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 今月の人事規定

第5回
休職・復職規定
山口 貞利
主旨と内容

 近頃、多くの人事担当者の方から休職の扱いについてご相談をお受けします。内容は、精神疾患での休職および復職させる際の定義についてです。
 今は多くの組織で休職規定を設けていると思われますが、昨今増加しているうつ病等の精神疾患については特別の定めを設けていないところが多いようです。特に何年も前に作成した就業規則ではほとんど機能しない実態があります。
 —ある社員がうつ病で会社を休むことになり、就業規則の規定に従い一定期間休職していたが、休職期間の終了にあたって会社に復帰を申し入れたところ、「うつ病が治癒していないので、退職してください」と言われトラブルになった—このようなケースは本当に多く起こっています。
 私傷病で休職を与えるか否かは会社の自由ですが、与える場合は休職期間満了後の復職条件を規則に明記しないとトラブルになります。また、医師の診断や治癒の定義についても明記が必要です。
 休職制度とは、「病気やけがで一時的に働けなくなったとき、しばらく休みを取らせて回復を待つ制度」といえます。労務を提供できない事由が生じた場合に、社員の身分を維持しながら一定期間労務への従事を停止させることをいいます。労務関係が解消しているわけではないので解雇とは全く異なる扱いです。
 法定事項ではありませんので、休職規定の有無や内容については自由な取り決めができます。試用期間などの一定の社員区分で適用除外にすることもできます。
 一般に休職の種類には以下のようなものがあります。

(1) 私傷病休職
(2) 事故休職
(3) 刑事事件による起訴休職
(4) 雇用調整上の休職
(5) その他自己都合休職

 どの場合も会社としてはあまり長期の休職期間を認める必要はないと考えます。余裕のない中小企業では特に休職期間を短縮したいでしょうし、その間の給与負担も回避したいところだと思われます。トラブルを避けるためにも、詳細を規定で明確にしておく必要があります。

検討内容
1. 制度の有無と期間
まず、法的に義務のない休職規定を定めるかどうかですが、いきなり解雇という事態を避けるために中小企業でも制度化しているところが多いようです。
 また定める場合は、長期の休職を認めるメリットは会社側には少ないといえます。
2. 休職理由や限度期間
 休職の理由は規定に明確に記す必要があります。また限度期間は「1年間」などとするヒナ型もありますが、今後はより短い期間がお勧めです。勤務年数や貢献度、役職などで差をつける規定もあります。例えば、勤続5年までは休職制度なし、5年以上10年未満は1ヵ月、10年以上は3ヵ月、管理職は6ヵ月という具合です。組織貢献度の高い管理職の優遇は組織にとってもメリットがあるといえます。
 一度休職制度を利用後復職し、同一理由で再度休職になる場合は、再取得までの期間によっては休職期間が継続しているものとして取り扱うように定めます。
3. うつ病など精神疾患の扱い
 休職期間が満了したとき、あるいはそれまでに治癒していれば復職になりますが、その最終判断はあくまで会社が行うことを規定に明記します。けがやその他の病気については治癒の見分けがつきやすいのですが、特に精神疾患の場合は見分けがつきにくく、“良くなったり悪くなったり”を繰り返します。よって精神疾患については復職の際にリハビリ勤務を定めたり、同一とみなされる疾病の休職回数の制限を規定に盛り込んでおく必要があります。
4. 復職判断
 復職させてよいかどうかの判断は会社が行いますので、その手続きを規定で明確にしておきます。休職者のかかりつけの医師の診断・意見も参考にしますが、会社が必要と判断する場合は、会社指定の産業医・専門医の診断によって判断する旨を規定に盛り込みます。そうしておけば最初から織り込み済みですので“診断の拒否”といったトラブルは起こりません。ただ、判断の際には会社の担当者もかかりつけの医師の意見を本人の同意のもとに取材する必要がありますので、そのことを規定に盛り込むのも一案です。
 復職とは、単に出社できるということではなく、原状回復を指します。会社には完全な労働を要求する権利がありますので不完全な労働は拒否できる立場となります。つまり「休職前に行っていた通常業務を実行できるレベルに回復している状態」で会社に復帰することが復職の定義です。これを規定に明確に盛り込んでおけば、本人との面談の際にも迷いが少なくなります。
 診断書と本人のヒアリングとによって「治癒」と判断できない場合は退職となります。「治癒している」場合でも休職前の通常業務が行えない場合は、他の業務での就労を検討したり、リハビリ勤務で様子を見たりすることがあります。従って、規定には復職後他の業務に就かせることがあることの明記やリハビリ勤務についての内容も記しておきます。そして何より重要なのが、休職期間満了までに傷病が治癒しなかった場合は退職となることの明記です。

*   *
以上の規定を整備して、ふだんからの周知、そして、特に休職開始の際には労使間で休職・復職規定の詳細な確認を行います。日頃から人事担当者は産業医や専門医と連携し、傷病の早期発見と早期治療に心掛けてください。

休職・復職規定

第○条(休職)
社員が次の各号のいずれかに該当したときには、休職とする。ただし、この場合の社員とは正社員とし、試用期間中の者やパート社員等に関しては適用しない。
(1) 業務外の傷病により欠勤が、継続、断続を問わず日常業務に支障を来す程度(おおむね1ヵ月程度以上)に続くと認められるとき
(2) 精神または身体上の疾患により労務提供が不完全なとき
(3) 在籍出向等により、関係会社または関係団体の業務に従事するとき
(4) 逮捕、拘留または起訴され、業務に従事できないとき
(5) その他業務上の必要性または特別の事情があって休職させることを適当と認めたとき
第○条(休職期間)
前条の休職期間(第1号にあっては、発令により会社が指定した日を起算日とする。)は次の通りとする。ただし、この休職は法定外の優遇措置であるため、復職の可能性が少ないものと会社が判断した場合は、会社の裁量により、その休職を認めず、またはその期間を短縮することがある。
(1) 前条第1 号および第2 号のとき勤続5 年以上10年未満3ヵ月勤続10年以上6ヵ月
(2) 前条第3 号から第5 号までのとき必要と認められる期間
(3) 勤続10年以上で課長以上の役職にあるものは、会社の裁量により上記の期間を延長することがある。
  • 2 同一事由による休職の中断期間が3ヵ月未満の場合は前後の休職期間を通算し、連続しているものとみなす。また、前条第1 号および第2 号の休職の場合の症状再発の場合は、再発後の期間を休職期間に通算する。(傷病名が異なっても同類とみなされる傷病であれば再発と判断することがある)
  • 3 休職期間は、原則として、勤続期間に通算しない。ただし、会社の業務の都合による場合および会社が特別な事情として認めた場合はこの限りではない。
  • 4 休職期間中は無給とする。
第○条(休職の発令)
私傷病に基づく欠勤日数が月間○○日以上に及ぶ月が数ヵ月間断続し、通常の勤務に耐えられない状態が認められる場合は休職を命ずることがある。
第○条(復職)
社員の休職事由が消滅したと会社が認めた場合、または休職期間が満了した場合は、原則として、休職前の職務に復帰させる。ただし、旧職務への復帰が困難な場合または不適当と会社が認める場合は、旧職務とは異なる職務に配置することがある。
  • 2 休職中の社員が復職を希望する場合には、所定の手続により会社に申し出なければならない。
  • 3 休職事由が消滅したと会社が認める場合の判断は、休職前に行っていた通常の業務を完全に遂行できる程度に回復することをいう。この場合にあっては、必要に応じて会社が指定する医師の診断および診断書の提出を命ずることがある。
  • 4 復職後1ヵ月以内で、同一傷病により1日でも休職する場合は、直前の休職期間との中断はなかったものとみなし、前休職期間と通算する。
  • 5 復職後1ヵ月以内で、同一傷病により10日以上欠勤する場合は、再休職とし、前休職期間と通算する。
  • 6 私傷病により休職期間が満了しても傷病が治癒しないとき、または就業が困難と会社が判断したときは、原則として、休職満了の日をもって退職とする。

(2011.11.14掲載)

山口 貞利
やまさだ経営コンサルティング
代表/特定社会保険労務士

1961年生まれ。関西学院大学卒業後,東証一部上場企業にて商品企画,人事職担当。グループ企業全般の人事マネジャーを経て退職。2007年人事コンサルタントとして独立。課長を元気にするマネジメント等の研修や人事制度構築・改善のための活動を中心に手がける。著書に『実際にやってみてわかった中小企業M&A成功のための人事労務』がある。

※この記事は『月刊人事マネジメント』に掲載された内容を転載しています。
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