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 今月の人事規定

第6回
リハビリ出社規定
山口 貞利
主旨と内容

 今月は、前号の「休職・復職規定」を補完する「リハビリ出社規定」をご紹介します。復職を巡っては、休職者が休職期間中に休職事由を克服し、完全に職場復帰できるケースとそうでないケースが発生します。完全に職場復帰できないケースでは、自然退職になるケースと、不完全な状態で職場復帰するケースとがあります。一般に、うつ病などの回復には時間がかかるといわれ、また症状も各人まちまちで、通常の傷病のように完全復帰の見極めが難しいことがあります。そこで、リハビリ出社という方法で徐々に仕事に慣れてもらおうというわけです。実際、担当医からは「治癒したといってもすぐにフルタイム出勤を課すにはリスクがある」とのアドバイスが添えられることは多いのです。
 ここで重要なのが職場復帰に向けての準備プログラムです。今月は、復職にあたっての「リハビリ出社規定」と、労使のトラブルを予防する「休職通知書」「復職通知書」をご紹介します。人事規定だけでなく、本人や家族に提示する通知書を準備することで労務リスクは減らせます。

検討内容
1. 復職の可否は会社が判断する
 従業員側には厳しく聞こえますが、「復職の判断は会社がする」というのが原則です。まず、精神疾患で休職に至った場合のルールを就業規定に記載しておきます。そして復職の判断は会社側がすると定めます。なぜなら、医師の「復職可能」という診断書だけで判断すると、相当のリスクを伴うケースが多いからです。医師は病気や症状については専門家ですが、会社の業務や個別の職務内容を深く理解しているわけではありません。休職期間が満了する間際となった患者(=従業員)から頼まれ、「負担の少ない軽易な業務なら復職可能」あるいは単に「復職可能」といった診断書を作成することはありえます。大企業なら、従業員に負担のかからない他部署への配置換えなどが可能かもしれませんが、中小企業の場合、配置換えは困難です。そうであるなら医師の診断書は判断材料の1 つとして尊重しつつも、「休職前に行っていた業務遂行能力を回復していない場合は復職を認めない」とか「休職前に行っていた業務遂行能力の最低でも8 割以上回復しない場合は復職を認めない」といった主旨を就業規則に明記しておく必要があるでしょう。
2. 「リハビリ出社」の導入
 どうしても職場復帰の判断がつかないような場合には、段階的復職という方法があります。半日勤務、時間外労働のない勤務、以前より軽易な業務で復帰させる方法などがありえます。いきなりの復帰でなく、復職の準備期間としてのソフトな復帰の方法(リハビリ期間)といえます。そして、リハビリ出社には以下の2 つの方法があります。
  • (1)休職扱いでの出社訓練
     リハビリ出社を復職前の出社訓練と位置づけるもので、従業員の身分は引き続き休職中の扱いです。従って、出社しても業務に就かせることはできず、自分の身の回りの整理などをしてもらいます。まずは職場に正常に通えるかどうか、職場で過ごせるかどうかを見るにとどめます。また、仕事ではないので、出退勤の途中や会社で事故にあったとしても、労働災害や通勤災害は適用されません。よって、会社は民間の保険などに加入しておく必要があります。
  • (2)復職後のウォーミングアップ
     もう1 つは、リハビリ出社を復職後のウォーミングアップ期間と考えるものです。この場合は所定労働時間を短くしたり、与える業務を休職前より軽易なものにするなどの配慮をします。ちなみにこのときの賃金は労働時間比例で構いません。また、労働災害、通勤災害は通常通り適用となります。従って、規定作成に当たってはこれらの条件面も明記しておきます。規定に明記が困難な場合は、ケースごとに「リハビリ通知書」を作成して詳細を確認し合います。
     なお、精神疾患から復職する場合のリハビリ出社には特に注意を要します。精神疾患では朝の出勤が困難な傾向があります。つまり、朝から出勤できることが治癒の証明になりますので、リハビリ規定には「始業時間は通常通りとする」との明記が必要です。
     また、業務に就かせる場合は労働となり賃金が発生します。賃金が発生すると、傷病手当金などは打ち切りとなりますので注意してください。
     復職者の仕事量や待遇について法的な規定はありませんが、復職を会社が認めたときから、会社には安全配慮義務が発生します。従って復職したとはいえ、すぐに通常の業務を与えると再発や事故の可能性があると予見される場合は、業務量の調整や残業の制限等の措置をしばらくとる必要もあるかもしれません。その旨も規定に記しますが、具体的な対応は個々にその都度決定していきますので「会社がその都度決定する」という表現にとどめておくほうが柔軟に対応できると考えます。
     なお、復職したものの能力発揮が不十分であるなど職務に支障が生じ、降格となる場合があります。その際はあらかじめ就業規定に明記されている必要があります。

(休職期間中の待遇)
第○条
休職期間中の賃金は無給とする。
2 本規定に基づき休職する社員は、休職期間中主治医の診断に従い療養回復に努めるとともに、原則として毎月、治癒の状況、休職の必要性などについて、これを証する診断書等を添えて会社に報告するものとする。
3 診断書作成費用等は、会社による別段の指示がない限り、社員本人の負担とする。休職申請時、復職申請時においても同様とする。
(復職後の待遇)
第○条
復職後の職務内容、労働条件その他待遇等に関しては、休職の直前を基準とする。ただし、復職後の状態により、休職前と同程度の質・量の業務に服することが不可能で、業務の軽減等の措置を取る場合には、その状況に応じた給与の減額等の調整を行うことがある。また明らかに継続して職務能力が下がり、現資格の業務に耐えることができない場合は降格を行う場合がある。
(リハビリ出社制度)
第○条
会社は、指定する医師の判断により休職中の社員に対しリハビリ出社を認めることが復職可否の判断に有益と認める場合、休職者の申請に基づき、リハビリ出社を認めることがある。リハビリ出社の条件等については医師の意見を参考に会社がその都度決定するものとする。
2 前項のリハビリ出社は、復職可否の判定のために上記医師の指示のもとに試行されるものとし、その期間は休職期間に通算する。
(リハビリ出社中の待遇)
第○条
前条に定めるリハビリ出社中の給与については、休職前の給与によらず、その就業実態に応じて無給または時間給とし、その他の条件等も含めその都度会社の定めによるものとする。

(2011.12.26掲載)

山口 貞利
やまさだ経営コンサルティング
代表/特定社会保険労務士

1961年生まれ。関西学院大学卒業後,東証一部上場企業にて商品企画,人事職担当。グループ企業全般の人事マネジャーを経て退職。2007年人事コンサルタントとして独立。課長を元気にするマネジメント等の研修や人事制度構築・改善のための活動を中心に手がける。著書に『実際にやってみてわかった中小企業M&A成功のための人事労務』がある。

※この記事は『月刊人事マネジメント』に掲載された内容を転載しています。
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