戦前から続く“日本独特の採用慣行”が大きな転機を迎えている。経団連による「就活ルール」の廃止などを受けて、各社横並びの新卒一括採用を見直す動きが本格化。時期にとらわれずに学生を採用する「通年採用」への移行が広がる見通しだ。なぜ、いま「通年採用」なのか。具体的にどのような仕組みなのか。一括採用との違いや導入のメリット・デメリット、先行企業の事例などと併せて紹介する。
「通年採用」とは? メリットと企業事例を紹介

「通年採用」とは?

新規大卒者を対象とする従来の春季一括採用は、経団連が採用活動の時期を定めた指針――いわゆる「就職協定」「就活ルール」に則り、各社が足並みを揃える形で進められてきた。だが、ルールの形骸化や厳しさを増す人材争奪への危機感から、経団連は2018年10月に同指針の撤廃を決定(※政府が新たなルール策定を引き取り、22年春入社の学生まで継続)。2019年4月には、春の一括採用への偏重を改め「通年採用」の枠を拡大していくことで、大学側とも合意した。年功序列や終身雇用とともに戦後の経済成長を支えた日本型雇用システムからついに脱却か、と注目される所以である。

横並びの一括採用は限界
「通年採用」とは、企業などが特定の時期を設けず、年間を通して適宜、採用活動を実施することを指す。欧米や外資系企業ではむしろこちらが一般的だ。いまだ横並びの一括採用が根強い日本でも、人材獲得競争の激化により、限られた期間内の採用活動だけでは人材の質・量を充たすのが難しくなってきたことから、近年は少しずつだが、通年採用の導入に踏み切る企業が増えつつある。

グローバル化とデジタル化が加速する中、企業の競争力を高めるには、必要な人材を取りこぼさないよう流動的かつ適時に確保するしくみづくりが欠かせない。先述した経団連と大学側との合意においても、従来の春季一括採用に加え、帰国子女や留学生、在学中に専門分野の勉強や長期インターンに時間を割いた学生らを、時期を問わず通年で選考するなど、複線型の採用を推進することが明記された。


「通年採用」のメリットは?

「通年採用」のメリットは導入する企業側だけでなく、求職者にとっても大きい。それぞれに次のような効果が期待されている。

【企業側のメリット】
(1)欲しい人材を欲しいときに採用できる
就活ルールに沿って動く新卒一括採用と違い、必要に応じて自社のタイミングで自由に活動できるのは大きなメリット。「これは」という候補者に出会ったらすぐに意思決定して、採用に動けるので、他社に先がけて優秀な人材を獲得できる可能性が高い。また、内定を辞退されても、すぐに補充対応することができる。

(2)多様な人材にアプローチできる
新卒一括採用では、指定時期に応募してきた学生にしか出会えず、人材の多様化が進まない。時期を問わず採用の門戸を開けておけば、既卒者や帰国子女、外国人留学生など、従来の選考ルートに乗らず取りこぼしがちだった人材の獲得にも対応できる。

(3)余裕をもって選考できる
スケジュールや他社の選考状況に追われがちな一括採用より、余裕をもって応募者一人ひとりと向き合うことができる。自社の求める人材かじっくりと見極めて選考できるので、採用ミスマッチが起こりにくい。

【求職者側のメリット】
(1)自分の意志やペースで就活を進められる
応募期間が限定されないため、一括採用のように複数企業の選考日程が重なる可能性は少少ない。試験といった忙しい時期を避けながら、余裕をもって就活を進めることができる。また、在学中は専門分野の勉強・研究や長期のインターンでスキルを磨くことに集中し、卒業後に即戦力として就職するなど、脱・横並びの就活も可能に。

(2)選択肢が増える、広がる
通年採用の場合、時期をずらせばさまざまな業種・企業にアプローチできる。短期間で無理やり志望を固めたり、エントリー先を取捨選択したりして、結果的に自らの可能性を狭めてしまうリスクは少ない。

「通年採用」のデメリットは?

通年採用には、企業側・求職者側双方にデメリットや問題点も指摘されている。

【企業側のデメリット】
(1)担当者の負担や採用コストが増大する
最大の懸念は採用コストの問題だ。年間を通して採用活動を続けると、結果的に募集や選考などが長期化・分散化しやすく、費用も採用担当者の負担も膨らんでしまう。相応の準備やマンパワーがないと、他業務に支障を来しかねない。

(2)求職者へのアピールが難しい
通年採用を実施することで、求職者に「いつでも受けられる会社」、「不人気で採用枠が埋まらない会社」といった印象を与える心配も。応募期限が決まっている一括採用の企業より後回しにされ、第一志望に選ばれにくくなる。

【求職者側のデメリット】
(1)結果的に就活が長期化してしまう
通年採用が広がると時期の縛りがなくなる分、就活の早期化・長期化が一層進むのではないか。いち早く内定を得ても満足できず、就活を続ける学生が増える可能性がある。

(2)一括採用よりも選考がシビアに
通年採用により、企業側に多様な候補者を一人ひとりじっくりと見極めて比較する余裕が増えるため、一括採用より選考が厳しくなることも覚悟しなければならない。

「通年採用」の企業事例は?

リクルートキャリアがまとめた『就職白書2020』によると、21年卒採用の方法として「通年採用を実施する予定」と回答した企業は25.1%、前年実績から7.6ポイント上昇した。ひとくちに「通年採用」といっても、実施の仕方は様々だ。応募を常時受け付ける企業もあれば、必要に応じて募集をかける企業や、年間複数回の採用を行う企業が通年採用と称する場合もある。先行企業はどのように取り入れているのだろうか。

・楽天
人材のグローバル化を進める楽天は2015年から新卒エンジニア職で通年採用を導入。各国の大学の卒業時期はバラバラだが、選考・入社時期を個別に選択できるので、国内外から多様な人材を確保しやすい。

・ソフトバンク
「必要な時に必要な人材を採用するのがあるべき姿」との考えから2015年に「ユニバーサル採用」と名づけた通年採用へ移行。入社時点で30歳未満という条件さえ満たせば、新卒・既卒を問わず、いつでも誰でも応募でき、入社時期も4、7、10月から選べる。

・ファーストリテイリング
学年不問で随時応募を歓迎している点が特徴。大学1年生に内定を出した実績もある。応募者は不採用になっても再チャレンジが可能で、期が変わればまた選考に参加できる。
これまでの一括採用を見直し、「通年採用」を導入する企業が増えてきている。通年採用は、企業側、求職者側双方に一括採用にはないメリットがある。一方で、デメリットも存在するため、採用活動を行う上で、業務量や採用コストに最大限注意を払うことが企業側に求められるだろう。
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