前回の「第33回:改革の成功に寄与するチェンジマネジメント【前編】〜チェンジマネジメントとは何か〜」では、チェンジマネジメントにはどのような活動があるか、そして、それらの活動を進める際の留意点について説明しました。具体的な事例についても、一部(関係者との合意形成)ご紹介しましたが、今回は他のチェンジマネジメント活動について、「特に重要で難易度が高いもの」をご紹介します。

【参考】
第33回:改革の成功に寄与するチェンジマネジメント 【前編】〜チェンジマネジメントとは何か〜

チェンジマネジメントの全体像

「チェンジマネジメント」とは、改革において「ヒト」と「組織」に着目した、改革をスムーズに進めるための手法です。経営層から一般社員に至るまで、改革への賛同度合いを把握し、改革によるヒト/組織・業務・システムへの影響を詳細に分析して、改革を成功に導き、定着させるための施策を実行していきます。前回もご説明したとおり、チェンジマネジメントは、主に以下の「5つの活動」に分類されます。

(1)関係者へのコミュニケーションと合意形成
改革によって影響を受ける関係者や影響を及ぼす関係者を抽出し、改革への賛同度合いを分析します。そのうえで、適切な関係者(または関係者グループ)に、適切なチャネルを用いて、適切なタイミングで、コミュニケーションを行っていきます。

(2)改革による影響分析と受け入れ準備
改革によって何が変わるのか、その変化によってどのようなベネフィットがもたらされるかを、業務、システム、ヒト・組織等の観点から、詳細に分析します。そして、その変化にあわせて現場の体制を整え、稼働に向けた準備を行います。

(3)教育
改革で新たに導入される業務・システム・組織等についての教育を行います。上記「改革による影響分析と受け入れ準備」で分析した詳細な変更内容や変更度合いに基づき、誰に対して、どの程度の教育が必要か、誰が教育するのか、教育の手法は何か、いつ行うのかといったことを計画し、実行します。

(4)組織設計と新しい組織への移行
改革において組織の体制(構造)や役割分担、権限範囲の変更が必要となる場合は、それらを設計し、新しい組織への移行を行います。

(5)チェンジマネジメント推進体制構築と従業員の変化の進捗把握
チェンジマネジメントを専門に行う部隊を設置し、従業員が改革に賛同しているか、新業務・システム・組織を理解しているか等を測り、対応策を講じます。

ここでは、分類(2)「改革による影響分析と受け入れ準備」と、(5)「チェンジマネジメント推進体制構築と従業員の変化の進捗把握」について、具体的な事例をご説明していきます。

事例1:改革による影響分析〜改革による影響分析と受けいれ準備〜

1つめの事例は、「製造業社の生産計画・生産管理会計の変革における改革の影響分析」についてです。改革による影響とは、「現状」から「あるべき姿」への移行に応じて生じる変化の内容と変更度合いを指します。改革による影響を可視化することで、改革の内容について共通認識をもつことができ、現場担当者の改革に対するモチベーション醸成や稼働に向けた準備を促すことができます。

改革の影響は、「方針」、「業務プロセス」、「テクノロジー」、「ヒト・組織」の4つの観点から分析します。現行と改革後の業務・システム関連資料を分析し、現行と新とのギャップや変更によるベネフィットを抽出しました。影響を分析するには、現行と改革後の業務・システムの両方を深い理解が求められるため、不明な点については業務・システム担当者に適宜確認し、協働しながら進めていきました。影響分析は詳細レベルに至るまで行い、500を超える変更点を明らかにしました。

●方針の観点

社内規定や判断基準、意思決定権限など業務の方向性に関して変更が必要か、この変更によりどのようなベネフィットがもたらされるかを明らかにします。例えばこの事例では、業務プロセスとシステムをグローバルで標準化し、原材料や生産に関するあらゆる情報がシステムに登録されることで、需要予測と生産計画が容易になり、生産計画の基となる生産目標設定の権限が生産部門から計画部門に移行されました。

●業務プロセスの観点

業務の流れや実施頻度、業務に必要となる情報の取得方法、業務の報告内容などがどう変わるかを明らかにし、変更点ごとの度合い(影響高・中・低)や、変更によってもたらされるベネフィットを分析します。この事例では、製造コストを全世界で比較可能とするため、業務とシステムをグローバルで標準化しました。具体的には、需要予測と生産目標設定、生産計画立案、原材料調達、製造コスト管理業務が変わりました。

●テクノロジーの観点

業務で使用するシステムやツールの変更有無や変更度合い(影響高・中・低)、変更によりもたらされるベネフィットを分析します。

●ヒト・組織の観点

業務プロセスやテクノロジーの変更によって影響を受ける対象者(対象部門〈例えば「生産計画部門」〉や役割〈例えば「需要予測担当者」〉)を明らかにし、新業務・テクノロジーを運用するのに求められる組織体制・役割・スキル、変更度合い(影響高・中・低)、変更によりもたらされるベネフィットを分析します。

改革の影響分析を行う目的は、変更点や影響度を明らかにすることで、従業員へのコミュニケーションやトレーニング、システムのテストや稼働に向けた準備を、適切に行えるようにすることです。

本事例では、改革の影響分析結果を、以下の「5つの後続タスク」に反映しました。
改革の影響分析結果
後続タスク1:トレーニングの分析・計画・実施
組織・ヒト、役割・役職、業務プロセス・システムの変更点をもとに、トレーニングの計画を立案し、コンテンツを作成して従業員に説明しました。

後続タスク2:組織体制と役割の変更
組織体制や役割、求められるスキルの変更点をもとに、実際の組織をどう変更していくか計画を立案し実行しました。

後続タスク3:ビジネスエンゲージメントに向けたコミュニケーション
影響が大きい変更点については、従業員の意識や考え方を変える必要があったため、より多くの時間を費やし丁寧に説明することで、従業員の賛同を得ていきました。

後続タスク4:システムのテストとの整合性担保
UAT(ユーザー受入テスト)では、新業務の担当者をテスト担当としてアサインしました。

後続タスク5:関連業務の変更
改革対象である業務・システムが変更されることで、関連する周辺業務やシステム・ツールの一部に変更が必要であったため、現場担当者にて対応しました。

事例2:チェンジ・エージェントを設置する〜チェンジマネジメント推進体制の整備〜

次に、製造業の購買組織・業務改革におけるチェンジマネジメント推進体制――特に「チェンジ・エージェント・ネットワーク」の事例をご紹介します。

チェンジ・エージェント・ネットワークは、バーチャル組織です。通常の組織と同様に、役割を定義し、体制を設計し、指揮命令系統や相互連携の方法などを定義する必要があります。

改革プロジェクト期間中に臨時で設置する組織であるため、これらの要件を予め定義し、関係者と合意することが特に重要です。そして、エージェントの人選の際には、本活動に参画するための工数を確保し、本人のモチベーションを高め、チェンジ・エージェントとしての活動・改革への貢献が社内で認知されるように人事考課に反映します。

チェンジ・エージェントの目的は、現場担当者との双方向のコミュニケーションを通じて、改革への理解を促し浸透させ、不安の解消に努め、改革への賛同を得ることに貢献することです。プロジェクトメンバーが従業員一人ひとりと直接コミュニケーションを取ることは現実的ではないため、現場の業務や組織を熟知している担当者が、双方向のコミュニケーションを担います。

本事例では、改革の対象である5ヵ国の各組織に、従業員20〜30名ごとにチェンジ・エージェントを1名設置しました。そして、チェンジ・リーダーが、チェンジ・エージェントの取りまとめや、チェンジ・エージェント・ネットワークの進め方を決定していきました。

チェンジ・エージェント・ネットワークに関する重要事項では、プロジェクト・リーダーと確認しながら進め、必要に応じてステアリング・コミッティで意思決定を仰ぎました。そして、これらチェンジ・エージェント・ネットワークの設計、設置や運用など全般について、チェンジマネジメントチームが担当しました。
チェンジ・エージェントに求める役割は、次のとおりです。

・改革の目的やビジョン、ハイレベルな業務・システムの変更点を理解し、現場従業員の理解を助ける。
・現場従業員からの質問や懸念点を吸い上げ、回答が難しい事項については、チェンジ・リーダーとチェンジマネジメントチームに共有する。
・トレーニングの実施や稼働前の対応事項など、プロジェクトから従業員に発信するコミュニケーションの内容を理解し、現場従業員にリマインドする。
※これらの活動には5〜10%の工数が必要(週に2〜4時間程度)


これらの役割を担うことができるように、人選の際には、下記2点の条件と要件を満たす人材を探しました。

【人材の条件】
・改革対象範囲の業務について少なくとも数年の経験を有する人材
・管理職またはチーム長の経験がある人材

【要件】
・柔軟性が高く改革の重要性が理解でき、かつ従業員に説明できること
・傾聴能力が高くコミュニケーションに長けていること


人選の際には、これらチェンジ・エージェントの役割や求められる経験、能力を各組織の部門長に説明し、人選を依頼しました。その際に、活動を行うための工数を確保することや、この活動が社内で認知されるよう、個人の年次目標に盛り込むことや評価に反映することを強調しました。そして、全ての人選がなされると、「キックオフミーティング」を開催し、以降は月次会議を設けて情報の共有や課題の検討を行っていきました。

このような活動を通じて、必要な情報が従業員に届いていることを確認し、従業員の質問や懸念を1つずつ解消していったのです。この活動を稼働1ヵ月後まで続けることで、従業員の改革に対する理解を深め、賛同を得ていくことができました。


これまで2回にわたり、「チェンジマネジメントの考え方」や「具体的な事例」を見てきました。チェンジマネジメントの活動を通じて、全ての関係者に改革の目的や内容の理解を得ていき、改革に対するモチベーションを上げ、賛同を得ることができるとイメージできたのではないでしょうか。

チェンジマネジメントの活動内容は、改革の内容に準じて設計するため、どのようなタイプの改革にも適応できます。例えば、働き方改革、組織風土改革などの業務やシステム変更を伴わない改革に対しても有効な手段です。関係者の賛同を得て、全社一丸となって改革を推進し、成功に導くためには、チェンジマネジメントは無くてはならない要素です。
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