最近の新聞に日系企業の「グローバル展開」という言葉や話題が出ない日はほぼ無いと思える。本メールマガジンの読者の皆様がお勤めになっている企業や団体においても、まったく海外との関わりがなく自社の事業がこれからも進んでいく、と考えている方々は少ないのではないだろうか。
急速に進む少子高齢化、円高といった社会的背景や海外新興国市場の成長といった事業機会があるなか、日系企業の海外進出は今後もますます進んでいくことが予想される。海外進出の歴史の長い企業においては、すでに1960年代に製造拠点としての進出が始まっており、「海外進出」そのものが目新しいという企業は少ないだろう。ただ、あえて昨今の「グローバル展開」という言葉と旧来の「海外進出」という言葉をここでは分けて使ってみたい。

 「海外」という言葉には、東洋の島国である我々日本国民にとって、どことなくエキゾチックで、胸躍る思いがついてまわるような感覚がないであろうか(すくなくとも私はそう感じるが)。この「海外」という言葉に対比される言葉は、もちろん「国内」である。「国内」という対比構造が厳然とあるからこその「海外」であり、その意味においては「国内」と「海外」は全く異なる領域を示す言葉であるといえる。

 一方で、「グローバル」という言葉は、文字通り「地球規模」「世界規模」を指す言葉であり、そこにあるのは、「国内・海外」という対比構造ではなく、むしろ世界を一つのものと見なす一体構造の考え方である。企業であれば、事業機会を世界規模で求め、その中で資源(ヒト・モノ・カネ)の配分を世界最適で行い、利益を生み出し自らが成長を遂げる姿をこの「グローバル」という言葉に込めているのではないだろうか。

 昨今、コンサルティングの現場で感じることは、この「海外」と「グローバル」の違いである。これまでの「海外進出」とは、日本以外の国に進出することを直接的に指し、そこには厳然と「日本国内・本社」と「進出先海外」という区別、別の言葉で言えば「中核市場に存在する親会社」と「進出先の子会社」といった関係が存在していた。そのような時代においては、人材マネジメントにおいても、国内と海外(現地社員)の管理については、分けて管理することが自然な形として行われてきた。まさに「海外」という言葉が、「国内」という言葉に対比されて使われてきた時代である。

 翻って、「グローバル」という言葉の意味を考えてみたい。中国やブラジルといった新興国における市場の拡大が世界規模で続くなか、より最適な事業体制をまさにグローバルで構築するために、日本・海外という括りを超えた事業部や本社機能の再編といった取り組みが昨今増えてきている。そこにあるには、「国内・海外」という区別ではなく、日本もまたグローバルにおける一極に過ぎない、という考え方である。そのグローバル最適化の中で、これまで「国内」とされてきた領域に様々な再編が起こりつつあるのが現在の姿ではないだろうか。

 これは、人材マネジメントの領域でも例外ではない。これまで日系企業は、日本人駐在員と海外現地社員という二つの人材市場を企業内に抱えてきた。それはあくまで「国内」と「海外」という厳然とした括りの中に存在してきた。しかし、上記のような「グローバル展開」のなか、その括りは揺らいでいる。グローバル規模の事業を支える上で、日本人駐在員の供給に限界が見える一方で、現地の優秀な人材の視点は、すでに「現地社員」という言葉でキャリアの天井を設定できるレベルではなくなってきている。社内における人材マネジメントにおいても、「国内」「海外」という括りから、「グローバル」へのシフトの挑戦が各企業で始まっているように見受けられる。

 また同時に、日本もグローバルの一極としてみた場合、日本における固有の課題が、グローバルに対しても影響を与えるという構造も出現しつつある。例えば、海外の売上構成比や利益構成比が更に高まる一方で、国内においては65歳定年延長の影響も含め「縮小する市場における過大な人的資源・コスト」というミスマッチが将来的に発生することが予想される。「グローバル」という視点で見た場合、この課題は日本における固有の課題として切り離すべきものではなく、グローバルで人的資源の適正な再配分を検討する、といった視点が必要になるであろう。

 いずれにせよ、「グローバル展開」という言葉の中には、これまで「国内」「海外」と分けてきた様々な事象が、ボーダーレス・シームレスに変化していくダイナミックな流れがあることを我々は再度認識すべきではないであろうか。その流れのなかで、人材マネジメントにおける課題を再度洗い直し、自社の「グローバル展開」にふさわしい基盤づくりが今、事業戦略担当者・人材マネジメント担当者に求められているはずである。

(2012.03.21掲載)
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