いつの時代にあっても、企業は自らが掲げる経営目標の実現を目指していかないといけない。難しいのは、企業の方向性をいかに従業員と共有していくかだ。そうしたなか、目標管理の手法の一つである「OKR」が近年注目されている。企業・組織と従業員の目標をリンクさせ、全社レベルでの業務効率や生産性の向上につなげていこうという試みであり、GoogleやFacebookなどの世界的企業では以前から取り入れられている。本記事では、「OKR」の意味や特徴、企業事例などを解説していきたい。
「OKR」の意味や特徴とは? 企業事例やMBO、KPIとの違いなどを解説

「OKR」とは何か

まずは、「OKR」の概要や注目されている背景、MBOやKPIとの違いから見ていこう。

●「OKR」とは

「OKR」とは、企業・組織が掲げる高い目標を達成するための目標管理法を指す。“Objectives and Key Results”の略称であり、Objectivesは「達成すべき目標」、Key Resultsは「目標達成のための主要な結果・成果」を意味する。もともと、Intelが初めて採用した手法で、以後数々のグローバル企業が取り入れている。

「OKR」の基本形は、一つのチャレンジングなObjectives(達成すべき目標)に幾つかのKey Results(目標達成のための主要な結果・成果)が設定されていることだ。

Objectivesは定性的であり、シンプルで覚えやすく、さらにはチームの士気を高める挑戦しがいのあるものでなければならない。一方、Key ResultsはObjectivesへの進捗を測るための定量的な指標で、一つのObjectivesに対して2~5つ程度あると良いとされている。

●注目されている背景

「OKR」が今注目される背景はどこにあるのであろうか。その要因の一つとして、市場や技術が日々目覚ましく変化し、先を予測できないビジネス環境になっていることがある。もはや、「半期」、「1年」といった長いスパンで目標を設定し、成果を見極めていくスタイルでは変化のスピードに追いつくことはできないだろう。より短い期間での目標管理方法への移行が必要になったことでOKRがクローズアップされている。さらに、OKRの導入は「会社と従業員の方向性の一致」、「コミュニケーションの活性化」、「生産性の向上」、「社員のモチベーション向上」といった効果も期待できる。そうした点を評価し多くの企業が採用しているといって良いだろう。

●MBOやKPIとの違い

「OKR」と混同しやすい目標管理法に、MBO(Management By Objectives:目標管理制度)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)がある。実はこれらの意味合いは「OKR」と全く異なっている。どう違うのかを説明しよう。

「OKR」では、組織の生産性向上を目的として全社レベルで目標を共有し、その進捗を明確な基準を持って測定していく。あえて高い目標を掲げるので、期待される達成水準も60~70%で良いとされている。

これに対して、MBOは人事考課の要素、評価制度として位置づけられる。また報酬の決定にも使われる。目標は上司と従業員本人の間で共有されるが、達成水準としては100%を期待される。また、レビューサイクルは半年か年に1回が多い。達成度の測定基準は組織によっても変わる。

KPIはプロジェクトの最終目標(KGI)の達成に向けたプロセスをチェックする指標といえる。目標達成を最終目的に置いており、目標の共有範囲は部門やプロジェクトごと。当然ながら、達成度の測定基準はプロジェクトによって変わってくるが、100%の達成度が期待されている。

おさえておきたい「OKR」の特徴

次に、「OKR」の主な特徴を紹介しよう。

●レビューの頻度

レビューの頻度は1ヵ月月~四半期という短い期間で行うのが一般的だ。目標設定と測定がスピーディーにできるため、変化のスピードが速いグローバル市場に対応しやすいといえる。

●測定する際の具体性

「OKR」では、「SMART」という目標設定手法を用いて定量的にスコアリングしていく。「SMART」とは、Specific(具体的に)、Measurable(測定可能な)、Achievable(達成可能な)、Related(経営目標に関連した)、Time-bound(時間制約がある)という5つの単語の頭文字を取っている。測定基準が明確に定められているのは、「OKR」の大きな特徴といえる。

●共有範囲

「OKR」の最終目標は、企業・組織全体の生産性向上にある。その目標は全社で共有され、従業員一人ひとりがどんなパフォーマンスを発揮しているかも組織内でオープンにされる。

●報酬と無関係

「OKR」は、従業員一人ひとりの報酬制度とは一切結びつけないようにしている。なぜなら、達成したいがために人は目標を低めに設定しがちになるからだ。あくまでも、目的は企業・組織として業績向上を目指し、より高い目標を達成するために可能性を大きく広げていくことである。

●達成度

「OKR」では、あえて野心的な目標が設けられる。それだけに、期待される達成度も100%ではない。おおよそ60~70%の成果で良いとされている。ストレッチの効いた目標によって、個人の成長につながる期待がある。

気になる「OKR」のメリットとデメリット

それでは、「OKR」を導入するメリットとデメリットはどこにあるのであろうか。まずは、メリットから説明していこう。

●メリット

・柔軟に目標の修正、調整ができる
「OKR」は目標サイクルが1ヵ月から四半期と短い。そのため、柔軟に目標を修正したり、調整したりしていける。リスクとムダを軽減できるというわけだ。

・コミュニケーションを改善できる
「OKR」では、全社で同じ目標と成果を共有していく。そのため、会社全体の動きが把握しやすくなる。これによって、チームや個人間での相互連携や意思疎通が容易になってくるので、結果としてコミュニケーションが活性化される。

・目標設定の時間を短縮できる
「OKR」の目標は、シンプルかつ記憶しやすいものであるのが前提だ。それだけに、目標設定にあまり時間が掛からないのもメリットである。

・エンゲージメントの向上につながる
全社で目標を共有することで、従業員一人ひとりが企業への貢献を感じやすくなる。業務により前向きに取り組めることで、エンゲージメントの向上にもつながるだろう。

・目標に集中できる
「OKR」は目標が限られる分、一つの目標により高い集中力を持って取り組むことができるようになる。

・チャレンジングな目標設定ができる
「OKR」は評価制度や報酬制度とはリンクされないのが原則なので、失敗を恐れることなく、思い切って高い目標に挑むことができる。

・企業ビジョンが深く浸透する
「OKR」は企業・組織の目標と個人の目標が紐づいているため、企業のビジョンが従業員にもわかりやすくなり、深く浸透させていくことができる。結果として、社員の行動を会社のベクトルに合わせやすくなる。

・業務の効率化につながる
「OKR」では、すべての従業員が同じ目標を共有することになる。何が「主要な成果」につながり、タスクの優先順位をどうつければ良いのかも判断しやすい。注力すべき仕事に集中することができ、効率的に行動していけるのだ。

●デメリット

「OKR」もメリットばかりではない。デメリットがいくつかあることをおさえておく必要がある。第一に、従業員数が少ない会社・組織には向かない。特に、マルチタスクを余儀なくされる環境では機能しにくいと言っていいだろう。第二に、運用負担が大きいことだ。短期間でのレビューや見直しが求められるので、運用にかなりの時間を割く必要がある。それが確保できない企業では機能しないといえる。第三に、ストレスが掛かることだ。かなり高い目標を掲げるとは言っても、達成できないことによるストレスは十分予測できる。これらを踏まえて、導入するかどうかを検討していく必要がある。

「OKR」を導入する際に気をつけたいポイントとは

次は、「OKR」の具体的な導入方法や留意したいポイントについて解説していこう。

●目標を高く置く

より良い成果を得るためには、目標をどう設定するかが重要になってくる。一般的には、目標は100%達成を目指して設定されるが、「OKR」は違う。全力を尽くして取り組んでも60~70%の達成度になるくらいの野心的、チャレンジングな目標を掲げるのが望ましいとされている。

●評価と連動させない

目標達成率を人事評価や報酬と連動・反映させることは、絶対に避けなければいけない。従業員が個人目標を立てる時に、達成率が低いと評価も下がると考えてしまい、高いレベルの目標設定がされにくくなるからである。

●KPIやMBOなどと混同しないように運用する

KPIやMBOと混同しないことも重要だ。レビューの期間や目標設定の仕方も異なるため、本来の目的から外れた運用になってしまうため注意しよう。

●進捗状況を共有する

当然ながら、「OKR」は目標を立てたら終わりではない。目標の達成度合いを随時確認し、必要があればフィードバックを行う必要がある。そのためにも、お互いの進捗状況を可視化したり、共有したりする機会を定期的に設けたいものだ。

●業務の優先順位を見直す

どの業務をどういう順番で行っていくかを見極めることもポイントだ。どの業務に重点を置くかを考え整理し、何が「OKR」に影響を及ぼすのかという視点から業務に優先順位を付けるようにしたい。

●成果の測定は素早く実施する

「OKR」では成果をスピーディーに測定していくことが大切だ。測定に多大な時間を要してしまうようでは、次のアクションも取れない。また、従業員のモチベーションも次第に低下してしまう。

「OKR」を導入している企業の事例を紹介

「OKR」は、誰もが知るような多数のグローバル企業で導入されている。代表例として、Googleとメルカリの事例を取り上げよう。

●Google

Googleは2000年代初頭から「OKR」を導入してきた。四半期ごとに全社的なレベルでミーティングを開催し、「OKR」の公開と評価を行っている。また、定期的に上司と部下が1on1ミーティングの機会を設け、上司が部下の「OKR」を把握し必要なフィードバックをするようにしている。高い目標を掲げ、優秀な人材のエンゲージメント向上を促すほか、従業員やチームの士気を高めるように工夫している。

●メルカリ

メルカリも「OKR」を導入する企業の一つだ。その目的は、挑戦を後押しする風土の醸成。チャレンジングな目標をあえて掲げるので、達成率も50%と低めに設定している。具体的には、四半期ごとにデータをもとに見直し、上司と部下との面談を行っている。さらには、半年に一度のペースでそれぞれのチームの「OKR」を共有し理解を深めることを目的として合宿も実施している。チームとしてのコミュニケーションツールに「OKR」を位置づけていることがわかる。
「OKR」は、組織と従業員の方向性や意識を合わせ、より高度なパフォーマンスを追求していくための目標管理方法の一つだ。成果の最大化のほかにも、コミュニケーションやエンゲージメント、生産性など多くの面でメリットがある。本記事で紹介した特徴やポイントをおさえながら、目標管理を見直してみたり、新たな手法として検討したりしてみてはいかがだろうか。
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