昨今、ビジネス環境の変化はより激しさを増し、未来はますます予測困難になっている。こうした中で、企業は刻一刻と変わる状況に合わせて素早い意思決定と改善を続ける必要がある。そこで重要な役割を握るのが、日々、業務の最前線で実務と人員管理を担っているフロントライン・リーダー(初級・中級管理職)の存在だ。
第4回HRテクノロジー大賞 ラーニングサービス部門優秀賞を受賞し、日本のリーダーシップ開発では多くの支援実績を誇る株式会社マネジメント サービス センター(MSC)と、世界最大手の人材コンサルティング会社DDI社は、世界90カ国以上、23,000人以上のフロントライン・リーダーに調査を行った。その結果、企業が次世代のリーダーシップ開発において抱える多様な課題が浮き彫りになった。
HRプロでは、DDIジャパンのジェネラルマネジャーであるケン・グラハム博士と、MSCの取締役である脇田幸子氏に、フロントライン・リーダーを取り巻く、グローバル及び日本における課題や、リーダーを早期に見極め育成を加速させるための方法について伺った。
放任状態の若手リーダー、辞めていく優秀人材。世界的調査で明らかになった、初級・中級管理職(フロントライン・リーダー)の現状と課題

激変するビジネス環境の中、存在感を増すフロントライン・リーダー

寺澤康介(以下、寺澤) 本日はインタビューをお受けいただき、ありがとうございます。DDI社は、全世界90カ国以上の23,000人以上のフロントライン・リーダー(初級・中級管理職)の調査を実施されていますね。まずはフロントライン・リーダーがなぜ今、企業にとって重要なのか教えてください。
放任状態の若手リーダー、辞めていく優秀人材。世界的調査で明らかになった、初級・中級管理職(フロントライン・リーダー)の現状と課題
ケン・グラハム博士(以下、グラハム) フロントライン・リーダーとは、全管理職のうち50~60%を占める、初級・中級管理職を指します。そのフロントライン・リーダーは全従業員の約8割を管理しています。当社の調査では、従業員のエンゲージメントの変化のうち70%はフロントライン・リーダーが占めるとの結果が出ており、つまりフロントライン・リーダーは、その部下である8割の従業員のエンゲージメントに影響を与えているということになります。さらに我々や他社の調査の結果、フロントライン・リーダーは、生産性や成果だけではなく、顧客満足度や利益にも影響を及ぼすということが分かりました。以上のことから、フロントライン・リーダーは非常に重要な存在といえるのです。

寺澤 リーダーの重要性については多くの企業が認識するところですが、なぜ今、フロントライン・リーダーの役割が特に重要度を増しているのでしょうか。日本企業からは、昨今では現場による素早い判断が必要な状況が増えたとの声が聞かれます。変化の激しいビジネス環境の中でより機敏に動くために、現場に近いフロントライン・リーダーの重要性が増しているのではないかと推察しますが、いかがでしょうか。

グラハム まさにその通りです。以前はシニアレベルのリーダーが行ってきたレベルの意思決定を、今はフロントライン・リーダーが行っていますし、現場で働く人々の価値観も多様化しています。フロントライン・リーダーの仕事は、以前よりもずっと複雑になってきているのです。

脇田幸子氏(以下、脇田) 激変する環境の中、トップの方針が変更されるスピードも加速しています。新しい戦略をスピーディーに実行に移していくためにも、フロントライン・リーダーの強化は不可欠です。

新任リーダーの半数以上が、事前トレーニングなしで就任している

寺澤 それほど重要なフロントライン・リーダーですが、課題が多くあるようですね。調査結果を拝見した中で、「リーダーの半数以上は放置されている」というデータに驚きました。

グラハム 私も驚き、同時にがっかりしました。未だに多くの企業では、初めてフロントライン・リーダーになる人が、体系立ったトレーニングをまったく受けることのない状態で、管理職の地位に就いているのです。
今、ほとんどの国において、企業価値は無形資産によって測られます。ここでいう無形資産とは、どのようなアイデアを持ち、どのようなイノベーションがなされているのか、ということですが、それらを生み出すのは人材に他なりません。にもかかわらず、その人材の8割もの人々を管理するフロントライン・リーダーが、リーダーシップスキル向上のためのトレーニングを受けることができていないのですから、これは変えていかねばなりません。
放任状態の若手リーダー、辞めていく優秀人材。世界的調査で明らかになった、初級・中級管理職(フロントライン・リーダー)の現状と課題
寺澤 日本企業には階層別研修があり、管理職に昇進する場合に研修を受けることが多いですが、これは不十分だと思われますか。

脇田 研修はよく実施されていると思いますが、残念ながら、半ば昇進イベントとして形式化されてしまっているケースもあります。必ずしもフロントライン・リーダーに必要な能力の特定、そして開発にまでは至っていないのが現状です。

この後、日本企業が検討すべき課題や、フロントライン・リーダーの必須要件などに
ついての話題が続きます。続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。


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