第29回「SWP(Strategic Workforce Planning)の外観と実現できる世界」でも触れた通り、解雇規制が存在する日本企業では、人材の育成や配置を工夫しながら事業を運営していくことを前提としています。そのため、各人材の能力が開発され、適材適所となっているかを管理していく(「質」の管理を行う)ことが経営管理上非常に重要であるといえます。この適材適所を実現するためには、要員構成に関する指標(「量」)だけでなく、「マインド」、「知識」、「コンピテンシー」、「経験」といった「人材の“質”」の面から、必要な人材と現有人材のGAP(数的差異)を可視化した上で、適切な確保施策(採用や育成などを含む)を策定・遂行しなければなりません。

本稿では、EYが過去に手掛けたZ社の事例を基に、人材の“質”の面から、「1. 必要人材と現有人材のGAPの可視化」と「2. 確保施策の策定・遂行(今回は過不足が対象)」を成功に導く上で重要なポイントを解説します。

必要人材と現有人材のGAPの可視化

必要人材と現有人材のGAPを可視化するために、Z社ではまず「必要人材の定義」を行いました。Z社の経営会議では「専門人材」が不足しているという議論が行われていましたが、各部門が想像する専門人材像に少しずつ隔たりがあったため、明確な打ち手を講じるに至らないことがしばしばありました。このため、Z社の人事部門では、下の「図1」に示した手順で経営会議メンバーや部門長などと、それぞれの階層ごとに「人材像の目線合わせ」を行いました。

【用語解説】ペルソナとは:人格や特徴などをまとめたプロファイリング資料またはプロファイルそのものを指す。

このように、各ステークホルダーが気にすべき粒度で人材像を明らかにしていきました。それぞれの手順における主なポイントについて、以下に解説していきます。

●Step1:全社レベルの人材像目線合わせ

(1)経営戦略から必要な人材要件として「2つの軸」を抽出
Z社ではまず、全社として必要な人材要件を抽出するため、中期経営計画や戦略資料などから頻出キーワーを読み解き、優先順位をつけていきました。その上位から「2つの軸」を設定し、「人材マップ」を作成しました。

(2)「2つの軸」を「9象限」に分割し、人材の過不足を可視化
次に、部門の責任者や担当者にアンケート・ヒアリングを行い、「9象限」に分割した人材マップ上でその過不足を調査しました(部門ごとの過不足積み上げ→全社の過不足可視化)。

これら「Step1」を実施することにより、全社レベルで必要な人材の過不足を大まかにつかむとともに、特に経営会議メンバー(マネジメント陣)への報告機会で全体概要を伝えることができるようになりました。

●Step2:部門レベルの人材像目線合わせ

(1)部門固有のミッションから人材に求める要件を抽出
「step1」で作成した「人材マップ」上で不足が認められた象限に対して、部門ごとにヒアリングを行いました。改めてミッションを確認し、「Step1」の人材要件に加えてどのような人材が必要、かにについて、「マインド」、「スキル」、「経験」、「行動発揮」の4つの観点から、さらなる具体要件に迫っていきました。

(2)それぞれの要件を踏まえて「固有のペルソナ」を策定
これまで明らかにしてきた全社・部門固有のミッションと、求められる要件(「2つの軸」、「マインド」、「スキル」、「経験」、「行動発揮」)に加えて、年齢・役職・キャリアパスなどの当該人材に対するモデルイメージを付加する形で「ペルソナ」としてまとめあげました。

このように、「Step1」と「Step2」を行ったことで、全社レベルと部門レベルでの「必要人材と現有人材のGAP」の可視化ができるようになり、またそのつながり(全社/部門)も明確にすることができました。

確保施策の策定・遂行を「不足人材」の確保を主眼に説明

当然、「必要人材と現有人財のGAP」が判明しただけでは問題の解決につながりません。下の「図2」に示した通り、Z社では可視化された必要人材と現有人材のGAPを解消するための人材確保施策を、以下の2つの観点から検討しました。

A:内部人材活用(育成)
B: 外部からの人材調達


人材確保施策を策定する際のポイントとして、解雇規制が強い日本企業においては、リスキルといった方法によって現有人材を上手く活用することができなければ、余剰人員が発生し、その分の人件費が余計にかかる点に注意が必要です。そのため、既存のビジネスモデルを担うボリュームゾーンの人材に対しては「内部人材の活用(育成)」を前提として検討することになりました。一方で、特に「デジタル」や「ディスラプター」などのキーワードをもつ、自社で育成するノウハウがない/必要な時期までに育成が間に合わないなどの、いわゆる「育成限界」が認められたペルソナに対しては、「外部からの人材調達」を適用することとしました。

●内部人材の活用(育成):計画的な異動配置とOJTの品質を担保する仕組み作り

前述の通り、「内部人材の活用」では現有人材を育成することになりますが、その手段としては大きく分けて2つの方法が存在します。「OJT」と「Off-JT」です。「7:2:1の法則」でも示されているように、OJTが人材育成に果たす役割は非常に大きいため、Z社では異動を通じてさまざまな業務を経験する機会を計画的に付与し、現場で育成するための仕組み作り(OJT)を中心に検討することになりました。本稿でも「OJT」に光をあてて説明していきます。

具体的には、「人材輩出部門(求められる要件が特に身につく部門)」を特定し、異動によってより多くの人材がこの部門で経験を積めるようにルールを定めました。また同時に、現場で意識的にコア業務を割り振り、その結果を「評価」や「フィードバック」するサイクルを整備しました。当然、これらの異動を円滑にするためには“玉突き”での実施が必要であり、一部の部門間だけでなく、全社的にローテーション計画を策定することや、人材輩出機能となる部門(例えば、プランニングに関する業務が多いミドル・バックオフィス)で適性がなかった場合には、元の部門(例えばフロント)に戻す、といったルールも整備しました。

●外部からの人材調達:不足ペルソナの確保施策

「育成限界」が認められたペルソナを、外部からの人材調達の対象にしたことについては既に述べましたが、その手法は大きく分けて「採用(主に中途採用)」と「外部リソース(ベンダー・フリーランス等)の活用」の2種類となります。

Z社ではこれまで、どのような人材の不足に対しても中途採用を行っていましたので、人材の硬直化が起こりやすくなっていました。そのため人材不足が認められた際には、まず、以下の基準に従って「外部リソースの活用」を積極的に検討することとしました。

【外部リソースの活用基準】 ※順不同

・中核事業としてのノウハウ蓄積が不要
・業務範囲や成果物が明確
・コスト効果が見込める
・スキルや技術のライフサイクルが短い
・業務の遂行には専門的ノウハウ獲得が必要


本稿では割愛しますが、他にも「社外への出向」や「採用チャネルの拡充」などの施策を包括的に検討しました。このように抜本的な人材確保施策の再構築を行ったことで、Z社における人材のGAP解消の道筋をつけ、人材の計画的確保・育成に対して一定の解を出すことができました。

まとめ

今回は、Z社がどのようにして「質の確保」を行うために、「必要な人材と現有人材のGAPを可視化」し、採用や育成を含む「人財の確保施策」を策定・遂行してきたかについて説明してきました。しかし、これは1回実施したからといって、永続的に使い続けられる方法ではありません。冒頭で説明した通り、本取り組みのファーストステップである「人材像(質)の可視化」は、経営資料といったデータのインプットが起点となっているため、中期経営計画の切り替え時期や戦略変更の際には見直しが必要であることを、最後に付言しておきたいと思います。

これまで3回にわたって、必要な要員・人件費の見極めと適正化に向けた取り組み――SWP(Strategic Workforce Planning)について、その概観と最新の事例を踏まえた解説を行ってきました。各回で述べた取り組みのポイントが、読者の皆様の発展の一助になれば幸いです。
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