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 今月の人事規定

第2回
テレワーク(在宅勤務)規定
山口 貞利
主旨と内容

テレワークとは情報通信技術(IT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をいいます。柔軟な雇用に対応するためには有効な方法で、特に出産や子育て、介護の事情のある社員などに有効性の高い働き方です。
テレワークの一種に在宅勤務制度があり、通勤時間が省略できたり、家事との両立が図りやすくなったりします。また、身体にハンディを負うなど、通勤が困難になった場合も、仕事に従事できるメリットがあります。

テレワークの形態としては、自宅にいながら仕事をする「在宅型」、本社から離れた近郊の職住近接の事務所に出勤して仕事をする「サテライトオフィス型」、携帯情報端末を利用して移動先でも仕事をする「モバイル型」などがあります。中でも、最近は情報機器の発達によって「在宅型」を導入する企業が増えています。企業側には「仕事の生産性・効率性の向上」、「オフィス関係コストの削減」などのメリットがありますし、社員にとっても「通勤上の肉体的・精神的負担の軽減」、「時間の有効活用」などのメリットが出てきます。

テレワークのメリット・デメリット

図1

検討内容

では制度導入に当たって必要な規定について検討してみましょう。テレワーク勤務においても通常勤務と同じ労働時間とするなら、新たな労働時間制度のルール化は必要なく、既存の就業規則を適用することで足ります。しかし、勤務管理の方法については、通常勤務と異なったスタイルになりますから、ルール(規定)が必要です。
テレワークで必要な規定は画一的なものではなく、導入企業におけるテレワークの形態によって異なり“実施頻度”によるところが大きいと言えます。例えば、テレワーク勤務の実施頻度によっては、通勤手当支給基準の見直しが必要になるケースもあります。
導入に当たっては、テレワークの実施頻度やテレワーカーに対する影響度を検討し対応していくことになります。

[ルール作り検証項目]

□就業場所の明示 □労働時間 □テレワーク勤務の適性 □服務規律
□業務連絡・報告の方法 □人事評価制度 □手当 □健康管理
□情報セキュリティ □労働災害 □教育・研修  
□緊急時の対応 □費用負担の清算 □回覧物・定期会議  

なお、厚労省が示している『情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン』(在宅勤務ガイドライン)では、就業規則の作成・変更や協定の締結届出が必要な場合として、次のような項目を挙げています(以下一部)。(1)労働時間、(2)業績評価等の取扱い、(3)通信費およびIT機器の費用、(4)社内教育等の取扱い、(5)その他。
この在宅勤務ガイドラインを踏まえて就業規定に定める内容を以下に整理します。

>>労働時間
在宅勤務であっても通常の労働時間の適用が可能であり、事業場と同じ勤務体系の場合、就業規則の変更は不要。テレワーク勤務が、就業規則に規定されていない勤務体系(フレックスタイム制等)を適用する場合やみなし労働時間制を適用する場合において、就業規則に事業場外みなし労働時間制の規定がないときは、その規定を追加する必要有。

>>給与・手当
人事評価制度を新設・改定したり、通勤手当等・給与の変更を行う場合は就業規則に追加。

>>安全衛生(作業環境)
>>安全衛生(健康診断)
>>安全衛生(作業管理)VDT作業
>>服務規律

既存の就業規則では資料の持ち帰りルールや漏洩防止のための情報管理の方法が不十分で、その内容を追加・変更したり、新たにテレワーク勤務規定等を作成したりする場合には、就業規則にその内容を追加。

つまり、テレワークを導入する際は、まず規定を新しく別個に作成することを考えるのではなく、就業規則を補完するものとして、就業規則に定められた規定以外で必要と思われる項目を「テレワーク勤務規定」として作成すればよいのです。

[テレワーク(在宅勤務)規定の例]

テレワーク(在宅勤務)規定

第1条(目的)
この規定は、通勤時間の節約による業務の効率化を通じ、ゆとりある生活と仕事との両立を目的として導入するテレワーク制度の運用について定める。

第2条(定義
在宅勤務者とは、雇用の形態に関係なく、第3 条に該当する者で自宅(および自宅に順ずる場所)で勤務する者をいう。

第3条(対象者)
在宅勤務の対象者は勤続○年以上で下記のいずれかに該当し、第2 項の職種に該当する者のうち、本人が希望し、かつ会社が認めた者とする。

(1) 小学校就学○年までの子を養育する者
(2) 育児・介護休業規定に定める介護休業の対象者
2 在宅勤務の対象業務は次の通りとする。
(1) よ○○部に所属し、○○の業務に従事する者
(2) ……(以下略)

第4条(勤務場所)
勤務場所は自宅のうち業務に専念できる場所とする。

第5条(申請)
第3条に該当する者のうち、在宅勤務を希望する者は、所定の申請書を所属長に提出しなければならない。

第6条(残宅勤務者の決定)
所属長および人事部長は……(以下略)

第7条(在宅勤務期間)
在宅勤務の期間は1 回の申請で最長○ヵ月以内とし、会社は本人に通知する。

第8条(労働時間および労働日・休日)
在宅勤務者の労働時間は就業規則第○条、労働日・休日は就業規則第○条に定めるところによる。

第9条(不就労時間等)
在宅勤務者が前条に定める労働時間のうち、全部または一部について就労できないときはあらかじめ所属長に許可を得なければならない。

2 所定労働時間のうち全部について労働できないときは欠勤として扱い、不就労時間については給与を支給しない。

第10条(時間外、休日、深夜)
会社は業務上必要な場合は、時間外または休日勤務を命ずることがある。……(以下略)

第11条(事業場外みなし労働時間制)
職種により、事業場外みなし労働時間制を採用する。みなし労働時間は1 日単位とし、時間の決定は……(以下略)

第12条(報告)
在宅勤務者は、毎日、勤務した日の始業・終業時刻、労働時間、休憩時間を所定の日報に記入し、メールにて所属長まで報告することとする。

第13条(費用の負担および貸与品)
在宅勤務に必要な機器等は会社が在宅勤務者に貸与する。

2 会社は業務に必要な通信費、光熱費、消耗品等を負担するものとする。

第14条(秘密保持および情報セキュリティ)
在宅勤務者は個人情報や営業秘密の漏洩を起こさないように常に配慮せねばならない。

2 業務に必要な資料を持ち出すときは所属長の許可を得なければならない。

(2011.06.20掲載)

山口 貞利
やまさだ経営コンサルティング
代表/特定社会保険労務士

1961年生まれ。関西学院大学卒業後,東証一部上場企業にて商品企画,人事職担当。グループ企業全般の人事マネジャーを経て退職。2007年人事コンサルタントとして独立。課長を元気にするマネジメント等の研修や人事制度構築・改善のための活動を中心に手がける。著書に『実際にやってみてわかった中小企業M&A成功のための人事労務』がある。

※この記事は『月刊人事マネジメント』に掲載された内容を転載しています。
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