障がい者雇用に関わる助成金はたくさんありますが、その中でも「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」は、企業が障がい者を雇用するときや、雇用の継続が困難であると認められるときに活用できるものです。「雇用調整金」や「報奨金」は、雇用率よりも多数の障がい者雇用をおこなっている場合に支給されます。また、その他の助成金は、設備の整備や、介助者といった必要な人員を配置するために活用することができるので、一時的な経済的負担が軽減され、障がい者の雇用の促進や雇用の継続をはかりやすくなります。ここでは、「障害者雇用納付金制度」とはどのような仕組みなのか、また、「納付金制度に基づく助成金」にはどのようなものがあるのかを見ていきます。
障がい者雇用担当者が知っておきたい「障害者雇用納付金制度」と「納付金制度」の助成金とは

「障害者雇用納付金制度」の仕組み

障害者雇用促進法では、「障害者雇用率制度」が設けられており、全従業員に対し一定の割合にあたる人数、障がい者を雇用することが求められています。これが、「障害者法定雇用率」といわれるものです。現在、民間企業では2.2%の法定雇用率が定められています。

企業で障がい者雇用率が定められている一方で、障がい者雇用が進んでいない企業もあります。このような場合に、法定雇用未達成の障がい者の人数分を「納付金」として納めなければなりません。これが「障害者雇用納付金」といわれるものです。

「障害者雇用納付金制度」は、この「障害者法定雇用率」と「納付金制度」で構成されています。その目的は、障がい者を雇用するうえで、事業主の経済的負担の調整をはかることと、全体の雇用水準を引き上げることです。

企業が障がい者雇用に取り組む場合、障がい者が働きやすいように、作業施設や設備の改善や、特別の雇用管理などが必要になることがあります。このような経済的負担がともなうアンバランスの解消や、事業主たちが共同して障がい者雇用を進めていかなければならないという社会的連帯責任の理念に基づき、「障害者雇用納付金制度」は成り立っています。

この制度によって「障害者法定雇用率」を達成していない事業主は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に「障害者雇用納付金」を納めることになります。そして、この徴収された納付金を財源として、「障害者雇用調整金」や「報奨金」、「在宅就業障害者特例調整金」や「在宅就業障害者特定報奨金」、そして、各種助成金の支給がおこなわれています。

徴収される金額については、法定障害者雇用率を達成していない場合、法定人数から不足している障がい者1人あたり月に50,000円。ただし、障がい者雇用の義務は、従業員が45.5人以上の企業に課されるものですが、納付金の対象となっている企業は、常用労働者が100人超の規模となります。
障がい者雇用担当者が知っておきたい「障害者雇用納付金制度」と「納付金制度」の助成金とは

「障害者雇用納金制度」による助成金の種類

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に徴収された「障害者雇用納付金」は、雇用率を達成していたり、助成金が必要だったりする企業に還元されます。では、具体的にどのような助成金があるのかを見ていきましょう。

1、障害者雇用調整金
常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で、法定雇用率以上の障がい者を雇用している場合に支払われる助成金です。法定雇用率を超えて雇用している障がい者数に応じて、1人につき月額2万7,000円の「障害者雇用調整金」が支給されます。

2、 在宅就業障害者特例調整金
障害者雇用調整金申請事業主であり、前年度に「在宅就業障がい者」または「在宅就業支援団体」に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合に対応した助成金です。「在宅就業障害者特例調整金」が支給されます。金額の算定方法は、調整額(2万1,000円)に、「事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た金額」を乗じて得た金額、となります。

なお、法定雇用率未達成の企業については、在宅就業障害者特例調整金の額に応じて、障害者雇用納付金が減額されます。

3、 報奨金
常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障がい者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数、または72人、のいずれか多い数)を超えて障がい者を雇用している場合に支給されます。この一定数を超えて雇用している障がい者の人数に2万1,000円を乗じて得た金額が報奨金となります。

4、在宅就業障害者特例報奨金
報奨金申請事業主であって、前年度に在宅就業障がい者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、報奨額(1万7,000円)に、「事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じて得た額の「在宅就業障害者特例報奨金」が支給されます。

5、その他の各種助成金
(1)障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金
事業主が、作業施設、作業施設等の整備、福利厚生施設の整備を行うときに活用できる助成金です。作業が行いやすいように配慮された施設や、改造等がなされた設備の設置、または整備を行う(賃借による設置を含む)場合や、労働者の福祉の増進を図るため、保健施設、給食施設、教養文化施設等の福利厚生施設の設置または整備する場合に、その費用の一部が助成されます。

障害者作業施設設置等助成金に関するものは、支給対象費用の2/3が、障害者福祉施設設置等助成金に関するものは、支給対象費用の1/3が支給されます。

(2)障害者介助等助成金
重度身体障がい者の新規雇い入れ、または継続雇用をはかるための助成金です。障がいの種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助者の配置といった措置をおこなう事業主に対して助成されます。

職場介助者、手話通訳・要約筆記などの担当者、障がい者相談窓口担当者、健康相談医師、職業コンサルタント、在宅勤務コーディネーター、業務遂行援助者の配置や委嘱に関する助成金が設けられています。

介助に関する助成金については、種類によって支給金額が変わります。例えば、職場介助者の配置または委嘱については、支給対象費用の3/4が助成されますし、職場介助者の配置または委嘱の継続措置については、支給対象費用の2/3となります。

また、手話通訳担当者や健康相談医師の委嘱は、委嘱1回あたりの費用の3/4が助成されます。詳細については、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページをご参照ください。

(3)重度障害者等通勤対策助成金
通勤が特に困難な身体障がい者の新規雇い入れ、または継続雇用をはかるうえで、その通勤を容易にするための措置をおこなう事業主等に対して助成されるものです。助成には、次のようなものがあります。また、支給対象費用の3/4が支給されます。

・重度障がい者等用住宅の賃借助成金
・指導員の配置助成金
・住宅手当の支払助成金
・通勤用バスの購入助成金
・通勤用バス運転従事者の委嘱助成金
・通勤援助者の委嘱助成金
・駐車場の賃借助成金
・通勤用自動車の購入助成金


(4)重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
重度身体障がい者、知的障がい者、または精神障がい者を多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主で、障がい者のために事業施設の整備といった対応をおこなう事業主に対して助成されます。

「多数を継続して雇用する」とは、対象障がい者10人以上を1年以上継続して雇用していること、継続して雇用している労働者数の割合が20%以上であることが条件になります。また、支給対象費用の2/3(特例の場合は3/4)が助成されます。

(5)障害者職場実習支援事業
障がい者を雇用したことがない事業主、または精神障がい者を雇用したことがない事業主を対象としています。職場実習を計画し、実習生を受け入れた場合に、謝金といった助成金が支給されるものです。

支給に関しては、実習対象者1人につき、実習をおこなった1日あたり5,000円が支給され、1年間の上限額は50万円となっています。ただし、実習期間が計画よりも半分以下となった場合には支給されません。また、遅刻や早退で1日の実習時間が3時間未満となった場合には、実習したとみなされません。なお、実習期間中の保険料を事業主が負担した場合には、実費が支給されます。

このように障がい者雇用に際しては、さまざまな助成金を活用することができます。企業の必要に合致した助成金を探して、活用してください。


【参考資料】
・厚生労働省、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「在宅就業障害者特例調整金・報奨金の 算定方法を見直しました」

※以下はすべて、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金
障害者介助等助成金
重度障害者等通勤対策助成金
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