「リモートワーク」における労務管理(第11回)

大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流

今回から全4回を予定して「デジタル時代の労務と人事」と題し、主に働き方改革に取り組むにあたっての労務管理の要所を連載する予定でした。一方で、本稿執筆時点(2020年4月6日)で猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響で多くの企業が在宅勤務にシフトするなか、リモートワークに注目が集まっています。よって、予定を変更して、リモートワークにともなう労務管理の要所をお伝えしていきたいと思います。

リモートワークとは「メンバー間の積極的なコミュニケーションをともなうテレワーク」

日本国内では、事業場外勤務を示す言葉としては「テレワーク」が浸透しています。テレワークの定義(※1)は「情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」となっています。一方で「リモートワーク」はまだ新しい言葉のため明確な定義はないようですが、「チームで進める仕事(プロジェクトなど)を、メンバーがそれぞれ別の場所にいながら進めること」を表すことが多いようです。よって本稿では「テレワークを前提に、メンバーがチャットツールや社内SNSなどを活用して活発にコミュニケーションを取りながら仕事を進めること」をリモートワークと定義します。

現在は新型コロナウイルス対策としてのBCP(※2)側面の在宅勤務に加え、2021年に延期が決定した東京オリンピック・パラリンピック競技大会時の安全・円滑な輸送サービス提供を目的としたTDM(※3)の手段としても、リモートワークは注目されています。しかし本来、リモートワークは「働き方の多様性」を実現するための労務施策であり、在宅勤務だけではなくカフェやコワーキングスペースでのモバイル勤務、サテライトオフィス勤務もリモートワークの形態に含まれます。従業員一人ひとりのライフステージに合わせた働き方や、外出先での資料準備など、就業時間と場所を従業員が柔軟に選択し生産性を高めることがリモートワークのメリットです。すなわち、あくまでその目的を実現する観点での労務管理が必要になります。

※1:一般社団法人日本テレワーク協会
※2:Business Continuity Plan:事業継続計画
※3:Transportation Demand Management:交通需要マネジメント

リモートワーク導入は「就労場所」と「労働時間管理」が肝

まずは、「リモートワーク」の制度導入時と運用時に注意すべき労務管理の留意点をあげてみます。

当然、リモートワークにおいても「労働基準関係法令」(※4)は適用されます。リモートワーク導入に際しては、特に自社の就業場所と労働時間制度に関する取り決めを再確認し、制度設計する必要があります。

まず就業場所ですが、これは採用時の「書面の交付による明示事項」であり、「労働契約書」といった書面での明示が義務とされています。就業場所が変更となる場合でも、「就業規則」に就業場所が具体的に規定されていれば再度書面を交付する必要はない(※5)とされていますが、明示していない企業もあるでしょう。就業場所として、自宅やサテライトオフィスなどが含まれているかを就業規則で確認し、記載がない場合は導入時に改定が必要です。

また、派遣社員にもリモートワークの適用を考えている場合は、派遣会社(派遣元)の「雇用契約」や「就業規則」などでリモートワークが可能となっている必要があります。派遣社員に対する「労働基準関係法令」の責務は、派遣先企業ではなく派遣会社が負っていますので、「労働者派遣契約」の内容とあわせて、派遣元に確認が必要です(※6)。新型コロナウイルスに関連して一部企業が採用した「原則全員在宅勤務」のような強い措置に派遣社員も含めたい場合は、派遣元へ確認・変更の要請が必要になります。

次に「労働時間制度」についてです。各労働時間制度における留意点は、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に記載がありますので詳細は割愛します。ここでは、実務上、特に注意すべき点のみを記載します。

リモートワークにおいて、使用者の具体的な指揮監督がおよばないために労働時間を算定することが困難な場合は、「事業場外みなし労働時間制」が適用されます。通常は就業規則に定める所定労働時間を労働時間とします。しかし、業務遂行のために通常所定労働時間を超えて働く場合、みなし労働時間とは「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」となります。

この「通常必要とされる時間」は、厚労省のガイドラインでは「労使協定」で定めることが望ましいとされています。これは、「時間外労働時間を含めての業務遂行が通常」という、語弊を恐れずにいえば「残業することを前提とした業務量を従業員に配分している状態」について、労使が正しく実態を踏まえ、協議することが不可欠だからです。事業場外みなし労働時間制を初めて適用する企業で、所定労働時間を超えた業務時間を「みなし労働時間」とすることを検討している場合は、労使間で協議したうえで「労使協定」を定めることを強く推奨します。なお、労使協定は労働基準監督署長へ届出が必要になります。

リモートワークの就業場所と労働時間制度について検討した後は、制度を整えます。リモートワークでは管理職による労務管理度合いがどうしても低下する傾向があります。結果として長時間労働や休憩未取得が常態化し、本来の目的である「柔軟な働き方の実現」や「生産性向上」を阻害することがないようにしなければなりません。形式的な労働時間管理はもちろん、長時間労働が発生しえない制度としておく必要があります。具体的には、以下の4つの観点について検討する必要があります。
そのほか、リモートワークでの労務管理においてよくある疑問・質問をいくつか記載しておきますので、制度設計時の参考としてください。
※4:「労働基準法」、「労働安全衛生法」、「労働者災害補償保険法」など
※5:ただし、対象者の採用時に「就業規則」も交付している必要があります
※6:2020年4月13日までに厚生労働省から、労働者派遣契約については「緊急の必要がある場合について、事前に書面による契約の変更をおこなうことを要するものではない」との見解が出ています

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス ディレクター
茂 陽介

外資系総合コンサルティングファーム、事業会社を経て、2017年9月より現職。コンサルティングファームでは主にHR領域のマネジメントプロセス設計・改善に関するサービスに従事。事業会社では人事企画担当として人材マネジメントに関する制度設計、事業統合やカーブアウト時の制度統合・新設を担当。近年はコンプライアンスと生産性をキーワードとした多様な働き方の実現に関するコンサルティングサービスを専門としている。
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社

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