「目標管理(MBO)」とは、従業員に目標を決めてもらい、その達成率や進捗に応じて人事評価や仕事を管理するマネジメント手法を指す。日本でも有名なピーター・ドラッカー氏が提唱した概念として有名といえる。目標管理は、「従業員のモチベーション向上」や「評価を下しやすくなる」など、従業員や人事、マネジメント層などにメリットがある手法だ。一方で、「時代の変化への対応遅れ」や「マネジメント層の負荷増」など課題も指摘される手法である。そのため人事・マネジメント層は、目標管理について正確に理解した上で導入することが求められる。
「目標管理(MBO)」の意味や目的とは? 面談と評価時のメリット、目標設定の手法で有名なSMARTなどを解説

「目標管理(MBO)」の意味と目的とは

「目標管理(MBO)」とは、従業員に目標を設定してもらい、その進捗や達成度合いを人事評価や仕事の管理に活用するマネジメント手法を意味する。従業員は上司のサポートを受けながら、目標達成に向けて業務を遂行していく。目標管理(MBO)は、アメリカの経営学者であったピーター・ドラッカー氏が提唱した概念で、「Management By Objectives」の略である。ここでは、日本企業においても普及している目標管理について、目的や広まった背景、目標管理と似たマネジメント手法である「OKR」との違いなどを解説していく。

●「目標管理」の目的

「目標管理」を企業が導入する目的は以下の2点だ。

・設定した適切な目標に向かって、試行錯誤を繰り返しながら目標達成を目指してもらうことで、「従業員の成長」につなげる
・属人的ではなく、「より公平で透明性の高い人事評価」で従業員を評価する


人事評価については、目標管理を導入することで、目標の達成・未達及び達成度合いなどの結果が明確に出る。そのため、評価者の考えや好みに左右されない、より公平で透明性の高い人事評価を下せるようになる。

●「目標管理」が広まった背景

日本で「目標管理」が広まった大きな背景には、“成果主義の導入”が挙げられる。これまでの日本では、不況時には“業績アップ”や“事業拡大に見合う人材の育成”を目的に、目標管理を導入する企業があったが、一部に限られていた。転換点は1990年代のバブル崩壊だ。バブル崩壊を機に、人件費を含めたコストカットをするようになった日本企業が、成果主義を導入し始めた。そして成果主義の導入に併せて、目標管理を「成果によって評価を行う手法」として着目し、導入を進めていったのだ。このような背景によって広まった目標管理だが、2000年代に入ると、結果だけではなくプロセスも評価項目として加えるなど、各社がカスタマイズして活用していくようになった。

●OKRとの違い

目標管理(MBO)と似た概念であるOKR(「Objectives and Key Results」の略。「目標と主要な結果」と訳す)との大きな違いは以下のとおりだ。なお、以下の表にある「定量的な目標」とは数値化できる目標、「定性的目標」は数値化できない目標を指す。
「目標管理(MBO)」の意味や目的とは? 面談と評価時のメリット、目標設定の手法で有名なSMARTなどを解説
上記のとおり、目標管理が目標・ノルマの設定による人材管理の強化や報酬の決定を主な目的であるのに対し、OKRは企業全体の生産性向上を目的にしているという大きな違いがある。

面談や評価などの場面でもたらす「目標管理(MBO)」のメリット

ここでは面談や評価などにおける「目標管理(MBO)」のメリットを6つ紹介していく。目標管理ならではのメリットもあるので、ぜひ参考にしよう。

(1)モチベーションが向上する

目標管理では、従業員は上司と話し合い、試行錯誤をしながら目標達成を目指していく。こうした過程を踏むため、目標達成できた場合、従業員は大きな達成感や自信を得ることができる。さらに、上司からも評価されることで自己肯定感が高まり、「次も頑張ろう」とモチベーションの向上につながっていく。

(2)経営理念が浸透する

目標管理において個々の従業員が定める目標は、最終的には経営理念の実現につながる。上司が従業員に対して、定めた目標がどのように経営理念につながるのかを、業務に落とし込んで具体的に説明する。そうすることで、従業員は経営理念をより自分事として意識することができるようになるだろう。

(3)客観的な評価制度をつくることができる

目標管理では、目標の達成・未達や進捗、プロセスなど、客観的な数字をもとに従業員を評価していく。そのため、目標管理を評価制度にも活用することで、主観ではなく客観的な評価制度を作成することができる。

(4)従業員の自律性が高まる

目標管理では、従業員自身が目標を設定し、その実現に向けて工夫や努力をしていくことが求められる。つまり、目標管理において、従業員の能動的な姿勢や自律性は欠かすことができない要素なのだ。そのため、目標管理を導入して適切に運用することで、従業員の自律性を高めていくことができる。

(5)従業員のスキルアップにつながる

目標管理においては、従業員は上司に進捗管理をされた上で、適宜サポートやフィードバックを受けながら、目標達成を目指していく。上司とのコミュニケーションのなかで、従業員は目標達成のために自分に何が足りないのかを理解し、改善を繰り返すことができる。このような過程を踏むことで、従業員のスキルは伸びていき、その結果企業の生産性向上にも寄与していく。

(6)評価がしやすくなる

目標管理では、数値化できる定量的な目標を設定されることがあるため、達成度合い・進捗が客観的に分かりやすい。例えば「3ヵ月間で売上げ10%アップ」という目標を掲げた場合、達成できたかどうか、達成できなかった場合は何%足りなかったのかをすぐに算出することができる。このように、目標管理の活用は“評価のしやすさ”にもつながっていく。

おさえておきたい「目標管理(MBO)」のデメリット

続いて、目標管理の5つのデメリットを紹介する。メリットだけでなく、デメリットもおさえておこう。

(1)モチベーションの低下

具体的には以下の状況でモチベーションの低下が危惧される。

・高すぎる目標を設定する
・低すぎる目標を設定する
・上司から一方的に目標を決められる
・上司から適切なサポートを受けられない
・上司のモチベーションが低い


このように、従業員のモチベーションは目標管理の運用方法に大きく左右される。そのため、目標管理においては「従業員が主体的に目標を決めること」や「上司は目標が高すぎず低すぎないように気をつけ、サポートもしっかり行う」など、適切な運用が求められる。

(2)マネジメント層への負荷

目標管理では、マネジメント層(上司)が従業員にフィードバックやサポート、評価をしなければならず、特に部下を多く抱える社員にとって大きな負担になってしまう。そのため、目標管理においては、「定める目標を厳選する」、「評価期間を長くする代わりに従業員とのコミュニケーションの機会を増やす」など、“マネジメント層の負荷低減”が大きなポイントになる。

(3)手段の目的化

目標管理は、あくまで従業員個人の成果や成長、ひいては組織の目標を達成するための手段である。決して目標管理における目標達成が目的ではない。ただ、どうしても点取りゲームのようになってしまう場合がある。目標管理を運用すること自体を目的化するのではなく、その先の本来の目的を見据えることが重要だ。

(4)目標達成の固執

目標管理において、設定した目標を達成することに固執してしまうと、以下のようなデメリットが生じる。

・従業員は目標達成に寄与しない業務へのモチベーションが低下する
・人事・マネジメント層(上司)は評価が未達の従業員に厳しい評価を下し、従業員のモチベーションを下げてしまう


客観的な評価を下せる点が目標管理のメリットではあるが、あくまでバランスを取りながら、目標達成に固執しすぎないように運用することも重要だ。

(5)時代変化の対応遅れ

目標管理において、目標に対する評価・振り返りの頻度は基本的に年に1回。ただ時代の流れが速い現代において、1年の間にビジネス環境が大きく変わる可能性は十分ある。つまり、環境によっては1年という評価・振り返りの頻度が少なすぎて、時代の変化に対応できなくなる可能性があるのだ。そのため、従業員の目標もビジネス環境に合わせて適宜変更しなければならない。ただそれはそれで、従業員の混乱やマネジメント層(上司)への負担の増加が危惧されてしまう。

「目標管理(MBO)」のポイント、目標設定の手法で有名なSMARTなどを紹介

最後に、目標管理(MBO)導入に際して意識したいポイントを解説する。「SMART」や「HARDゴール」など、目標設定に関する有名な手法も紹介したい。

●従業員の自主性の尊重

目標管理においては「従業員の自主性の尊重」が重要だ。特に目標を決める際は、上司が押しつけるのではなく、従業員自らが目標を設定することが求められる。なぜなら、押しつけられた目標では、従業員のモチベーションは向上しないからだ。目標設定をする際は上司と従業員の面談が行われるが、双方で話し合いながらも、あくまで従業員の自主性を尊重するようにしよう。

●適切なフィードバックの実施

目標管理の導入において、マネジメント層・上司は、従業員の状況に合わせた「適切なフィードバックの実施」も意識したい。

・目標達成に向けて困難にぶつかっている
・目標に対する進捗が悪くモチベーションが低下している


特に上記のような状況に従業員が陥っている場合、適宜フィードバック及びサポートをすることが重要だ。

●組織と個人目標のリンク

目標管理において必ず意識したいポイントが、「組織と個人目標のリンク」だ。個人目標は組織の目標を達成するためにあり、組織の目標とリンクしない個人目標は、企業のメリットにならない。従業員としても、組織の目標とリンクした個人目標に向かい、それを達成することで、“企業への貢献”を意識できるようになる。組織と個人目標は必ずリンクさせよう。

●「SMART」や「HARDゴール」、「ランクアップ法」などを活用する

目標管理において目標を決める際には、「SMART」や「HARDゴール」、「ランクアップ法」、「マンダラチャート」といった目標設定で有名な手法の活用も検討しよう。

【SMART】
SMARTは、以下「5つの要素」に基づいて目標を立てる手法だ。

・Specific(具体的)
・Measurable(測定可能)
・Agreed upon(達成が可能)
・Realistic(現実的)
・Timely(期限が明確)


SMARTを活用することで、客観的で明確な目標設定ができる。

【HARDゴール】
HARDゴールは、以下4つの指標に沿って目標を設定する手法である。

・Heartfelt(心から達成したいと思う目標)
・Animated(目標達成後の活き活きとした姿が思い浮かべられる)
・Required(目標達成するために求められるスキル・能力を明確にする)
・Difficult(困難かつやりがいを感じられるもの)


SMARTよりも感情にフォーカスした手法といえる。

【ランクアップ法】
ランクアップ法は、以下6つのポイントから目標を立てる手法。

・改善:現状の課題・マイナス要素の改善をする
・代行:上司や先輩など高いレベルの仕事を代行できるように
・研究:特定のテーマについて研究する
・多能化:新たなスキル・ノウハウを習得する
・ノウハウの普及:自分のスキルをノウハウとしてまとめる
・プロ化:スキル・ノウハウをプロレベルまで引き上げる


ランクアップ法を活用することで、特定の分野でプロフェッショナルになれるような、質の高い目標を立てることができる。

【マンダラチャート】
3×3のマスを9つ並べたチャート(マスは合計81個)の真ん中に最終的な目標を記載し、周りのマスにやるべきことを記入していく手法だ。メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が高校時代に活用していた手法としても有名である。
「目標管理(MBO)」では、従業員が目標を設定し、それに向かって上司と併走していく。目標管理は、運用の仕方によっては従業員のモチベーションを向上させることもできれば、低下させてしまうこともある。そのため、導入にあたっては「従業員の自主性の尊重」や「適切なフィードバックの実施」などがポイントになる。目標管理を導入する際は、運用方法について事前にしっかり学び、想定した上で、組織にマッチした方法を模索していこう。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!