多様な働き方やダイバーシティの流れを受けて、「組織管理」という概念も変容し始めている。これまで「管理部門」としての役割を担っていた人事部門も、求められる役割が変わり始めているようだ。今回の調査では、「人事部門の役割」に着目して、「現在、求められている役割」と「今後、求められる役割」について意識調査を行った。そこから派生する「戦略人事」や「HRBP」の浸透度、さらにはリソースの確保や「AI」の導入についてまで、レポートしたい。

●人事部門の役割は今後も高まるか? 管理部門としての「人事部門」に懐疑的な意見も。

例年、人事部門の役割が今後も高まるか、という意識調査を実施している。今回の調査結果を見ても、7割が「高まる」という認識だった。
政府主導による「働き方改革」を皮切りに、ダイバーシティ対応、女性活躍推進、健康経営、戦略人事、HRBP、HRテクノロジー、ピープルアナリティクスの台頭など、ここ数年、急速に個人の働き方や組織のあり方に変化が求められている。
「(今後も役割が)高まる」という回答が多いのは納得できるが、「高まらない」と回答した15%の企業は、どこに課題を感じて回答したのだろう?
フリーコメントを見ると、「社内調整」の課題と、「従来型の管理機能そのものが不要になるかもしれない」という2点が際立っている印象だ。

・会社は人事部門に何を求めているのか、はっきりしない。断片的な命令が下りてくるだけ。人事部門側も、何かを恐れ、積極的な提案をしない。長期視野に立てず、目の前の必要なことを粛々と実行するのみの状態(1001名以上/メーカー)
・フリーランスやリモートワークなど自由な働き方が増えていく中で、人事部門の役割は縮小していくと考えます(1001名以上/情報・通信)
・風土改革が必要(1001名以上/メーカー)
・中小企業のオーナー経営なので、オーナーの一存が今でも強く反映されるので、人事部門の役割は大企業に比べればはるかに劣る(301~1000名/メーカー)
・長期採用計画が経営陣にコミットされること、人事諸施策の成果がHRテックによって定量的に把握・評価されることが整えば人事部門の役割は高まるかもしれないが、この前提条件が整わなければあまり高まらないであろう(301~1000名/サービス)
・組織変革には後ろ向き(301~1000名/メーカー)
・現場の立場が強いから(301~1000名/運輸・不動産・エネルギー)
・管理部門が機能しているとはいえず(301~1000名/サービス)

【図表1】今後人事部門の役割は高まるか

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●人事部門に求められる役割は「人事管理」から「ビジネスの成果に貢献」へと変容していく認識が多数

人事部門に求められる役割を、各企業の人事担当者はどのように捉えているのだろう。『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱する「4分類」を基にして、設問を展開した。
まず、「現在、求められている役割」について質問したところ、トップは「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」(38%)だった。これは、企業規模別でも変わらない。
一方で「今後、求められる役割」を質問したところ、「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」(53%)がトップとなった。
特に、従業員数1001名以上の大企業では、「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」が64%を占めており、現在は28%だった「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」という役割が、今後はわずか4%にまで激減していることは注目に値する。現在は「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」が4割以上でトップを占める1000名以下の中堅・中小企業でも、「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」を挙げる企業が5割近くを占め、大きく逆転している。
近年、HR業界でもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を支援するソリューションが次々と誕生している。クラウド化できる部分や自動化できる部分はシステムを導入することで解決し、より「ビジネスの成果に貢献する」というミッションに人的資源を投入していこう、という謳い文句だが、人事部門の認識も、確かに同じであるようだ。

【図表2】現在、人事部門に求められている役割

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

【図表3】今後、人事部門に求められる役割

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●「戦略人事」の重要性は8割が認識。大企業ほど意識が高い。

人事部門が経営の「戦略パートナー」となるために、「戦略人事」というキーワードについて質問してみた。「従来の管理業務を中心とした人事から、事業戦略の実現をサポートする戦略的な人事に転換すべきである」という、ウルリッチ教授の提言から生まれた言葉だ。
この役割を「重要」と捉えている企業は80%に上り、大企業ほど高い傾向にある。
しかし、実際にその役割を果たせているか、という問いには、7割の企業が「果たせていない」と回答した。これは、企業規模に関わらず、同じ傾向である。
【図表4】「戦略人事」の重要性

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

【図表5】人事部門は「戦略人事」の役割を果たせているか

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

「果たせていない」と感じる理由は「現状で手一杯」という感想が多かった。フリーコメントからいくつかを抜粋して紹介する。

・現状に汲々としている(1001名以上/金融)
・現状は労務管理に特化した超実務家集団となっているため(1001名以上/サービス)
・保守的な年功序列の風土に埋没している。会社の戦略が無い、見えない(1001名以上/メーカー)
・人事管理実務に追われ、戦略面を考える時間的余裕がないことと戦略的に考える人材が育っていない(1001名以上/メーカー)
・人事主導というよりは、会社の事業の後追い(1001名以上/商社・流通)
・あらゆる課題が抽出された段階で留まっている。場当たり的な対応で手一杯になっている(301~1000名/メーカー)
・コア業務にかける時間、人員とも少ない(301~1000名/メーカー)
・人事システムの構築にまだ至っておらず、包括的な把握ができていない(301~1000名/サービス)
・トップダウンだから(300名以下/情報・通信)
・組織編成は営業主体であるため(300名以下/商社・流通)
・人事部門自体が旧来の管理型人事業務に忙殺されているから(人事部門の意識・能力両面でのパフォーマンス不足)(300名以下/情報・通信)
・枝葉の実務にやや振り回されている(300名以下/メーカー)

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●「HRBP(HRビジネスパートナー)」の認知度は、依然として低い

「戦略人事」というキーワードに続いて、「HRBP(HRビジネスパートナー)」に触れてみたい。HRBPとは、事業戦略と人事戦略を連動させるために、経営層や事業部門の責任者に対し、事業成長を人と組織の側面から支援する「プロフェッショナル・パートナー」のことだ。人事部門に籍は置きつつも、日々の業務は事業部門で行う。
回答結果を見ると、全体では「(この言葉を)知っている」(36%)、「聞いたことはある」(29%)にとどまり、まだまだ認知度は低いことが分かる。ただし、大企業では55%が「知っている」と回答しており、「知らない」が4割前後を占めてトップとなっている中堅・中小企業とは認知度が大きく異なる。
重要性の認識についても、従業員数1001名以上の大企業では「重要」という回答が77%、従業員数300名以下の中小企業でも59%に及んだが、従業員数301~1000名の中堅企業では53%にとどまっている。「あまり重要でない」と回答した割合は、中堅企業では24%にも及び、他に突出している。なぜそう思うのか、という理由を求めたところ、「そこまでのレベルではない(301~1000名/運輸・不動産・エネルギー)」というコメントがある程度で、残念ながら具体的な理由は得られなかった。
しかし、このコメントは実態に一番近い「本音」なのかもしれない。

【図表6】「HRBP(HRビジネスパートナー)」という言葉を知っているか

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

【図表7】「HRBP(HRビジネスパートナー)」の重要性(企業規模別:前問で「知らない」と回答した方を除く)

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●パフォーマンスは辛口評価。6割は「リソース不足」の認識。

人事部門のパフォーマンスについて質問したところ、「50~70点未満」(39%)がトップとなった。以下、「30~50点未満」(34%)が多く、「30点未満」が11%も存在する。人事部門の自己評価は、昨年の調査同様に低い。
人事部門に提供されるリソースはどうなのだろう?
「人事部門の業務に求められている役割に対して、それを達成するためのリソース(能力・スキル開発の機会の提供、予算、人員の拡充など)が十分に提供されていますか」という質問に対して、「あまり提供されていない」(36%)、「全く提供されていない」(12%)となり、約6割が「リソース不足」という認識を持っていることが分かった。
【図表8】現在の人事部門のパフォーマンス

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

【図表9】提供されるリソースは充分か

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●足りていないのは「人的リソース」の数と質

具体的に不足しているリソースについて、さらに質問したところ、「人員」(54%)という回答が最も多く、「能力開発の機会」(41%)、「スキル開発の機会」(40%)が続いた。昨年の調査では「スキル開発の機会」と「予算」が共に42%を占めていたが、今回調査では「予算」は32%にとどまった。「人的リソースの不足」こそが、一番の課題になっているようだ。

以下、フリーコメントからもいくつか抜粋してご紹介する。

・採用が進まず、人員を確保できていない(1001名以上/サービス)
・人事部門が重要視されていない(1001名以上/メーカー)
・そこまで手が回らない(1001名以上/情報・通信)
・自己学習に依存している部分が大きい。(1001名以上/商社・流通)
・メンタル急務者の復帰場所(1001名以上/金融)
・他業務と兼務の人員しかおらず、じっくりと業務に取り組む余裕が全くない(301~1000名/メーカー)
・人事は総務部の延長線上にあり、利益を生み出さない部門としか認識されていないため、他の部門で活躍できなかった人材が回ってきやすい(301~1000名/メーカー)
・プロパーで専門的な人材が育っておらず、外部調達が多い(301~1000名/メーカー)
・経営側が会社としての課題と捉えていない(301~1000名/運輸・不動産・エネルギー)
・セクション間での隔たり、役職での区切りが存在する(300名以下/メーカー)
・人事部門への要員配置の少なさ(300名以下/情報・通信)
・予算、人員面において求められる役割に対し大きく不足していると感じる(300名以下/金融)
【図表10】「提供されていない」と感じるリソース

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

●AI導入は8割が「前向き」な回答

人的リソース不足の解決策として、「AIの導入」についても質問した。
最も多かった「懐疑的だが、試す価値はあると思う」(39%)という回答まで含めると、肯定的な回答は77%に及ぶ。特に大企業では、「今後必須のことなので、積極的に導入すべき」(34%)という回答が、中堅・中小企業と比べて突出していた。

人事部門の担当者は、「AI」についてどのような印象を抱いているのか。
フリーコメントから抜粋して紹介するので、ぜひご確認頂きたい。

・人的資源が限られているので、AIで効率化が図れるのであれば使うべき(1001名以上/サービス)
・人事部本来の業務に注力するために、省力化できる部分には着手すべき(1001名以上/サービス)
・採用へのAI活用などが既に進められているが、まだ実績的に不足しており、判断は時期尚早と考えている(1001名以上/メーカー)
・ぜひ導入したいとは思うが、現時点ではまだ導入費用が高価であることと、それを担う社内人材が不足していることが課題だと思う(1001名以上/メーカー)
・AIで行われる仕組みを十分に理解しないと誤った方向に導きかねないため(1001名以上/メーカー)
・少子高齢化の中で合理化できる部分は進める必要があるので(301~1000名/サービス)
・工程管理も含めて業務改善を行う必要がある。仕事の進め方をより本質的なものに変更する必要あり(301~1000名/サービス)
・機械(AIを含む)ができることがあれば、人手不足もカバーできる(301~1000名/サービス)
・あくまで個人的には、主観的な目線や偏った見方をしないはずのAIであるため(教え方次第でもあるが)100%任せるとはいかないが、ヒトの目にAIの視点も併せてみてはどうかと考える(301~1000名/商社・流通)
・人は感情の生き物であり、AIでは把握仕切れない(300名以下/メーカー)
・多種多様な人事情報を多面的に活用するためには、現在の人員と能力だけでは不可能だから(300名以下/情報・通信)
・具体的に何をどこまでできるのか、そのために必要な時間と費用がどうなっているのか、また、必要なデータをどのように収集してインプットするのかが分からない(300名以下/商社・流通)
・AIはまだ進化途中と感じる、もっと精度高く汎用性のあるものでないと導入しにくい(300名以下/金融)

【図表11】人事部門に「AI」を導入することについて、どのように考えるか

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 人事の課題【2】

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】人事の課題とキャリアに関するアンケート調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2019年5月8日~5月15日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事責任者・ご担当者
有効回答:137件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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