「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が、2020年5月29日に可決・成立し、同年6月5日に公布された。この法改正は、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものだ。本改正により、2022年、2024年と段階的に「社会保険の適用」が拡大されることになった。本稿では、法改正のポイントや必要な準備について解説する。
2022年10月と2024年10月に「社会保険の適用」が段階的に拡大。50人超規模の企業は要チェック!

「社会保険の適用拡大」はどのように行われるのか

近年、少子高齢化の影響による労働力人口の減少や価値観の多様化により、非正規雇用等、多様な形で働く人が増えている。今回の「社会保険の適用拡大」は、上記のとおり、多様な就労を年金制度に反映するために実施される。

具体的には、下表のとおり、短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所(以下、「特定適用事業所」という)の企業規模要件(現行、従業員数500人超)が段階的に引き下げられ、来年2022年10月に100人超規模、その2年後の2024年10月に50人超規模となる。

社会保険の適用拡大要件早見表

社会保険の適用拡大要件早見表
主なポイントは次のとおりだ。

1.事業所規模要件の「従業員数」について

(1)社会保険の適用対象者(フルタイムの従業員、並びに、週所定労働時間及び月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員)を指し、それ未満のパート労働者数を含まない

(2)月ごとに従業員数をカウントし、直近12ヵ月のうち6ヵ月で基準を上回ったら適用対象となる

(3)法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全事業所単位、個人事業主については個々の社会保険の適用事業所単位で従業員数をカウントする

2.労働時間要件(週20時間)について

週20時間の判定は、基本的に契約上の所定労働時間によって行うため、臨時に生じた残業等は含まない。ただし、契約上の所定労働時間が20時間未満でも、実際の労働時間が連続する2ヵ月において週20時間以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3ヵ月目の初日に被保険者の資格を取得する。

3.賃金要件(月8.8万円)について

基本給及び諸手当によって判断し、残業代・賞与・臨時的な賃金・最低賃金法で算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当等)は含まない。被保険者資格取得時の標準報酬月額の基礎となる「報酬月額」には残業代や通勤手当を含めるが、算出方法が異なるので要注意だ。

4.勤務期間要件(2ヵ月超)について

来年10月以降、「1年以上」から「2ヵ月超」に変更となる。契約上の期間が2ヵ月となっていても、更新の可能性が明示されているときは、2ヵ月を超えて使用される見込みがあるものとして取り扱う。

「社会保険の適用拡大」に必要な準備や留意事項を確認しよう

特定適用事業所となる場合、必要な準備は以下のとおりだ。

1.加入対象者の把握

まずは、現在社会保険に加入していない短時間労働者について、要件に該当するかを確認する。加入対象者を把握した上で、会社が負担する社会保険料を試算し、対応の方針を決定しよう。

2.対象者への説明

対象者の中には家族の扶養範囲内で働いている人も多くいることから、事前に説明をする必要がある。社会保険の被扶養者かどうかを判断する「年収130万円」の基準については変更ないが、年収130万円未満であっても、勤め先で加入要件に該当する場合は、被扶養者とならず、自身で厚生年金・健康保険に加入することになる。

また、今回の適用拡大の要件は、扶養に入っている家族の勤め先ではなく、対象者自身の勤め先が特定適用事業所となるかどうかで判断するのだが、扶養に入っている家族の勤め先が特定適用事業所となる場合に、被扶養者が適用拡大対象になると勘違いをするケースもあるようだ。特定適用事業所に該当しない企業でも、人事労務担当者は、適用拡大の対象者や内容を説明できるようにしておきたい。

さらに、扶養家族をもつ被保険者に家族手当等が支給されている場合、来年以降は被扶養者である従業員が社会保険に加入すれば、手当が不支給になる可能性もある。人事労務担当者は事前に従業員へ説明した方が親切だろう。

その他、負担すべき保険料については勿論のこと、以下のような加入のメリットについて説明するのも良いだろう。

【社会保険加入によるメリット】
(1)厚生年金加入による年金制度の充実

厚生年金加入により、年金が「国民年金」と「厚生年金」の2階建てとなり、老後・障害・死亡の3つの保障が充実する。また、障害年金については、厚生年金のみ軽度な障害を対象とした3級があり、保障の範囲も広がる。

(2)健康保険加入による医療保険の充実
健康保険加入により、受給要件に該当した場合は、病休期間中や産休期間中に給与の3分の2相当を受給できる「傷病手当金」、「出産手当金」が受給できる。

なお、アドバイスやサポートが必要な場合は、年金事務所に申し込みをすることで、無料で社会保険労務士等の専門家の派遣を受けることができる。希望する場合は最寄りの年金事務所に問い合わせをしてみよう。

3.資格取得届の準備

特定適用事業所に該当する場合は、新たに被保険者となる従業員に対する資格取得の届け出が必要となる。人数が多い場合は、事前に作成するなど準備しておくことをおすすめする。


「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、2024年までに新たに社会保険の適用を受ける人は65万人、事業主の保険料は1,590億円の負担増になることが見込まれている。本改正は、企業のみならず、従業員の働き方にも大きな影響があるため、企業としては事前に改正内容を確認し、早期に準備を進めておく必要があるだろう。


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