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 今月の人事規定

第8回
雇止め規定
山口 貞利
主旨と内容

 今月は有期労働契約における問題を取り上げます。
 一般的に,契約社員やパートタイマーは契約期間を定めて雇用しています。当然ながら,その期間が満了したときに退職となります。しかし,有期労働契約の更新を繰り返すケースも多く,そして一方,ある契約満了日をもって更新を拒否せざるをえないことがあります。このような有期労働契約 の終了,すなわち「雇止め」を巡る労使トラブルが最近増えています。トラブルは「長年にわたって働いている」とか「正社員と同様の職務で就労している」ケースで起こりがちで,さらにはその有期労働契約が何回か更新されるうちに,次の労働契約も締結されるであろうという期待感が生じることにも原因があります。
 形式的な手続きだけで労働契約が更新され続けていたり,契約の更新があらかじめ示唆されていて,更新の期待感を抱かせるケースなどは,一般の正社員の解雇と同様に「解雇権濫用法理」が類推的に適用され,トラブルとなります。
 裁判所は以上のような労働者の契約更新への期待感を「契約更新期待権」として保護しています。保護の仕方は次の事情を総合的に判断するとされます。

雇用の臨時性・常用性
更新の回数
雇用期間の通算性
契約更新手続きなどの管理状況
継続雇用の期待を持たせる使用者の言動,制度の有無

 使用者側としては何より有期労働者との契約を適切に管理運用することが大切です。雇止めに起因するリスクを抑えるためにも規定で根拠やルールを明確に定めておきます。そして人事担当者・採用面接者・現場の管理者が雇止めに関する正しい知識を理解し,こまめな運用を心掛けることが重要です。書面による契約と更新を徹底し,黙示の更新や口頭での更新は絶対に避けるべきです。

検討内容

 まずは期間の定めのある労働契約の場合,契約期間の満了を持って退職となることが原則で,中途解約はできないことを遵守し,周知します。
 第2に労働契約書などに契約の更新を示唆している場合であっても,契約期間の満了をもって退職となる事由をあらかじめ明示しておきます。
 第3に会社の経営上の事由や労働者の著しい問題点などやむをえない事由がある場合などは,契約期間の途中であっても労働契約を解除できる旨を明文化しておきます。
 規定の最後には,厚労省の示した『有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準』(図表)を踏まえて,必要事項を明示します。その要点は次の通りです。

(1) 更新の有無や更新の判断基準の明示
(2) 3 回以上の契約更新あるいは1年を超えて継続勤務している労働者を雇止めする場合は少なくとも30日前に予告
(3) 労働者から雇止めの理由について請求があった場合は遅滞なく証明書を交付

過去の判例からの教訓

□東芝柳町事件
 反復継続されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となったとき,期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態を合理性ありとする。労使いずれかから特別の意思表示がない限り当然更新される。
⇒「実質無期契約タイプ」

□日立メディコ事件
 継続雇用に対する労働者の期待利益に合理性があったとき,期間の定めのない契約と実質的に同視できない場合でも合理性ありとする。当事者意思が存在しないところに契約の更新を認める。
⇒「期待保護タイプ」

図表 『有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準』
(平15厚労告357号,平20.3.1改正施行)

(契約締結時の明示事項等)
第一条
 使用者は,期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し,労働者に対して,当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。
2 前項の場合において,使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは,使用者は,労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない。
3 使用者は,有期労働契約の締結後に前二項に規定する事項に関して変更する場合には,当該契約を締結した労働者に対して,速やかにその内容を明示しなければならない。
(雇止めの予告)
第二条
 使用者は,有期労働契約(当該契約を三回以上更新し,又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り,あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には,少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに,その予告をしなければならない。
(雇止めの理由の明示)
第三条
 前条の場合において,使用者は,労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは,遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 有期労働契約が更新されなかった場合において,使用者は,労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは,遅滞なくこれを交付しなければならない。
(契約期間についての配慮)
第四条
 使用者は,有期労働契約(当該契約を一回以上更新し,かつ,雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては,当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて,契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。
雇止めに関する規定
第○条(雇止め)
 労働契約に期間の定めがある労働契約を締結している従業員は,労働契約満了日をもって労働契約を解除し,退職とする。
2 前回の契約更新時に,本契約を更新しないことが合意されている場合は本契約満了日をもって労働契約を解除し退職とする。
3 契約締結当初に更新回数の上限を設けている場合で,今回の契約がその上限にあたる場合は,本契約満了日をもって労働契約を解除し退職とする。
4 本契約の途中に担当していた業務が終了および中止になった場合は本契約の満了日をもって労働契約を解除し退職とする。
5 個別に締結した労働契約で,労働契約を更新する旨を予め明示していた者であっても次の要件に該当する場合は,契約期間満了日をもって労働契約を解除し,退職とする。
(1) 担当する業務が終了,または中止になったとき
(2) 会社の業績が悪化し,雇用調整が必要なとき
(3) 職務命令に対して違反行為を行ったり,勤務態度不良などで職場の秩序が乱されるとき
(4) 無断欠勤・遅刻・早退などが頻繁にあるとき
(5) 担当業務を遂行する能力が十分でないとき
(6) 本規定に定める解雇の事由に該当したとき
(7) その他上記各号に準ずる事項に該当したとき
6 3回以上の契約更新あるいは1年を超えて継続勤務している従業員について,契約期間満了日をもって労働契約を終了する場合は,少なくとも30日前までにその旨を予告する。
7 前各号にかかわらず,本規定に定める普通解雇事由および懲戒解雇事由に該当する場合は,労働契約期間の途中であっても労働契約を解除できる。
補足:使用者責任(管理職等含む)への周知を進めるために,以下の条文を追加することも効果的だと考えます。
使用者(現場管理職も含む)は採用時または契約期間途中に契約更新の期待をもたせる言動を慎むこと
契約更新の手続きは会社の定める時期に,面談を通じて的確に実行すること

(2012.2.27掲載)

山口 貞利
やまさだ経営コンサルティング
代表/特定社会保険労務士

1961年生まれ。関西学院大学卒業後,東証一部上場企業にて商品企画,人事職担当。グループ企業全般の人事マネジャーを経て退職。2007年人事コンサルタントとして独立。課長を元気にするマネジメント等の研修や人事制度構築・改善のための活動を中心に手がける。著書に『実際にやってみてわかった中小企業M&A成功のための人事労務』がある。

※この記事は『月刊人事マネジメント』に掲載された内容を転載しています。
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