第61回 応募倍率の罠

大学の就職支援室からみた新卒採用

最近、特に行政関係の方から「民間企業の採用意欲が旺盛で公務員志望者が少なくなっている、学内で求人説明会をやらせて欲しい」という依頼を受けることが多くなりました。応募者が集まらないのは認知度が低くアピールが足りないためではないか。もっと知ってもらう機会が必要なので、大学で直接学生にアピールさせてほしい、というロジックのようです。
確かに民間企業の売り手市場の影響で、どこの官公庁も応募者数が減っているようです。募集したものの筆記試験で合格ラインに届いた人がおらず再募集になった、合格者がみな辞退してしまった、という話は最近いろいろなところで耳にします。少子高齢化の問題に加えて、超売り手市場の民間への志望者の流出、加えて団塊の世代の入れ替えに伴い、採用者数が少なくなっている状況もあり、本学でも公務員志望者数が数年前に比べると少し減ってきている印象があります。そういう意味では人材確保の点で行政といえども安心できなくなっている状況であるといえると思います。
実は同じような相談は企業からも特に今年になって増えてきています。大学の立場から申し上げると、お受けするときりがないことと、やっても恐らく学生が集まらないと思われるので、ほとんどの場合はお断りさせていただいております。理由をご説明してできるだけ丁寧にお断りさせていただいているつもりなのですが、もしかしたら、ものすごく気分を害されていらっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。

今回は、採用難に関連して、「応募倍率の罠」について書いてみたいと思います。
以下に示す三つの点で、新卒採用でこれまであたり前だと思われていたことが通用しなくなってきていると考えています。

一つ目は、応募倍率と優秀人材獲得に相関関係がない、という点です。私も企業の採用をやっているときはエントリ数や応募倍率がとても気になっていましたので、ここにこだわりたくなる気持ちはよく理解できます。応募倍率が高い中から厳選して採用した方が採用担当者としても満足感が高いのもわかるのですが、本当にそれで満足しても良いのかという疑問を持つ必要があるのではないでしょうか。例として、ゲーム業界や食品業界で考えてみるとわかりやすいかもしれません。こうした業界は学生がエンドユーザとしてよく会社名や製品名を知っているので就活でも人気があり、求人倍率が高い業界だと思います。実際に私もゲーム業界の採用をやっていたことがあるのですが、大半の応募者はゲームが大好きなので働きたいという志望動機を書いてきます。しかし、実際に選考を進めていくと優秀な人材がとても少ないというジレンマに陥ることがよくありました。
ゲーム業界で欲しい人材とは端的には「売れるゲーム」を作りたい人であり、作れそうな人です。しかし、大半の応募者はただゲームが作りたい人、あるいはゲーム会社に就職したい人で、残念ながら採用したい人材でないことが多かったように感じます。実際に、採用人数の10倍近い応募者を面接したにも関わらず、一人も内定を出せなかったということがありました。つまり、たくさんの応募者が集まると優秀な人材が採用できる、というのは実は幻想にすぎないということです。応募倍率ももちろん大事だとは思いますが、採用したい人材がどれだけ集まっているのかという視点(実質有効応募倍率)での分析と、これを上げる視点での採用広報戦略を考えてみる必要があるのではと考えます。「誰にどのような情報をどのような手段で伝えるべきか」という視点で検証する必要があるのではないでしょうか。

二つ目は、学生一人当たりの企業への応募数が減っており、企業側の応募倍率も低下している、という点です。この1〜2年の学生の動きを見ていると、売り手市場の影響からか活動量が少なくなっています。また、学生は以前のように手当たり次第に応募しているわけではなく、応募する際にある程度情報を集めて選んでいるようです。そのため応募先からの反応にかなり敏感になっており、企業の対応が遅れるとそこで学生のその企業への志望順位が下がってしまっているという話をよく聞きます。応募倍率が以前より下がっていることを是認しつつ、応募者に対してより丁寧できめ細やかな対応が必要になっているといえるのではないでしょうか。

三つ目は、マスメディアを使った応募倍率の増加は優秀人材獲得に結び付かない、という点です。学生の情報収集の方法がマスメディアからSNSを含めたネットメディアに移行しつつあります。ただこれについては情報収集スキルのレベルに左右される部分があり、受け身思考で情報を受け止める学生には相変わらずマスメディアへの展開が有効なような気がしますが、能動的な情報収集を行う学生にはマスメディアの情報にはあまり効果がないように感じます。これは言いかえると能動的な学生ほど「量より質」に重きを置いた情報収集を行っており、そういう学生が反応する情報と受け身思考で情報を受け止める学生では集まり方が全く異なるという状況になっているように思います。残念ながら、能動的な情報収集スキルを持っている学生は本学においても2〜3割程度と少なく、こうした学生だけで応募倍率を高めるようなプロモーションは極めて難易度が高いと考えられます。仮にマスメディアで広く情報を提供し応募倍率を上げることができたとしても、それは受け身思考の学生を多く集めてしまっているに過ぎない、ということかもしれません。

いろいろな意味で新卒採用においてもこれまでの常識が通用しなくなっているなと感じる今日この頃です。
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著者プロフィール

金沢大学 就職支援室長 山本 均

1962年生、金沢大学法学部卒業後、株式会社ナナオに入社、採用教育に従事、その後株式会社アイオーデータ機器、沖電気工業株式会社にて人事採用業務に従事。2007年10月に帰省し、故郷金沢で人材紹介事業を中心とした人事コンサルティング会社、株式会社北陸人材ネットを設立、代表取締役に就任。2009年4月より金沢大学就職支援室長に就任(兼務)。学生の就職支援業務に従事する傍ら、大学の就業力向上プロジェクトに従事中。

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