女性活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良な事業主に対する認定である「えるぼし」を取得する企業が増加している。同認定は、2016年4月1日より施行された女性活躍推進法に基づくもので、2018年4月20日現在で、578の企業が認定を受けている。本記事では、「えるぼし」取得企業の実例を見ながら、企業における女性活躍推進について考えてみたい。
「えるぼし」認定企業増加~女性活躍推進をアピールして優秀な人材獲得のきっかけに

「えるぼし」認定の概要と認定のメリット

女性活躍推進法では、国・地方公共団体と従業員数301人以上の大企業について、自社の女性活躍に関する状況把握および課題分析と、その課題を解決するための数値目標・取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、ならびに自社の女性活躍に関する情報の公表が、義務化されている。

この行動計画の策定・届出を行った事業主のうち、女性活躍に関する取り組みの実施状況が優良な事業主は、都道府県労働局へ申請することにより、厚生労働大臣の認定を受けられる。この認定を受けた企業が表示できるマークが、「えるぼし」だ。マークにも採用されている「L」の文字には、「Lady」(女性)、「Labor」(労働)、「Laudable」(賞賛に値する)といった意味が込められている。

「えるぼし」の認定基準は、以下の5つ。

・採用
男女別の採用における競争倍率が同程度。

・継続就業
女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数=0.7以上 など。

・労働時間等の働き方
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」< 45時間

・管理職比率
管理職に占める女性労働者の割合が産業ごとの平均値以上 など。

・多様なキャリアコース
直近の3事業年度のうち、以下のA~Dについて、大企業は2項目以上、中小企業は1項目以上の実績がある。
A.女性の非正社員から正社員への転換
B.女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換
C.過去に在籍した女性の正社員としての再雇用
D.おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用

上記の基準をどれだけ満たしているかによって、認定は3段階に分けられる。

認定企業は、商品や求人広告・求人票、名刺、広告などに「えるぼし」を付与することが可能だ。そのことで、女性活躍推進に積極的な企業であることをアピールでき、優秀な人材確保や企業イメージの向上につながることが期待される。さらに、公共調達における優遇措置があったり、日本政策金融公庫による低利融資の対象となったりするなど、企業にとってメリットの大きい制度となっている。

働き方改革によって加速する「えるぼし」認定企業の増加

「えるぼし」認定企業の増加には、2017年3月に働き方改革実行計画が決定されたことも影響していると考えられる。2016年6月30日現在の認定企業は105、同年12月31日現在は215で、半年で110の増加だった。2017年6月30日現在の認定企業は360と、半年で145の増加、同年12月31日現在では499となり、半年で139の増加。認定企業の増加は次第に拍車がかかっている。

大企業だけでなく、従業員規模300名以下の中小企業も認定を受けている点も見逃せない。2018年4月20日現在では、127の中小企業が「えるぼし」の認定を受けている状況だ。

今後も、働き方改革の影響で、えるぼし認定を目指す企業は増加していくことが予想されるだろう。

「えるぼし」認定企業の事例

実際に「えるぼし」認定を受けている企業は、どのような施策を行っているのだろうか。以下で具体例を紹介する。

【事例1:TIS株式会社】
システムインテグレーター事業を展開するTIS株式会社は、2018年3月、「えるぼし」の最高位認定を取得。同社は女性のキャリア形成支援に積極的で、たとえば、女性の管理職昇格に向けた面談を実施したり、産育休前や復職前には、ガイダンスや、人事と上司を交えた3者面談を実施したりしている。リクルーティングサイトにおいて女性活躍に関するコンテンツが充実していることからも、女性活躍推進への積極的な姿勢が見て取れるだろう。

また、同社は女性だけにとどまらず、多様な人材が活躍できる制度整備にも尽力。たとえば、1ヵ月単位で選択できる時短制度・フレックス制度や、2時間から利用できる在宅勤務制度などの先進的な取り組みを行っている。さらに2018年4月からは、「働き方推進室」を設置し、本格的なダイバーシティ政策への取り組みを実施しているようだ。

【事例2:株式会社シーボン】
化粧品メーカーである株式会社シーボンは、2017年2月に「えるぼし」最高位認定を取得。同社は社員の女性比率が9割以上、管理職142人のうち女性が124人で、女性管理職比率87.3%を達成。東洋経済新報社による「女性管理職が多い会社50社ランキング」では、2年連続1位に輝いた。

具体的な施策としては、短時間勤務であってもフルタイム正社員と同等の福利厚生を受けられる「ショートタイム正社員制度」や、一度退職した社員の再就職を支援する「ウェルカムバック制度」を整備。出産・育児と仕事の両立に役立つ個性的な制度となっている。ほかにも、育児休業期間の延長、育児短時間勤務期間の延長など、女性が働きやすい環境が整えられている。

このような施策の結果、2010年度に5.3年だった女性の平均勤続年数が、2016年度では8.1年まで増加したという。

【事例3:株式会社フィナンシャル・エージェンシー】
フィンテック事業を展開する株式会社フィナンシャル・エージェンシーは、2017年3月に「えるぼし」の最高位認定を取得。2015年度から、女性の採用比率は50%以上の高い比率で推移している。

同社における女性活躍の代表的な取り組みとしては、出産・育児などで休職中の女性社員と人事担当者による交流会「ママコミュ会」が挙げられる。互いに育児に関する情報交換をし、社内制度について話し合う場ともなっているため、育児中の女性社員が制度を利用しやすくなり、また、人事が女性のニーズに合った制度を考えやすくなるといったメリットがある。

さらに福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」の活用により、託児所やベビーシッターの利用を支援。女性の働きやすさを実現するために、“男性の働き方の改善”を目指し、厚生労働省による「イクメンプロジェクト」サポーターを宣言している。

こうした取り組みの結果、同社の女性管理職比率は、金融業界における平均の8%を大きく上回る17%を達成しているようだ。

上記3つの事例を見てみると、女性活躍を推進し、「えるぼし」最高位認定を取得している企業の多くが、女性だけでなく、全社員の働きやすさを実現するための取り組みを行っていることがわかる。女性だけを優遇すると、特殊な働き方に対する社内の理解が進まず、制度利用が定着しないという問題点があるからであろう。

また、事例3にもあるように、女性が育児と仕事を両立しやすくするためには、男性の育児参画が必須だ。企業の人事は、女性をはじめとした従業員の意見をくみ取り、他社の優良事例も参照しながら、従業員ニーズの高い制度整備を行っていくのがよいだろう。


「えるぼし」認定は、人手不足が深刻化するなか、企業が優秀な人材を獲得するための有効なアピールポイントになる。すでに女性活躍推進の施策を行っている企業は、積極的に認定を目指すのがよいだろう。また、施策が進んでいない企業も、認定を目指して制度を改善・充実させることで、認定を得られるだけでなく、定着率向上などの効果を得られることが期待できる。今後もますます「えるぼし」の申請企業・認定企業の増加は加速するだろう。

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