最近、大学の就職部・キャリアセンターの方から我が社に問い合わせや講演の依頼を受けることが多くなりました。中立的なスタンスで発表する我が社の調査データに関心を持っていただけているようです。

 大学は現在、大きな変革の波の中にあります。文部科学省は2010年に大学設置基準を改正し、大学がキャリア教育を正課の中で実施すること、すなわち学生に「就業力」を身に付けさせることを義務付け、2011年度から施行しています。裏返せば、就職率低下の大きな要因の一つとして、就業力の低い大学生が大量に出ていることを政府も認識し、強い危機感を持っているということでしょう。

 私はこの動きを当然のことだと思いますし、以前から大学がもっと就業力強化に注力すべきだと訴えていました。就職部・キャリアセンターの役割は、今後大学がいかに変われるか、重要なカギを握っていると言えるでしょう。

 前回、就職ナビ頼みの採用・就職活動の限界について書きましたが、今回は企業が2013年度採用において強化しようとしている大学対策について、大学就職部・キャリアセンターのアンケート調査結果を交えて、その実態を述べたいと思います。

学内企業説明会は企業、大学とも強化で一致

この連載の第1回で、新卒採用の大きなトレンドとして、企業が大学のターゲティングを強化していることを述べました。調査結果では約4割の企業が、新卒採用でターゲット大学を設定していると答えています。これは、就職ナビ全盛の新卒採用シーンの中で、安易な応募者が大量にあふれてしまったことの反動といえます。志望度の希薄な大量の応募者の中からコストや手間暇をかけてセレクトしても、求める人材に出会えない。それよりも、狙ったターゲットに絞って注力し、採用活動をする方が効率的であると考える企業が増えてきているわけです。
 2011年6月に企業に調査したアンケートでは、「2013年度新卒採用の広報で力を入れたいこと」を聞いたところ、1位の就職ナビが47.3%に対して、2位の学内企業説明会が47.1%と、ほぼ同数になっています[図表1]。これは2012年度の実態と比較すると、学内企業説明会重視の姿勢が非常に強くなっていることが分かります。
では一方で、大学就職部・キャリアセンターの方はどうでしょうか。いくら企業側が学内企業説明会を強化すると言っても、大学側が受け入れ数を増やさなければ厳しい話になってしまいます。
 2011年5月に大学就職部・キャリアセンターに調査したアンケート「企業と連携して積極的に実施すべき就職支援」では「学内セミナー/説明会」が1位であり、70%近い大学がそう回答しています[図表2]。なお、学内企業説明会の参加企業数を増やす予定の大学は45%に上り、減らす予定の大学は2%弱でほとんどありません。
全体的には両者の思惑は一致していますので、企業は大学側に向けて学内企業説明会への参加を積極的に求めていくべきでしょう。ただし、一部の上位大学は、言うまでもなく人気が非常に高く、「新規の受け付けはほとんどできていない状態」(首都圏上位私大)というところもあります。一方で、「実施期間を増やし、拡大していく。新規の特徴ある企業を幅広く求めたい」(首都圏上位私大)というところもあり、全体的に大学は拡大傾向にあるわけですから、積極的にアプローチをしていくべきでしょう。

大学就職部・キャリアセンターの問題意識

アンケートでは、学内企業説明会だけではなく、大学対策を強化すると答える企業が増えています。前出の「2013年度新卒採用の広報で力を入れたいこと」では、「就職部・キャリアセンターへの情報提供」と答えた企業は約20%で、全体で6位の位置にあります。ただ、どのようにアプローチしていいか分からない、効果が見えないという企業も少なくありません。一方で、就職部・キャリアセンターとの連携を密に取り、就職ナビに頼らない採用を実践している企業もあります。
 大学対策を強化し、就職部・キャリアセンターと連携していくには、まず相手の考えていること、問題意識を知ることが重要です。以下では、就職部・キャリアセンターの現場の問題意識について、アンケート調査で多かったコメントを紹介したいと思います。
【「今後の就職指導における課題」は?――の問いに対するコメント】

○ 低学年からのキャリア教育
・ 1〜2年次からのキャリア教育の在り方
・ 低学年からのキャリア科目の開講
・ 初年次より就職意識の醸成を図る。大学生活そのものの充実
・ 低学年(1〜2年生)に対する就職・キャリア支援(高・大連携)
・ 低年次からの動機付け、入学前の基礎学力教育

⇒ 圧倒的に多いのが「低学年からのキャリア教育」の問題です。3年生からでは遅いというのが、就職部・キャリアセンターの方々の本音です。世間一般では、企業の採用活動が学業を圧迫しているから早期化・長期化を自粛せよという論調ですが、就職指導の現場では、より早くキャリア教育を開始して、意識を高めたいと考えています。この点で企業側としてどのような協力ができるかがポイントです。

○ キャリア教育を正課とすること、教授との連携
・ キャリア教育との連携
・ キャリア教育の再検討と構築
・ 教職一体となった全学体制の確立
・ 就職を教育の一環ととらえる文化の醸成
・ 教員の就職に関する意識が低い。今後教職一体となった学生の就職指導が望まれる
・ キャリア教育として自己分析・業界研究・エントリーシート対策など実施しているが、正課としていないため学生の参加数が少ない。大学設置基準の一部改正を踏まえ、ガイダンス用の正課科目へ移行を検討したい

⇒ 前の「低学年からのキャリア教育」とも関係しますが、大学設置基準にキャリア教育が義務付けられたことで、キャリア教育をいかに学内に浸透させるかが問題となっています。ただ、大きな抵抗勢力は、実は大学の教授たちです。「学校は就職予備校ではない」との考えが強く、キャリア教育にも否定的な先生が非常に多いようです。また、キャリア教育の中身は学校ごとに独自に考えろというのが文部科学省の指針であり、その中身をどのようにするかが問題となっています。この点でも、企業側の協力が求められています。

○ キャリアセンターに来ない学生対策
・ キャリアセンターに来ない学生へのアプローチ
・ キャリア支援課に来ない学生をいかに呼び込むか
・ Web就活から脱却させ、キャリアサポート課を中心とした学校就活へと学生を誘導する
・ トップ層、中間層、ボトム層への働き掛けの内容と、マンパワーおよび時間の配分、満足度の高い就職、広くは卒業後の生き方をいかに提示できるか
・ パソコンや携帯の普及により、ナビによる求人検索が増加し、内定等の情報もキャリアセンターで把握することが難しい(学生からの報告が少ない)

⇒ この問題も就職部・キャリアセンターの方から非常によく聞きます。キャリアセンターがすべての就職志望学生とコンタクトする手っ取り早い方法は、キャリア教育を正課の必修科目にすればよいのですが、学内の反発が強く、できないケースがほとんどのようです。企業が就職部・キャリアセンターと連携して、学生を引き付ける方策が重要だと思います。

○ 学生の就職意識向上
・ 学生全体の就業意識の低さ
・ 受け身の学生、就職活動に対し無関心な学生の意欲をいかに高めていくか
・ ゆとり世代の特徴である「他人依存」の気持ちから、「自立心」を持って行動できる若者へ、転換を図るキャリア教育を確立する
・ 学生にいかにやる気を出させるかが課題であります
・ 就職に対する意識の低い学生に対する指導および思うように就職活動が進まない学生に対する個別のサポートが課題と考える

⇒ 就職意識の低い学生が年々増える傾向にあり、その対策に頭を悩ませている方がたくさんいます。全体的な底上げが必要で、小・中・高校や家庭教育の問題でもあり、個別の大学、企業だけで解決できる問題ではありませんが、だからといって何もしないわけにはいかず…。難しい問題ですね。

○ 企業の開拓
・ 企業の開拓
・ 企業とのパイプ強化
・ 中堅・中小企業を中心とした企業開拓
・ 本学をよく理解してくれる企業の増大
・ 地域志向が強い傾向があるため、地方企業の開拓と学生のマッチング
・ 地元企業を中心とした求人開拓・求人情報収集
・ 学生と求人先との人材マッチング

⇒ 大学も、企業との関係づくりを強化したいと考えるところが増えています。求人票を送り付けるだけでは、企業の顔は見えません。大学側のニーズをとらえ、協力・連携していく姿勢が関係強化には重要です。

○ 個別の課題
・ 外国人留学生の就職支援
・ 障害を持つ学生の就職支援
・ 卒業時未就職者への対応

⇒ 著名な大学でも、上記の問題には頭を悩ませています。外国人留学生について言えば、グローバル採用が増えているとはいえ、まだ一部の大手企業にとどまっており、決して門戸が広いとは言えません。個々の企業の事情もあるのですべてに応えられるわけではありませんが、ニーズがあれば大学にダイレクトに相談してみるとよいでしょう。

○ 学生の精神的サポート
・ 就職活動の長期化に伴い、学生の精神的な疲労が年々大きくなっているように感じます。特に内定を獲得できない学生にはメンタルケアの充実に努める必要があると思います
・ 心のケアが必要な学生が少しであるが増えている

⇒ 就職時期に限ったことではないようですが、精神的サポートが必要な学生は確実に増えているようです。接触してくる学生はまだよいのですが、呼び掛けても出て来ない学生への対応には大学側も頭を悩ましています。
 こうしてみると、大学就職部・キャリアセンターの方々は環境変化が激しい中で、様々な課題を抱えながら、学生の就職支援に走り回っています。また、今回は取り上げませんが、こういった問題に対する学校ごとの取り組みには非常に大きな差があり、今後数年で就職結果に大きな差が出てくることでしょう(すでに出てきていますが)。企業にとって、積極的に就職支援に取り組む「やる気のある大学の就職部・キャリアセンター」と数多く連携できれば、マッチした人材獲得の継続的な成果につながることは間違いないでしょう。
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