2023(令和5)年4月、「こどもまんなか社会」をキーワードに『こども家庭庁』が設置され、『こども基本法』が施行されました。『こども基本法』は、国が大綱を定め施策を実施することとされ、2023(令和5)年9月29日に「今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)」(こども大綱の策定に向けた中間整理/以下、中間整理)が、こども家庭審議会によって取りまとめられました。今回はこの中間整理から、“「こどもまんなか社会」のために会社ができること”を考えていきます。
会社が「こどもまんなか社会」を考えることは、すべての従業員の働きやすさにつながる:2023年9月政府発「こども施策」から考察

はじめに:こども大綱が目指す「こどもまんなか社会」とは?

中間整理では、大綱が目指す「こどもまんなか社会」の副題として、『全てのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸福な生活を送ることができる社会』を掲げています。

さらに、中間整理で「こどもまんなか社会」を次のように説明しています。

「こどもまんなか社会」とは、全てのこども・若者が、日本国憲法、こども基本法及びこどもの権利条約の精神にのっとり、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、ひとしくその権利の擁護が図られ、身体的・精神的・社会的(バイオサイコソーシャル)に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる社会である。

※引用「中間整理」6ページより

そして中間整理では、「こどもまんなか社会」の具体的な内容として「全てのこどもや若者が、保護者や社会に支えられ、生活に必要な知恵を身に付けながら」ということを前提に、次のような社会としています。

具体的には、全てのこどもや若者が、保護者や社会に支えられ、生活に必要な知恵を身に付けながら

●心身ともに健やかに成長できる。
●個性や多様性が尊重され、尊厳が重んぜられ、自分らしく、ひとりひとりが思う幸福な生活ができる。
●様々な遊びや学び、体験等を通じ、生き抜く力を得ることができる。
●夢や希望をかなえるために、希望と意欲に応じて、のびのびとチャレンジでき、将来を切り拓くことができる。
●固定観念や価値観を押し付けられず、自由で多様な選択ができ、自分の可能性を拡げることができる。
●自らの意見を持つための様々な支援を受けることができ、その意見を表明し、社会に参画できる。
●不安や悩みを抱えたり、困ったりしても、周囲のおとなや社会にサポートされ、問題を解消したり、乗り越えたりすることができる。
●虐待、いじめ、暴力、経済的搾取、性犯罪・性暴力、災害・事故などから守られ、困難な状況に陥った場合には助けられ、差別されたり、孤立したり、貧困に陥ったりすることなく、安全に安心して暮らすことができる。
●働くこと、また、誰かと家族になること、親になることに、夢や希望を持つことができる。

社会である。

※引用「中間整理」6ページより

具体的に示されている内容のすべてが、こどもの成長に添った順で示されているとは限りませんが、示されたことの積み重ねが、最後の「働くこと、また、誰かと家族になること、親になることに、夢や希望を持つことができる」という部分につながっていると捉えることができます。

ポイント:「こどもまんなか社会」は『20~30代の若者のこと』も触れている

今まで法令で“こども”といえば、18歳・20歳など年齢で区切られていました。しかし「こども基本法」では、こどもを年齢で区切っていません。そのため、今回の中間整理のポイントとして、次のように『20~30代の若者のこと』にも触れられています。

そして、20代、30代を中心とする若い世代が、

●自分らしく社会生活を送ることができ、経済的基盤が確保され、将来に見通しを持つことができる。
●希望するキャリアをあきらめることなく、仕事と生活を調和させながら、希望と意欲に応じて社会で活躍することができる。
●それぞれの希望に応じ、家族を持ち、こどもを産み育てることや、不安なく、こどもとの生活を始めることができる。
●社会全体から支えられ、自己肯定感を持ちながら幸せな状態で、こどもと向き合うことができ、子育てに伴う喜びを実感することができる。そうした環境の下で、こどもが幸せな状態で育つことができる。

社会である。

※引用「中間整理」6~7ページより

先ほどの「働くこと」または「誰かと家族になること、親になること」に夢や希望を持つことができるためには、10代からその先の「こどもまんなか社会」を具体的に示す必要があります。そして『20~30代の若者のこと』に触れているということは、今まで以上に、国・地方公共団体だけでなく“事業主が果たす役割”に大きな期待を寄せているとも言えます。

実践:「こどもまんなか社会」に添って、社会保険を身近なものに

しかし慌ただしい日常の中で、新たに「こどもまんなか社会」の考えに添った取り組みをするにも、すぐに会社経営と結び付けることも難しいですし、大きな労力が必要なことも事実です。一方で、日常の取り組みを整理することが、結果として「こどもまんなか社会」の意図を汲んだ取り組みへ結びつくことも考えられます。

例えば、雇用保険・健康保険などについて、従業員に上記の「20~30代の若者に関する“こどもまんなか社会”」で示した4つの内容ごとに社会保険の給付内容を伝えるだけでも、従業員が「会社で働き続けることのメリット」や「誰かと家族になること、親になることのイメージ」を抱き、夢や希望を実現したい思いへとつながっていきます。

【実践例】
社会保険の給付内容を、中間整理「20~30代の若者“こどもまんなか社会”」で示した項目に応じて従業員へ伝える。

●自分らしく社会生活を送ることができ、経済的基盤が確保され、将来に見通しを持つことができる。
<活用できる社会保険>
・雇用保険:「基本手当(失業保険)」、健康保険:「傷病手当金」
・国民年金・厚生年金:「障害基礎年金・障害厚生年金」
など

●希望するキャリアをあきらめることなく、仕事と生活を調和させながら、希望と意欲に応じて社会で活躍することができる。
<活用できる社会保険>
・雇用保険:「教育訓練給付金」、「介護休業給付金」
など

●それぞれの希望に応じ、家族を持ち、こどもを産み育てることや、不安なく、こどもとの生活を始めることができる。
<活用できる社会保険>
・健康保険:「出産手当金」、「出産育児一時金」
・雇用保険:「育児休業給付金」
など

●社会全体から支えられ、自己肯定感を持ちながら幸せな状態で、こどもと向き合うことができ、子育てに伴う喜びを実感することができる。そうした環境の下で、こどもが幸せな状態で育つことができる。
<活用できる社会保険>
・健康保険:「家族療養費(被扶養者)」
など

「こどもまんなか社会」は、誰もが働きやすい環境を目指す“大切なヒント”

今までの日本の社会風土では、《こども》と《働く環境》を別々に考えることが多い傾向にあります。あらゆる法令などでこどもの年齢を定義するなどして《こども》を明確にすることは、こどもを守ることにつながります。また、育児休業のルールを定めるなど《働く環境》を明確にすることで、仕事と育児を両立する従業員を守ることにもつながります。

このように《こども》と《働く環境》のそれぞれについて考えることが大切な一方、《こども》と《働く環境》を結び付けて考える機会は少ない傾向にありました。別々に考えることで、一定の年齢の《こども》を守ることができたとしても、こどもが成長した先の《働く環境》が最善なものになるとは限りません。

「こどもまんなか社会」を考えることは、《こども》と《働く環境》を結び付け、「こどもの将来の社会」を考えることにつながります。「こどもの将来の社会」を考えることは、「今のおとなの社会」を考えることにつながり、《働く環境》の向上を目指すことにもつながります。

結果として「今のおとなの社会」を考えることは、《働く環境》の向上につながり、『すべての人がまんなかの社会』へ、つまり誰もが働きやすい環境へと導く可能性が開けていきます。

今回の中間整理「こどもまんなか社会」には、誰もが働きやすい環境への“大切なヒント”が隠されているのです。


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