2025年2月4日~28日
調査方法:参加申込した企業の新入社員が、各企業専用URLから『エンゲージメントコンパス』にアクセスして回答
調査対象:参加申込した企業に2024年4月より新卒入社された新入社員の方
参加社数:30社
有効回答数:539件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
3)HR総研へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
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・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
※本レポートは全体傾向からの分析であり、個別企業ごとの分析では異なる結果となる可能性があります。個別の分析を希望される場合には、HR総研までお問い合わせください。
※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、HR総研までお問合せください。
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