数あるハラスメントの中でも「パワハラ」の相談件数は多く、その中でも「上司から部下に対するもの」が特に多く見られます。上司側は「適切に指導した」と思っていても、部下がそれを「パワハラ」と受け取ってしまうケースも考えられるため、部下への指導にためらいを感じる上司も少なくないのではないでしょうか。今回は、「パワハラ」を起こすリスクが高い行動パターンについて、具体例を挙げて考察し、部下への指導をする際に留意すべきポイントを確認していきます。
「パワハラ」を起こすリスクが高い行動パターンを具体例で解説。加害者とならないためのポイントとは

パワハラにつながる行動パターンの例、原因は「指導」と「解決」の混同

パワハラの加害者とならないために大切なことは、「指導」と「解決」の関係性だと考えます。双方の意味は、「広辞苑(第7版)」では以下のように明記されています。

・指導:目的に向かって教え導くこと
・解決:問題やもつれた事件などを、うまく処理すること。また、事件が片づくこと


次に「指導」と「解決」に関する3つの行動パターンを考えてみましょう。具体例として、遅刻が多い部下を想定します。

【行動パターン1】「指導」をした上で「解決」へつなげる

この行動パターンが身につけば、パワハラを起こすリスクは格段に低くなるでしょう。まず「出社時刻は8時30分です。必ずそれまでに出社してください」と明確に指導し、その後、問題の解決へとつなげます。例えば、残業が多いようであれば「仕事は気にせず早く帰ろう」、また真面目過ぎる性格であれば「失敗しても気にするな」など、遅刻との直接的な因果関係がはっきりしないようなことであっても、部下が自らの問題を自身の力で解決できるようにサポートする姿勢に切り替えることがポイントとなります。

【行動パターン2】「指導」を行わず「解決」へつなげる

遅刻をする部下に対し、遅刻をした事実には触れず「仕事は気にせず早く帰ろう」など、原因となるポイント(この場合は「遅刻の理由は残業が多いから」としている)にある程度の目途を立て、それを解決するための言動をおこなった場合です。部下のプライドを尊重する、あるいは繊細なタイプの部下への対応としては、ある程度効果的かもしれません。しかし肝心なのは、部下が本来の意図に気づけるかという点が曖昧なこと。さらには、遅刻をしたという事実を直接指導しないことで、他の部下たちの納得感を得られにくい、といったデメリットも考えられます。

【行動パターン3】「指導」と「解決」を混同している

これが最も“パワハラを起こすリスクが高い行動パターン”だと考えます。部下が同じミスを繰り返した際に、管理者が「また遅刻をするなんて、気が緩んでいるのでは?」などと同じような指導を繰り返したり、あるいはより厳しく指導したりすることで、問題が解決できると考えてしまっているパターンです。

もちろん指導を繰り返すことにより、問題が解決する場合もあるかもしれません。しかし多くの場合、このような対応をしてしまうと、問題の根本的な理由(遅刻の原因)は分からないままとなり、解決にはつながらないでしょう。例えば部下が「睡眠障害を抱えている」や、「家庭の事情で、朝の出社が遅れる」といった悩みを抱え込んでいるのであれば、それは「気が緩んでいる」ことにはなりません。つまり“問題を引き起こす原因”について確証がないままに同じ指導を繰り返す、または必要以上に厳しい指導をすることは、問題の解決にならないだけでなく、部下に不快感を与えるようなパワハラにつながるリスクが高いといえるのです。

パワハラ回避を目的とせず「部下が自ら問題を解決できる環境」をつくっていこう

部下を指導する際、業務上のことについて教えるだけでなく、ついつい「管理者の考え」や、「管理者が考える解決方法」なども一緒に伝えてしまいがちですが、それは最低限に留めておきましょう。なぜなら、「管理者の考え」や「管理者が考える解決方法」が、必ずしもその部下にとって最善のものであるとは限らないからです。組織として問題解決にあたるケースなどを除けば、問題を主として解決するのは部下本人であり、最終的にその解決方法は部下自身が考えていくものです。

管理者がすべきことは、部下が「解決」できるように教え導くことです。そして、部下が自らの問題を自身の力で解決できるような「環境」を整えることで、サポートするのが理想的です。

部下が、どのような時に能力を発揮し、問題を解決することができるのか。仕事の一つひとつの場面に寄り添いながら、俯瞰的に考えることをおすすめします。「年齢が近い先輩社員から指導する」、「大きな仕事を任せてみる」、「定期的な面談を実施する」など、さまざまな方法を通じて、部下が最大限に能力を発揮できる「環境」を目指しましょう。

部下への「指導」は必要不可欠ですが、そこだけに固執してしまうとパワハラの加害者となるリスクが高くなります。そのためには「指導」と「解決」を分けて考えることが大切です。そして、「解決」のために「環境」をつくることに重点を置けば、部下への「指導」が必要最低限のものとなり、パワハラにつながるリスクは低くなると思います。

ただし留意すべきは、管理者のパワハラを回避することが本来の目的ではありません。それが主たる目的となれば、周りの従業員に過度の負担が生まれ、従業員同士のパワハラに発展することにもなりかねません。繰り返しとなりますが、部下が自らの力で問題を解決できるような「環境」をつくることが本来の目的です。「誰もが最大限に能力を発揮できる職場環境」をつくることが、管理者としての大きな役割だと心得ておきましょう。
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