新年度を迎えたタイミングで、今回は新入社員研修を切り口に、DX人材の早期育成の重要性についてご紹介したい。本記事では、2020年12月10日に私が登壇したオンラインセミナー「新入社員・若手から始める オンラインによるDX人財育成(※)」でお話した内容をお届けする。
オンラインセミナー「新入社員・若手から始める オンラインによるDX人財育成」とは
なぜ若手からDX人材の育成を始めるべきなのか(第8回)

新入社員育成が、企業や組織を「人が育つ組織」に変えるきっかけに

今回、内定から新入社員、そして3年目くらいまでの若手社員育成をテーマにしたのには大きな理由がある。それはメンタリング制度を10年にわたって研究実践してわかったことだが、新入社員育成をきっかけとして、企業や組織を「人が育つ組織」に変えることができるからである。トップダウンで人材育成をやるには限度があるのだ。必要なステップを踏んで、社員全員に「育成こそが重要な優先課題である」という価値観を身につけさせることが遠く見えるようで近道なのである。

新人育成期間は、最も受講生のモチベーションが高い。受講生が前向きであるということは「吸収率」が圧倒的に高く、本来の「成長」という成果が最も得られやすい。企業あるいは組織の育成担当はこの大きな節目を逃してはならない。

残念なことに、育成は「時を戻そう」と言うわけにはいかない。新入社員時代は、本人にとってやり直しのきかないものなのだ。そこで知るべきことを学ばなければ、どこかで後悔する。

新入社員研修のテーマで重要な自立性とは「常に深く考え抜く」ことが前提条件である。私のイメージで言うと、自立型人材は「水」のような流動的な組織を作り、多様で可変的な形態を可能とする。これまでの日本企業の成功は、分子の一つひとつが同じ方向を向いて規則正しく並んでいる「氷」のような固形的組織で成功してきた。ただ、そのような組織は、ある程度までは固くて強いが、柔軟性に欠け、想定外の力に弱い。

新入社員といえども、自由闊達に考え、柔軟性が高く、自らを律する(自己評価、自己判断)軸を持たせることが大切であり、皆同じカラーにしないことこそ肝要だといえる。そのため、ここからの内容について、一般論とはかなり離れた意見になるかもしれないので、あらかじめご了承いただきたい。

DX人材の育成は、思い込みのない新入社員や若手社員から始めるべき

「DX人材」の育成はどこからやればいいのだろうか。それは、普通は職場のエースからであろう。新しいことは普通エースから始めるのが日本企業の常道である。エースは経験と知見が豊富だから、新しいことにも対処できると考えるわけだ。

しかし、私は、ことDXに限っては、いやDX含めてイノベーションに関わる領域においては、現有する知識や経験は重要ではないと考える。

自動車産業でTOPの日本が、EVにおいてトップクラスになれないことからも明らかである。DXにおいては、むしろ思い込みのないデジタルネイティブ世代から始めるべきだと考える。それこそ入社から3年目までの若手層こそが最優先であろう。

DXの基礎知識は、受験勉強同様、今日ではすでにビジネスマナーだと思ってもらいたい。ビジネスマナーなのだから、新入社員はもちろん、進んだ会社は内定者に対し、DXの基礎を教えるべきである。

また今企業では、従来の成功モデルから脱却し、新たなビジネス自体のデジタル変革、価値創造が求められている。だからこそ、過去にとらわれない新入社員から、先に新しい時代を自ら作って行く能力を身につける必要があるのではないだろうか。

コロナ禍やVUCA時代における若手育成のポイントとは

では、コロナ禍やVUCA時代における若手育成では何が重要になってくるのだろうか。私は以下の三つの要素がポイントであると考えている。

(1)ニューノーマル
(2)デジタルネイティブ
(3)受入組織力


(1)ニューノーマルと(3)受入組織力
在宅をベースとした勤務体系が根付いており、それを踏まえた新人育成が必要となる。挨拶の仕方や名刺の出し方よりも、リモート環境下でのビジネスマナーやコミュニケーション、チームビルディング、リーダーシップ、段取り力が主となる。

在宅環境では、発信型でなければ育成に時間がかかってしまう。メンターや上司が定期的に新入社員の様子を見に行くのは、オンライン上では限度があるからだ。

内定者、新人には、オンラインでの情報交換、リモートでの生活に、慣れさせなければいけない。Webミーティングツールに頼りすぎず、メールや電話を組み合わせた多様な手段を用意することで、ストレスレスなコミュニケーションを模索する必要がある。

さらに重要なのは、(3)の受入組織力、つまり受け入れ側の教育だ。新人と受け入れ側の教育に対する比率は3対7にし、受け入れ側の教育に時間と金をかけるべきだと思う。なぜなら、コロナ禍での正解は誰もわからないからだ。

社内のメンバーは、オンラインによって横の連携が取りにくいにもかかわらず、マネージャーからのオーダーは増えキャパシティに負荷がかかっていく。そのため、マネジメント側に相当の器量と余力がなければ、組織は崩壊するであろう。

このインビジブルな業務運営は、メンバー側の発信力と、マネジメント側のメンバーを信頼する力が問われる。それがなければ、会社に出社した方が早いとなる。

(2)デジタルネイティブ
昔と今の全く違う点は何か。戦後から平和が当たり前の社会となり、IT化が進んだ、というこの二点だけでも十分社会は変わったといえる。大きく分けると戦後直後、高度成長、バブル期、ロスジェネ、ゆとり、デジタルネイティブといった各世代において、価値観も変化してきている。

バブル期世代から、生きていくことや食べることが最重要課題ではなくなってきたといえる。このあたりで既にオタク化やゆとり教育は始まっており、徐々にバイタリティにあふれた日本人は減りつつある。

しかし実は、いろんなスポーツを観るとわかるのだが、デジタルネイティブ世代は多くの種目で先輩諸氏を上回るポテンシャルを見せてくれている。同じ世代である今の若手社員は、デジタル分野に強い。フィールドは違うが、デジタルの分野をリードする人材としてうまく育成することで、企業にも大きな成果をもたらしてくれるのではないだろうか。

●ニューノーマル時代の育成方法
コロナ禍によって、露骨に変わったのは研修形態も見逃せない。密を防止するために、企業の集合形式は軒並みほぼ全滅。殆どがオンラインに形を変え、動画やeラーニングといったリモート化が進んでいる。

集合研修がオンライン化されて変化したのは、大きく分けて下記の5つではないだろうか。
(1)ディスカッションが難しくなった
(2)研修オペレーション稼働が増大化した
(3)オンライン配信環境が必要になった
(4)オンラインファシリテーションスキルが必要になった
(5)カリキュラム構成が変わった


この変化は、内定者や新人育成にどのような影響を与えるか考えてみたい。

・同期意識
学習スタイルのオンライン化により同期で助け合うコミュニティの形成が難しい状況となった。同じ時間をリアルで過ごした仲間意識と同じレベルで体得するのはオンラインでは難しく、将来的になんらかの影響があるかもしれない。そのため、同期同士のコミュニティを形成するうえでの施策が、オンラインの育成では必要になってくるだろう。

・カリキュラム
オンライン上では、身体を使うカリキュラム、ハンズオン型研修が難しい。システム系のプログラムはもちろん、チームビルディング等で得られる体験型の研修の効果は大きく、この損失を埋めるためには、早急な代替えの工夫が必要になってくる。

DX人材の育成で同時に必要な企業文化のイノベーション

内定者教育、新入社員研修を皮切りにして、DX教育を体系立てて、若手にとってはDXが常識であるように社内のマインドを改革しなければならない。これが最も厄介な課題である。GAFAが強いのは、これができる、いやこれが当たり前だからなのだ。

企業の成り立ちは、日本企業においては魂であり、OSとなる。これがグローバルで戦うためのDXの足枷となるのではないだろうか。過去にしばられている時点で、イノベーティブとは言えない。DXを単なる業務改善レベルに押しとどめてしまうだろう。若手社員に本気でGAFAのビジネスを研究させる、また本格的なOJTに出すぐらいの思い切ったアクションをとってもいいのではないかと思う。

そして、企業文化を若手に合わせていくというイノベーションが必要かもしれない。実際、若者にDXをリードさせるためには、承認や共感など若手のモチベーション向上施策や、エンパワーメント(権限委譲)など、組織全体の変革を伴うであろう

次回は、これらのアクションを支えるしかけを人事面から考えていきたいと思う。
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