変化の激しい時代において企業が持続的に成長していくためには、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値の創造に繋げていく必要がある。そうした中、昨今注目されているのが、経営戦略と人材戦略を連動させた「人的資本経営」だ。その重要性は日本でも年々認知されており、大企業を中心に取り組みが進んでいる。そこで今回は、『人材版伊藤レポート』で人的資本経営の方向性を示された一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏と、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長の島津 裕紀氏をお招きし、「人的資本経営」の現状や課題、取り組みのポイントについて語っていただいた。
日本企業は人的資本経営とどう向き合うべきか――実践のカギとなる「人材版伊藤レポート」と「人的資本可視化指針」を併せた活用
伊藤 邦雄 氏
著者:

一橋大学 CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄 氏

1975年一橋大学商学部卒業。 一橋大学教授、同大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。中央大学大学院戦略経営研究科フェロー。2015年に一橋大学CFO教育研究センター長に就任し、現在に至る。 無形資産やESG・SDGsに関する各種の政府委員会やプロジェクトの座長を務め、経済産業省プロジェクトでは「持続的成長への競争力とインセンティブ?企業と投資家の望ましい関係構築」報告書(伊藤レポート)」(2014)、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」報告書(人材版伊藤レポート)」(2020)、「人的資本経営の実現に向けた検討会」報告書(人材版伊藤レポート2.0)」(2022)を発表し、国内外から高い評価を受けている。現在、内閣府の「非財務情報可視化研究会)の座長を務める。

島津 裕紀 氏
著者:

経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長/未来人材室長 島津 裕紀 氏

2004年 経済産業省入省。航空機産業政策、新エネルギー政策、原子力政策などの担当の後、 大臣官房総務課政策企画委員を経て、2021年より現職。経産省の人材政策の責任者。 人的資本経営の推進、多様な働き方の環境整備、リスキル政策などを担当。

寺澤 康介
著者:

ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤 康介

1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、2007年採用プロドットコム株式会社(2010年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。

「人材版伊藤レポート」のこれまでの流れと世間の反響

寺澤 はじめに「人的資本経営」のこれまでの流れと現状について見ていきたいと思います。まず2020年9月に、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書ということで「人材版伊藤レポート」の第1弾が世に出ました。そして2021年6月には、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂に反映され、「人的資本への投資と開示」の強調。さらに2022年5月には、人的資本経営の実現に向けた検討会報告書と、実践事例集、人的資本経営に関する調査集計結果を併せた「人材版伊藤レポート2.0」が公開されました。この中で提示されたのが、人材版伊藤レポートのエッセンスを集約したものとも言える、「3P5Fモデル(人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素)」です。また実践事例集には、実践的な取り組みの参考になる情報として、先進的な19社の具体的な取り組み事例が掲載されています。ここまで簡単に振り返ってみましたが、これらに対する世の中の反響はいかがでしょうか。

伊藤氏 想定を超える反響をいただきました。そういう意味では本当に嬉しい限りですが、そもそもなぜこれほど大きな反響があったのかを考えると、いくつかの要因背景があるのではないかと思っております。一つは最近、人事や人材が経営課題に変わってきているということです。多くの経営者の皆さんが、人事・人材に関する自社の取り組みに問題意識や、場合によってはフラストレーションを感じ始めています。そういった経営者の皆さんが、「良いレポートが出たな」と関心を持っていただき、積極的に読んでいただいている印象です。加えて、これまで人事・人材戦略を語る研究会に投資家の皆さんがメンバーとして参加するということはなかったのですが、今回は参加していただいたこともあり、多くの投資家の皆さんからも非常に強い関心を寄せていただきました。これも流れを後押ししてくれている要因ではないかと思います。

島津氏 私も政策を担当する立場として、大変多くの事業会社の方々にご関心をいただき、これほどありがたいことはないと感じております。特に、これまで経済産業省の人材政策の担当部署にお問い合わせいただくのは、事業会社の人事担当の方ばかりでした。最近は人事担当の方のみならず、CFOや経営者の方からも直接お問い合わせをいただく機会が増えており、反響の広がりを実感しているところです。
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