すべてのビジネスパースンや組織にとって必要なスキルとされる「レジリエンス」。実は、これはもって生まれたものではなく、大人になってからでもトレーニング次第で高めていくことができる。それは個人に限った話ではない。組織も同様だ。ならば、いかに高めていくか。個人と組織のレジリエンスを高める方法論を解き明かしていきたい。
レジリエンス

新人・若手とリーダーで求められる「レジリエンス」はどう違う?

自発的な治癒力と呼ばれることもある「レジリエンス」。ビジネスシーンで今注目されている。「レジリエンス(resilience)」とは、困難や脅威、危機に直面した際に、上手く適応してくための能力を意味する。脆弱性(vulnerability)とは反対の概念となり、回復力、復元力、弾力などと訳されている。


求められる「レジリエンス」は、共通ではない。当然ながら、主体が異なると変わってくる。例えば、新人・若手とリーダーとでは身につけておくべき「レジリエンス」には違いがある。実際、何が違うのかを説明しよう。

●新人・若手に求められる「レジリエンス」

新人や若手の頃は、初めて経験することの連続と言って良い。日々新たな業務や課題に直面せざるを得ない。上手くいかなくて、悩んでしまうことも多々あるだろう。最近は、たった一度失敗しただけで心が折れてしまい、メンタルに不調を起こし会社を休みがちになったり、場合によっては離職してしまったりする人が増えており問題となっている。そうした事態を避けるためにも、新人や若手のうちに、困難をチャンスに切り替える方法を習得しておく必要がある。

イマドキの世代の新人や若手に、何故「レジリエンス」が求められるかと言えば、失敗を悪いものとして捉えていて、成長への糧にすることができていないからだ。失敗から学び、成長することができると若手社員に思わせることが重要になってくる。また、目立つことを避ける傾向が強く、空気を読み過ぎてしまう面もある。周囲を気にし過ぎず「ありのままの自分」を受け入れられるようになるためにも、新人や若手が「レジリエンス」を高める意義があると言えよう。

●リーダーに求められる「レジリエンス」

一方、リーダーは組織に課せられた目標を達成していくために、乗り越えなければいけない難題が数多く立ちはだかる。「レジリエンス」はその原動力、エンジンになりうるものだ。「私ならできる」という自己効力感があれば、心穏やかに仕事を進めていける。また、リーダーはどうしても日々多くの業務を遂行しなければならず、プレッシャーは相当なものがある。ストレスを抱える要因は他にもある。配慮や交渉すべきステークホルダーが多い点も見逃せない。それらから自分を守るためにも「レジリエンス」を高めるべきであるといえるだろう。

その際に、必要となるのは3つの視点から「レジリエンス」を高めることだ。一つ目の視点は、自分自身だ。まずは、自分の「レジリエンス」を高いレベルでキープし、高難易度な仕事であっても、しなやかにこなさせる土台を作らないといけない。二つ目は、自分が率いる部下だ。部下の感情を上手くコントロールしたり、自己効力感を高めたりすることで組織目標が達成しやすくなってくる。そして三つ目がチームだ。リーダーが強靭なチームを作り上げるためにも、常に全体を把握し、困難を乗り越えていける職場にしていかなければならない。

「レジリエンス」を構成する6つの要素

「レジリエンス」を構成する要素は、「自己認識」、「自制心」、「精神的敏速性」、「楽観性」、「自己効力感」、「つながり」の6つがある。これらを上手く組み合わせていくことが、「レジリエンス」の基本となってくる。それぞれの要素について、詳しく見ていこう。

(1)自己認識

「自己認識(Self-Awareness)」とは、自分自身の感情や思考、強みや弱み、大切にしている価値観や人生の目標を正しく認識すること。逆境に陥ったとき、「今何が起きているか」、「今怒っているのか、悲しいのか、つらいのか」など、まず自分の感情を客観的に認識する能力を意味する。

(2)自制心

「自制心(Self-Regulation)」とは、その時々の出来事や状況に対する自分の気持ちを把握した上で感情や思考、行動を律したり、適切に制御したりすることを言う。感情に委ねたまま行動するのではなく、それを制御して、適切な行動を取ることが重要になってくる。

(3)精神的敏速性

「精神的敏速性(Mental Agility)」とは、物事を多面的に捉え、大局的な見地・観点から対処すること。逆境に直面しても感情的になったりせず、冷静に原因を探り、適切な解決策を迅速に遂行していく能力と言える。

(4)楽観性

「楽観性(Optimism)」とは、未来を良くすることが自分にはできるという確信・自信を持つこと。ストレスを脅威と思わず、自分がさらに成長するための糧と捉える、ストレスの原因となる事象のうち自分がコントロール可能な部分と不可能な部分を峻別するといった能力を指す。

(5)自己効力感

「自己効力感(Self-Efficacy)」とは、自分なら問題を解決したり、難局を克服できたりするという確信・自信のこと。これがあれば、どんな逆境に陥っても諦めることなく、前向きに行動することができる。また、自己効力感は、自分自身の直接経験だけでなく、うまく対応している他者の姿を見ることによっても培われる。

(6)つながり

「つながり(Connection)」とは、家族や友人、同僚などの「他者とのつながり」のこと。 逆境に出くわしたとき、自分を支えてくれる他者がいると強い気持ちになれる。そうした信頼の置ける仲間を作っておくと、レジリエンスが高まる。

人の「レジリエンス」を高める方法とは?

では、どのようにすれば「レジリエンス」が高められるのか。まずは、「人」の観点から説明していこう。

(1)感情のコントロール

人は強い気持ちをずっと持ち続けられるものではない。ちょっとした失敗であっても、「もうダメかもしれない」とマイナスの感情が込み上げてしまい、せっかくのチャンスを逃してしまうことがありえる。それだけに、感情をコントロールするということはとても重要になってくる。

その手法として「ABCDE理論」を活用したい。「ABCDE理論」とは、臨床心理の権威である米国のアルバート・エリス博士が1955年に提唱した心理療法の一つ。これは、ある出来事(A:Activating event)は、受け止め方(B:Belief)次第で解釈が変わってきてしまい、それによって感情や行動(C:Consequence)が引き起こされてしまうが、自分の受け止め方を自問自答したり、客観的な反論をしたりすること(D:Dispute)によって適切な感情や行動(E:Effect)が生まれるという考え方を指す。ポイントになってくるのは、Dだ。

(2)自尊感情を高める

自尊感情を高めるのも有効な方法だ。「自尊感情」とは、自分には生きる価値があると認識し、自分の生かされた命を大切にする感情を意味する。他人と自分を常に比較して、嫉妬心や劣等感にさいなまれるのではなく、ありのままの自分を受け入れていくことが大切になってくる。では、どうしたら自分を素直に受け入れられるのであろうか。そこでお勧めしたいのが、自分の強みは何かを改めて考えたり、自分の短所や悩みを長所や強みに置き換えてみたりすることだ。強みと弱みは裏返しであり、捉え方を変えるだけで、弱みが強みになる。

(3)自己効力感を高める

「自己効力感」とは、心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)氏が提唱した概念だ。価値ある目標や困難な出来事に対して「自分ならできる」と自信に満ちた感覚を意味する。自己効力感が高い人は達成率・実現率が上がり、逆に自己効力感が低い人は何事もやり遂げられないといった結果を導きやすいと言われている。自己効力感を高めるためのポイントとしては、自分で成功体験を積み重ねる、自分と似た状態の誰か(ロールモデル)の成功体験を観察したり、真似をしたりなどがある。

(4)思考を変える

自分の思い込みのパターンや思考の癖を客観的に分析・把握することだ。どうしてもこう考えてしまうという傾向、癖があるなら、それを改善することで安定した精神状態を確保しやすくなる。ポジティブ心理学の第一人者、英国のアングリアラスキン大学大学院のイローナ・ボニウェル博士は、人には以下の7つのネガティブな思考があると指摘している。

減点思考(例「私には向いていない」)、べき思考(例「これはこうあるべきだ」)、悲観思考(例「簡単にうまくいくわけがない」)、無力思考(例「私は学歴が低い」)、自責思考(例「失敗したら恥ずかしい」)、他責思考(例「上手く行かないのは私のせいじゃない」)、無責思考(例「私には関係のないことだ」)。自分がどれに該当するかを見極め、コントロールしていく習慣を付けることで、ネガティブな思考を抑制することができる。

(5)他者の影響を受ける

「レジリエンス」を高めるために、「ソーシャルサポート」を広げることも有益だ。ソーシャルサポートとは、家族や友人、職場の同僚など自分を取り巻く人たちからもたらされる人的・物的を含めた様々な支援・援助を言う。何かネガティブな状況に追い込まれた時に、一人で悩むよりも、ソーシャルサポートを受けると思考のゆがみに気付くことができたり、傷ついた心を癒してもらえたりする。

(6)過去の体験を再認識

「逆境グラフ」を活用して、過去の経験から得た学びを可視化してみるのも、「レジリエンス」を高めるには良い方法だ。逆境グラフとは、今までの人生を振り返り、心のプロセスを分析するツールである。具体的には縦軸を心の浮き沈み、横軸を時間経過とし、これまでの人生で何を経験し、どんなことを感じたかを折れ線グラフで描いていく。この作業を通じて、自分が数多くの逆境を乗り越えてきたことを実感でき、「今回も頑張ってみせる」という前向きな気持ちを持てるようになる。

組織の「レジリエンス」を高める方法とは?

次に、組織の「レジリエンス」を高める7つの方法を紹介したい。

(1)心理的安全性を高める

まずは、「心理的安全性(psychological safety)」だ。心理的安全性とは、メンバー一人ひとりがチームのなかで恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態を意味する。心理的安全性が担保されている職場では、メンバーに余計なストレスがかからず、仕事にやりがいを感じられる上に、個人やチームのパフォーマンスが向上する。そうした職場にするためにもリーダーが率先して、「失敗を奨励する風土」を作り上げていったり、情報共有・意見交換を活発におこなったり、部下からも意見が出やすい環境を目指していく必要がある。

(2)落ち込みと立ち直り

組織の「レジリエンス」が、どのようなときに落ち込むか、または何をきっかけに立ち直ることができたか。そのメカニズムを理解した上で最適な施策を打っていくと組織強化につなげられる。

(3)シナリオプランニング

「シナリオプランニング」とは、長期的な視野に立って物事を見据え、将来起こり得る未来の出来事を複数思い描き、それらへの対応策を決めておく経営戦略手法だ。これを実践することで、不確実な環境変化が起きても迅速な対応が可能となる。

(4)環境への調和

ロイヤル・ダッチ・シェルの幹部であったアリー・デ・グースは著書『企業生命力』で、長寿企業は環境変化に調和できていると指摘している。環境の変化に敏感、かつ柔軟に対応しているからこそ生き残れているというわけだ。「環境への調和」も「レジリエンス」を高める一つと考えられる。

(5)独自のブランド力

技術革新が激しい今日、プロダクトライフサイクルはますます短命化しつつある。その一方では、ロングセラーと呼ばれる商品やサービスも存在している。それらに共通しているのは、差別化されたブランド力と独自性がある上に、時代のニーズに合わせて柔軟にマイナーチェンジを繰り返し、形を変えていること。企業や組織も同様の姿勢を持つことで、環境変化に耐えうる強靭さを鍛えることができる。

(6)現場主役の組織

ビジネス課題がますます高度化・複雑化するなか、意思決定の遅れが致命的なミスにつながるケースが多々ある。特に大きな組織体であると、階層が幾つにも分かれており、スピード感ある決断・実行は難しいと言わざるを得ない。その点、現場に裁量が委ねられ、従業員一人ひとりが責任を持って業務に取り組んでいる企業は、動きが速い。こうした点からしても、「現場が主役の組織づくり」を進めることは、レジリエンスを高める良い手法といえる。

(7)無駄な時間を過ごす

従業員同士の自由なコミュニケーションは、「無駄な時間では」と指摘する声もあるが、実はこれを行うことで従業員のストレスは軽減され、かえって生産性の向上につながるという。時間や経費ばかりを気にして、はなから無駄と決めつけてしまうのではなく、業務の本質を見極めた上で、何が無駄かを見極めていく必要がある。
「レジリエンス」は、個人や組織の危機回避やこれからの成長に大きな効果をもたらし得る。特に環境変化が激しい時代においては、重要な役割を担っていると言って良い。今回解説した「レジリエンス」を高める方法・ポイントを、ぜひ実践していただきたい。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!