「リファラル採用」とは、「リファラルリクルーティング」ともいわれ、自社の社員に友人や知人を紹介してもらう採用手法のことを指す。欲しいターゲット人材の採用や採用後のミスマッチ防止につながる観点から、採用手法のひとつとして今企業から注目されている。本記事では、「リファラル採用」の成功に向けての必要な準備や、メリット/デメリット、採用までの具体的な手順、企業事例などを紹介していく。
「リファラル採用」の定義やデメリット、成功に向けた方法(制度)とは

「リファラル採用」とは? 定義や特徴、注目される背景を紹介

「リファラル採用」とは、自社の社員から、友人・知人を採用候補者として紹介してもらう採用手法のことを指す。「リファラルリクルーティング」ともいわれ、ダイレクト・リクルーティングのひとつとされている。リクルーターとなる自社社員は、対象の友人・知人の人柄や性格、能力を知っているため、採用後も企業と対象者の間でミスマッチが起こりにくく、定着率の向上が期待できる。そのため、優秀な人材を、低予算で効率的に採用できる手法として、注目されている。

●「リファラル採用」が注目されている背景

「リファラル採用」が注目されたきっかけは、少子化による労働力人口の減少や、テクノロジーの進化による「働き方」やビジネスモデルの多様化だ。また、企業の採用活動が難航する中、応募を待っているだけでは欲しい人材に出会える可能性は低く、企業は採用候補者を自ら探しにいく必要性に迫られ、ダイレクト・リクルーティングの一環としてリファラル採用を導入するようになったと考えられる。その一方、リファラル採用は、「既存社員の定着率向上」を目的として広まった面もあり、社員のエンゲージメントを高める活動のひとつとして、リファラル採用を導入している企業もある。

●「リファラル採用」と「縁故採用」の違い

「縁故採用」も既存社員のつながりによって採用候補者を選ぶという点で、「リファラル採用」と似ている。しかし、縁故採用の「つながり」とは、「血縁関係」や「コネ」といった特別なつながりという意味が含まれていることが一般的であり、対象者の人柄やスキルにはあまり注目されていないイメージがある。

一方、「リファラル採用」は、入口は知人という「縁」ではあっても、採用基準を満たした者を対象としており、試験や面接といった採用プロセスを踏み、明確な採用基準であることが「縁故採用」との違いだ。両者の違いは、「言葉のイメージ」かもしれないが、「リファラル採用」には少なくとも、縁故採用に比べてネガティブな印象があまりないといえる。

●「リファラル採用」の具体的なコスト

「リファラル採用」は社員のつながりから人材を探すので、下記のようなコストは基本的に発生しない。

・求人広告出稿の費用
・人材紹介サービスの紹介手数料といった外部コスト


ただし、社員に積極的に紹介をしてもらうために、多くの企業が「紹介報酬制度(紹介者ボーナス)」を設置している。また、その他にも必要に応じて発生する費用がまったくゼロという訳ではない。そのため、以下の3点を「リファラル採用のコスト」と考えておくべきだろう。

(1)紹介報酬制度(紹介者ボーナス)
紹介した友人・知人が採用となった際に、紹介者である社員に対して一定のインセンティブを支払う同制度。また、有給休暇の増加や、人事評価への加点といった、金銭以外のものを「報酬」としている企業もある。

(2)インセンティブ以外に必要な採用活動のコスト
社員が積極的にリファラル採用の活動を推進していけるように、イベント参加費用や外食といった交際費を「採用にかかわる活動費」として負担している企業がある。

(3)外部サービスの利用料金
リファラル採用のプラットフォームを提供する外部サービスを利用するケースでは、「外部サービスの利用料」というコストが発生する。


「リファラル採用」を導入するメリットとは

「リファラル採用」には、企業、既存社員、入社者の3者それぞれにメリットがある。

●採用後の「ミスマッチ」防止と定着率向上

自社が求めている人材像を理解した社員が、採用候補者を紹介するため、採用の精度は高まりやすい。また、採用候補者は、すでに社員から、企業の理念や風土・雰囲気、仕事内容、福利厚生といった情報を具体的に教えられた状態で入社するため、入社後のミスマッチが防げる。また、人材の定着も期待できる。

●採用コストの抑制

人材紹介会社や求人媒体を経由しないため、採用コストは最小限に抑えられる。人材を紹介した既存社員へのインセンティブを設定したとしても、求人広告や紹介サービスの手数料と比べると、かなりのコスト削減となる。

●潜在層へのアプローチと獲得競争の回避

まだ志望先の企業を明確に絞っていない「就職・採用市場にはいない人材」との接点を持つことができる。特に、転職を模索している人(まだ活動を始めていない人材)といった、いわゆる「潜在的な転職層」へアプローチできる機会となるだろう。他社との競争をうまく回避しながら、ピンポイントに欲しい人材獲得を進めることができる。

●従業員のエンゲージメント向上

リクルーターとなる自社の社員が、企業理念や文化を理解し、自社の魅力を友人・知人に語ることになるので、社員の経営的視点が自然と育まれやすい。組織の状況や自分の役割、会社の将来などを考える良いきっかけとなり、社員自身のエンゲージメント向上にもつながる可能性が高い。

●採用プロセスの簡略化

説明会や複数回の面接をする必要がなく、採用活動にかかる手間と時間を大幅に短縮できるだろう。採用プロセスを簡略化できるので、人事部の採用担当者、面接に出る管理職などの業務の効率化もはかることができる。

「リファラル採用」のこのデメリットには要注意!

「リファラル採用」を効果的・効率的に行うためには、デメリットに注意しなければならない。

●人間関係と人材配置への配慮

リファラル採用は「社員からの紹介」という性格上、紹介した社員・紹介された候補者の両名の人間関係に配慮が必要だ。万が一「不採用」となった際には友人関係が破綻してしまうこともある。また、採用となった場合も、紹介した社員が退職することで紹介された側もモチベーションが低下し、最悪の場合、退職という弊害も起こり得る。そのため、リファラル採用の進め方、採用後の人員配置には注意が必要だ。

●社員の理解と認知

リファラル採用は、人事部や採用担当者ではない自社の社員が主となって活動するため、既存社員側が、どのような人材やスキルを求めているかなど、企業の採用方針をきちんと理解していないといけない。ミスマッチや人採用活動への不必要な手間を防ぐために、企業の募集要件に関して、日常的に社員へ周知し、情報をアップデートしておくことが重要といえる。

●情報が可視化しにくい

リファラル採用は、多くの社員が関わるため、社内で状況が把握しづらい難点がある。そのため、下記のような項目を可視化するといいだろう。部署や従業員ごとの課題や促進すべきポイントとして明確化し、PDCAを回すことで、自社の採用力を高めることができる。

・社員のリファラル採用への貢献度
・協力的に取り組んでいる部署
・最も優秀な人材を紹介した社員は誰か
・社員報酬はどのようなタイミングで誰に与えるかという管理方法

●人材の偏りにつながる可能性

社員の個人的つながりで採用活動が行われるため、紹介される候補者の性格や特性、能力が偏ってしまいがちな傾向には注意を払うべきである。これを見落とすと、のちのち、派閥やグループといったような偏重した集団が社内に作られてしまう。

●社員へのリクルーターの教育

知人を紹介する社員には「リクルーターとしての教育」が必要だ。採用活動の経験がないと、企業・人事部のターゲットとは一致しない人材を紹介してしまうこともあり得る。それでは人材のミスマッチが起き、紹介された側も入社後に望まれていないと感じてしまう。結果的に早期の離職につながってしまう恐れがある。

●公私混同した採用に見られる

紹介した社員と採用された人材が、オフィスや業務上でコミュニケーションを取る際、職務上必要な事柄だったとしても、友達同士の私的なやりとりに見えてしまい、公私混同を疑われてしまう可能性がある。入社の前に紹介者と入社者の間で、事前にコミュニケーションの取り方について決めておくといいだろう。

●社員への負担軽減

あくまで社員は知人の「紹介」だけを行い、面接や選考のスケジュール調整などは、通常の採用活動と同様に、人事部・採用担当者が引き受けるといった、採用にともなう社員の負担を軽減する仕組み作りが必要だ。

「リファラル採用」が効果を発揮する場面・タイミングとは?

「リファラル採用」の効果を発揮する場面には、下記の2つがある。

●中長期的に採用コストを抑制していきたい時

採用活動の長期化に比例して、採用コストも大きくなる。「リファラル採用」で定期的に採用できるようになれば、求人広告の出稿といった外部コストを抑制できる。成功させるためには、社員の協力を促すための「社内認知の促進」と「制度設計」が必要不可欠になるだろう。また、一定人数の採用をリファラル採用で実現できるようになるまでは時間を要するため、その他の採用手法と並行しながら進めることがポイントになる。

●社員定着率を高める目的で活用したい時

「リファラル採用」は既存社員の友人・知人が対象になるため、社員と類似の価値観を持ち、採用時と採用後にミスマッチが起こりにくいことは前述の通り。また、紹介する社員にとっても、友人・知人に自社の魅力を伝える活動を通して、自社社員のエンゲージメントも向上できるため、結果的に、社員定着率を高める効果が期待されている。

「リファラル採用」を成功させるための方法(制度)

「リファラル採用」を成功させるための取り組みとして、「制度作り」や「ツールの活用」などがある。

●採用の仕組み作り

紹介方法や採用までのプロセスが複雑なものであれば、社員の負担が大きく紹介のハードルを上げてしまう。企業側は、社員へ経営ビジョンや求める人材を明確に伝えるだけでなく、紹介する側・される側の両方が分かりやすい採用制度を整えることが必要である。例えば、下記のような仕組み作りがポイントとなる。

・募集要件や応募方法などの情報をすぐに確認できる仕組み
・社員の紹介活動や採用状況を明確に確認できる仕組み

●専用ツールの導入

「リファラル採用」は、専用のツールも展開されているため、チェックしてみるとよいだろう。主流はクラウド型サービスで、スマートフォンといったモバイル端末からもアクセスできる仕様が多いため、手軽に採用を進められる。また、こういったツールならば、リアルタイムにデータ分析を行え、応募状況や社員の採用貢献度を正確に把握することもできる。「リファラル採用」に関するツールやサービスを展開する企業は、プラットフォームの提供だけではなく、制度の設計コンサルティングも行っている場合が多く、導入段階や導入後のフォローも期待できる。

●制度定着までには一定の時間がかかる

「リファラル採用」の制度が定着するまでは、ある程度の時間が必要だ、という覚悟を持つ必要がある。制度を導入したからといって、全社にそれが浸透し、社員がアクションを起こすに至るまでは時間を要する。即効性のあるものではなく、「長期的な取り組み」として、リファラル採用をとらえておくことが重要だ。

●その他の採用手法と併用しながら実施する

企業の状況に応じて、「リファラル採用」以外の採用経路や手段を併用することも成功への秘訣だ。優秀人材の獲得に向けては、採用経路を絞るのではなく、広い間口を設けることも必要である。リファラル採用にこだわりすぎず、状況に応じて適切な採用経路、採用手段を選択できるようにすべきである。

「リファラル採用」の導入手順

「リファラル採用」を効果的に導入するためには、「導入手順」を踏むことが必要不可欠だ。

(1)プロジェクトを発足させる

まずは、「エンゲージメントの高い社員」を集めてプロジェクトを発足させる。いきなり、全社員に知人・友人の紹介を頼んでも無理がある。そのため、最初は経営層や愛社精神の高い社員を5~6名程度でプロジェクトを発足させるのが良い。3ヵ月以内に1人以上の採用実績ができた場合、プロジェクトの最初の段階としては成功と見なしてよいだろう。

(2)メンバーを増やしてプロジェクトを推進

(1)で集めたプロジェクトメンバーをさらに増やして「リファラル採用」のプロジェクトを本格的に推進する。例えば、3ヵ月以内にさらに1人以上の採用実績を作れるように目標を立てる。この際、増員したメンバーを含めた小規模のチームを複数作り、採用の実績数を競わせるといった手段も有効だ。

(3)全社へ展開

最終的には、全社員へとリファラル採用の実施を広げていくことが必要になる。そのためには、社員へのリファラル採用の仕組みとメリットの周知が欠かせない。社員全員が「自分もリクルーターのひとり」であるという認識が深まれば、価値観を共有できる人材採用が社内で促進されるだろう。

「リファラル採用」に取り組む企業事例

最後に、実際に「リファラル採用」に取り組む企業の事例を紹介したい。直営店・フランチャイズ店を合わせ170店舗超にまで増加した串カツ田中ホールディングスは、採用コストや離職率が下がらないことが大きな企業リスクになると判断し、「リファラル採用」を開始。経営層が本腰を入れ、リファラル採用に向き合い、人材教育部の立ち上げ、リファラル採用システムの導入などの取り工夫を凝らした施策を実施した。

また、メルカリは、「リファラル採用」のための会食を全額負担するといった制度を充実させている。同社では経営層や採用担当者が中心となって、リファラル採用を推奨しており、自社や社員を知ってもらう取り組みの一つとして社内外交流イベントも積極的に実施している。
自社をよく理解した社員から知人や友人を紹介してもらうことで、効率的に、親和性の高い人材を採用できる可能性が高い「リファラル採用」。ただし、紹介者と入社者は「近しい間柄」であるため、不採用時の人間関係や入社後の公私混同には注意を払わなければならない。また、「リファラル採用」はすぐに成果が出る採用手法ではないことにも留意したい。成功に向けては、経営層や人事、社員の間で採用方針を一致させることがひとつのポイントになるだろう。
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