社員や幹部が経営者に意見を言いづらくなっていく状態というのが二パターンあります。「経営者が聞く耳を持たない時」と「経営者が結果を出し続けている時」です。では、会社経営がうまくいっていない時に、どのようなことがよく起こるのでしょうか。
会議や日頃のコミュニケーションで、率直な意見やアイデアが出やすいようにするには

経営者が聞く耳を持たない時

会議や日頃のコミュニケーションで、率直な意見やアイデアが出やすいようにするには
危機感を持った幹部や社員などが、業績・業務改善などのために、考え抜いた意見を経営者に進言した際。「意見=自分への反対意見」と捉え、「自分の経営方針が間違っていると糾弾したいのか」と、感情的な対応をとったり、「その提案はここの詰めが甘いな」と、批評家のようににべもなく却下を繰り返したりする経営者の方がいます。

そのようなことが繰り返されていくと、せっかく意を決して提言した社員たちも、「これ以上社長に何を言っても無駄だ」、「この会社に未来はない」と、諦めの境地に入り、一部の社員は転職していき、残った社員もただひたすら日々、心を殺してルーチン作業をするだけの集団になっていきます。このような状態になると、誰もが経営者とコミュニケーションを取りたがらなくなっていきます。ますます経営者と社員との分断が広がり、業務でミスやアクシデントがあっても経営者から感情的に対応されるのを恐れ、報告もしたがらなくなるでしょう。その結果、ミスやトラブルが大きくなった時点で発覚し大変な損失が発生したり、ミスやトラブルを隠すために社員が不正をしたりしてごまかそうとする。そんなことが起こるような組織では、業績が好転することは非常に困難になっていきます。

日本人は、意見の違いに対して、「優劣」や「正誤」をつける傾向にありますが、「意見の違い」は「違い」でしかありません。意見が違うことよりも、意見が出ること自体はまだコミュニケーションが取れている「良い状態」だと経営者の方は認識していただくと良いと思います。

反面、幹部や社員の方々を見て気になるのは、「経営者への進言の仕方」について。他の社員や幹部がいる前で喧嘩腰や上から目線で「社長は現場のことを何もわかっていないですから」と言い放ったり、全社メールで社長への批判を展開するなどしたりする社員を見かけたことがあります。

しかし逆の立場に立ったら、そのようなことをされてその社員に対してどう思うでしょうか。そのやり方で「あ、そっか。自分は全然気が付かなかったよ。進言してくれてありがとう!」となるでしょうか。なるわけがありません。言っていたことが正しくても「人に恥をかかせやがって」と思う気持ちが先にくるのが普通の感情でしょう。そのような状態で、問題の解決がスムーズにできるわけがありません。余計にこじれるだけです。

ただ、なぜそんなことをしたのか事情を聞いていくと、「いくら丁寧に説明や提案をしても、社長が自分のことを小馬鹿にして聞く耳を持たなかったから感情が爆発してしまった」ということも、実際にはあります。

そのような時にはどうすればよいかというと、「敬意」を活用すると良いと思います。会社というのは、経営者が一番その会社のことを考えています。だけど、「考えていることがずれている」と言う方もいるかもしれません。おっしゃる通りです。考えてはいますが、それが正解とは限らないということです。けれど、考えていることは事実です。

もし私が社長に提案をするとしたら「社長がこの会社で一番会社のことを考えていらっしゃるのはよく理解しています」と、経営者が共感する事実を先に伝えます。その上で、「だから私の想いも一度じっくり社長に聞いて欲しいんです」と、ぐいっと社長に迫ります。そのように、どのような相手に対してもまず「敬意」を表して、その後に、自分の「希望」を伝えれば、相手は拒否する理由や選択肢が限りなく少なくなります。「まあ、聞くだけなら……」、「自分の日頃の苦労や苦悩を見てくれていたんだな……」と、冷静に話を聞いていただける状況を作り出すことができると思います。

経営者が結果を出し続けている時

無意識のうちに周囲が意見を言えなくなる状況に陥るのは、こちらのほうが多いかもしれません。経営者が常に結果を出し続けていると、周囲は懸念に感じることがあっても、経営者は結果を出し続けているので、言い出すタイミングがないのです。経営者ご自身から「皆さん何か懸念点はありますか」と声を発しない限りは、周囲は「社長もわかっていることだろう」、「余計なことを言って社長のペースを乱してはいけないから黙っていよう」という心理状態になっていきます。

しかし、組織がずっとうまくいき続けるということはなく、ある局面で組織が危機に陥った時に、経営者の立場として「どうしてこれだけの人が自分の周囲に居たのに、誰も自分に組織の危機を指摘してくれなかったのだろう」ということがしばしば起こります。

このように、経営者の判断が日頃から完璧で正しければ正しいほど、周囲は忖度してしまうことがあります。それは経営者の結果に対する「信頼」が一番の理由ですが、「社長に任せていれば全て問題ない」という「依存」や、「自分の意見より社長の考えのほうがきっと正しいのだろう」という「委縮」の側面もあるのです。

そのような状態に陥らないためには、経営者が結果を出している時ほど、経営者ご自身から「自分は今日の会議で何か間違ったことやおかしなことは言ってなかった?」、「この案はどう思う? 視点が抜けているところはないかな」など、会話の中で自然に周囲の社員や幹部が率直な意見を言えるような雰囲気を作ってみる。そうした機会の提供を行うことで、経営者に敬意があるがゆえに言い出せない周囲の意見なども、キャッチアップしやすくなると思います。

また、会議や日頃のコミュニケーションの中で、経営者や上席者から意見を言ってしまうと、それより下の層は、その影響を受けてしまい、似たような意見を言ったり、違う意見を言おうと思っていたのをやめてしまったりすることもあります。新入社員や中途入社など社歴の若い社員や部下から意見を言ってもらうと、バラエティに富んだ意見が出やすくなるのではないでしょうか。
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