夏の甲子園大会も終わり、そろそろドラフト候補の話題がいろいろ出てくる時期になりました。そうした中で、早稲田実業の清宮選手の動向がいろいろな意味で注目されています。彼の高校野球での実績は素晴らしいものがあるのですが、個人的には彼がプロで活躍できるかどうかについては懐疑的な見方をしています。
第60回 優秀と早熟
というのは彼の場合、小学校高学年の際ですでに身長が180センチを超えており、その後現在に至るまで数センチしか身長が伸びていないという話を聞いたからです。普通の子供よりも成長が早く、小学校高学年の段階で高校生くらいの肉体に成長していたようです。同じ年代で試合をしていても、肉体的には小学生の中に高校生が混じっているような状況ですので、活躍できるのはある意味当たり前という見方ができる、ということですね。このことからわかるのは、彼は早熟であると言えることです。早熟であるかどうかということを「成長年齢」というそうで、スポーツの世界では最近この指標に注目する指導者が増えているそうです。現在活躍しているダルビッシュ選手は逆に成長が遅く、高校時代は成長痛にさいなまれており、まともに投げられなかったという話も聞いたことがあります。

実はキャリア形成においても同様の仮説が成り立つのでは、と最近感じています。大学生と話をしていると、考え方が子供っぽいとか成熟しているとかいう個人差はもちろんあるのですが、これに加えてマズローの欲求段階説を学生の仕事選びのマインドと重ねてみると面白いことに気づきます。

マズローの欲求段階説は皆さんもご存知だと思いますが、人間の欲求には5段階あり、低次の欲求が満たされると次の欲求を本質的に求めていくという説で、具体的には生存→安定→帰属→賞賛→自己実現という段階を経ていくとされています。(余談ですが、最近詳しい解説書を読んだのですが、自己実現にも自己満足的な段階を経て、最終的には社会貢献性の高い欲求にすすむとのことです)

今の学生の多くは大きな組織、安定した職場を重視するといわれています。これは安定欲求と帰属欲求を就職先に求めているといえます。一方で、このコラムでも何度も指摘しているように、学生の優秀層は規模も安定性もあまり気にせずに自分のやりたいことや実現したい夢をかなえることにこだわって就職先を探す、という状況になっています。この状況を「二極化している」ととらえることもできるのですが、ここに成長年齢という考え方とマズローの欲求段階説も入れてみると以下のような仮説が成り立つのではと考えています。

一つは、新卒時に安定志向で会社選びをしている学生も、その後、様々な経験を積み、成功体験や充足感を得る中で、欲求の段階が高次元に上がる、つまり仕事や組織の中で自己実現を求めるように意識と行動が変わるのではないか、という仮説。
もう一つは、今の採用の仕組みでは早熟と優秀に区分がきちんとできておらず、どちらかというと早熟な学生を優秀な学生とみなして採用してしまっているのではないか、という仮説です。

一つ目の仮説については大きな問題があります。大人の中でも欲求の段階が上がることなく低層の欲求にすがってしか生きられない人がいる、という点です。経験を積めば誰もが高次元の欲求を持つとは言いがたく、いくつかの要因が組み合わさらないと起こりえないのではないか、と考えられます。逆に考えれば、欲求の高次元への移行をうながす上で必要な要素が特定できれば成長を促すことが可能なのではないか、と考えることができるのではないでしょうか。もしそうであるならば、「自社が用意できる要素で成長できる人材を選ぶ」という考え方での選考に採用の視点を変えることができるように感じております。

二つ目の仮説についてですが、採用時の評価と入社後の人事評価の相関関係を調べることでこの仮説の有効性を検証することができるのではないか、と考えております。実は前職時にこの調査を実施したことがあります。毎年100~150名新卒者を採用していたのですが、過去15年くらいさかのぼって採用試験時の評価と入社後の人事考課を対比してみました。延べ5~600名、10年前後の期間のデータで調査、分析を行ったのですが、入社してから3年くらいはある程度の相関関係はあるものの、その後はほぼ無関係という結果でした。このことから、早熟を優秀とみなしてしまっているというという仮説は一定の有効性があるように思っています。

この二つの仮説は更に多くのデータがあれば統計的に分析することができ、有効性を検証することができるように感じています。
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