HR総研と日経リサーチの共同調査として、企業の人事担当者(人事、以下同じ)と管理職から一般職までの正社員として働く人(従業員、以下同じ)の双方に対する「キャリア自律」に関するアンケートを2020年9月〜10月に実施しました。企業(有効回答267件)と従業員(有効回答1213人)の回答結果から、現在、多くの企業や従業員の間で関心が高まっている「他人任せでない自律したキャリア形成の進め方」の現状と課題について、諏訪康雄法政大学名誉教授にご寄稿いただきました。

調査結果からは、全体的に「キャリア自律」への流れが感じられるものの、企業規模、産業、地域などによるかなりの違いが認められます。本稿はその後編です。

* 「キャリア自律」とは「自分のキャリア形成を企業に委ねるのではなく、個人が自分のキャリアに興味を持ち、自律的にキャリア開発を行っていくこと」と設問では定義。
* 以下の集計結果では、小数点1位以下を四捨五入した数値を用いていますので、その関係で合計が必ずしも100%となっていない場合があります。

前編は こちらからご確認いただけます。共同調査元である株式会社日経リサーチのサイトにリンクします。

諏訪 康雄氏 プロフィール

法政大学 名誉教授/日本テレワーク協会アドバイザー/HR総研 特別顧問

<略歴>
1970年に一橋大学法学部卒業後、ボローニャ大学(イタリア政府給費留学生)、東京大学大学院博士課程(単位取得退学)、ニュー・サウス・ウェールズ大学客員研究員(豪州)、ボローニャ大学客員教授、トレント大学客員教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、厚生労働省・労働政策審議会会長等を経て、2013年から法政大学名誉教授。

<主な論文・著書>
『雇用政策とキャリア権』(弘文堂・単著)
『雇用と法』(放送大学教育振興会・単著)
『労使コミュニケーションと法』(日本労働研究機構・単著)
『労使紛争の処理』(日本労使関係研究協会・単著)
『外資系企業の人事管理』(日本労働研究機構・共著)

8.中高年の管理職と非管理職の「キャリア自律」意識

前編に続いて、後編では「8.中高年の管理職と非管理職の「キャリア自律」意識」からご紹介します。

今回の従業員調査では、管理職(608人)と非管理職(605人)の比率がほぼ同等になっており、調査対象者全体の平均年齢(換算値)が50歳(男性51歳、女性44歳)、女性(158人)の割合は13%と低いです。そのため、中高年が多数になっている時代(国税庁「民間給与実態統計調査」2019年によると、通年で働く雇用労働者の平均年齢は46.7歳)の中高年管理職と中高年非管理職のキャリア意識の違いを比較しやすくなっています(男女間の差については、後掲の「項目16」での年代別比較も参照してみてください)。

そこで、50代以上を取り出して、管理職(451人)と非管理職(282人)における「キャリア自律」に重要と考える事項の意識を比較してみますと、全般的に管理職のほうが非管理職よりも重要事項とみる意識が高い傾向にあります(なお、この傾向は全年代で比較しても大差ありません)。また、50代以上において管理職と非管理職との間で最も差が開いたのは、「多様な業務経験(兼業・副業・転職含む)」の11ポイント差です。次いで、「人脈/社外ネットワーク」と「明確なキャリアビジョン」かがそれぞれ10ポイント差で続きます。

図表13 管理職は「キャリア自律」に重要な事項をより意識する

(注)非管理職の選択割合が高いものから順に並びかえて作図してある。なお、50代の管理職と非管理職の平均年齢(換算値)は共に53歳、女性比率は管理職2%、非管理職14%となっている。

9.企業規模による対比

企業調査の結果を企業規模で調べてみると、大企業において「キャリア自律」を重視する傾向があります。「重視している」と「やや重視している」を合計すると、6割を超えます(62%)。従業員300人以下の企業では43%、同301人〜1000人の企業では38%と4割前後にとどまります。

図表14 大企業ほど関心の高い「キャリア自律」支援

10.会社も従業員も「キャリア自律」に及び腰なのかどうか

次の図表15によると、会社も従業員も「キャリア自律」に積極的な様子の企業が21%、会社は積極的だが従業員はそうでない企業が24%、従業員は積極的だが会社はそうでない企業が7%、そして会社も従業員も積極的でない企業が最多数の49%となります。

ただし、この判断には微妙なところもあります。従業員の態度についての会社(人事)による認識として、「大いに歓迎」または「ある程度歓迎」と答えたもの以外を合算し、「まったく歓迎していない」「あまり歓迎していない」に「そうせざるを得ない」と「(従業員は)キャリア自律を知らない」を加えて合算集計してあります。そうした理由は、「そうせざるを得ない」は受け身で消極的なニュアンスがあるため、また「キャリア自律を知らない」は積極性に欠けると判断されるためです。

図表15 会社と従業員と「キャリア自律」をめぐる思惑のマトリックス
ところが、図表16のように、「そうせざるを得ない」を「『知らない』を含め歓迎とは言えない」から「従業員がキャリア自律を歓迎」に移動させた集計方法に変えると、「キャリア自律」が受け入れられそうな傾向は高まります。会社(人事)による従業員の反応に関する推測として、「キャリア自律」を受け入れる傾向がある従業員はその半数以上(52%)となってくるからです。

図表16 視点(集計方法)を変えての同様の図

11.「キャリア自律」を重視する企業のねらい

「キャリア自律」を重視するかは、組織の長期的な成長志向に影響しそうです。

「キャリア自律」を「重視する」(「重視する」と「やや重視する」の合計)企業がそうする主な理由は、「社員の仕事へのモチベーションアップに繋がる」が76%、「社員の価値観や労働観の多様化に対応するため」が47%、「より優秀な人材を発掘できる」が39%などです。要するに、人材(人財)の確保と成長への期待でしょう。

図表17 「キャリア自律」を重視する主な理由
他方、それを「重視するのではない」(「重視しない」と「あまり重視しない」と「どちともいえない」の合計)という企業がこう判断する理由は、キャリア自律を「社員が求めていない」と「他の施策を優先して実施する必要がある」がそれぞれ30%、「必要性が分からない」が28%などです。なお、「会社主導によるキャリア形成が都合が良い」とするものも20%を占めます。

図表18 「キャリア自律」を重視しない主な理由
前者と後者の企業は、「組織の長期的な成長を指向した取り組み結果を重視している」かとの問いに、「当てはまる」(「当てはまる」と「やや当てはまる」の合計)と答えたものが前者の企業では57%であるのに対して後者は31%と、26ポイントというかなりの差が出ています。

12.メーカーとそれ以外とでの違い

「キャリア自律」をめぐる従業員の反応に関する企業の意識は、メーカー(141社)と非メーカー(126社)とで、一定の差が出ています。

非メーカー全体のほうが、従業員が歓迎するとの見方がメーカー全体に比べて多くなっています。「大いに歓迎している」と「ある程度歓迎している」を合計すると、非メーカーは34%であり、メーカー全体の21%に比して13ポイントの差があります。もっとも、同じ産業別の括りを維持しつつ、大企業(従業員1001人以上)同士で比較すると、メーカーが68%、非メーカーが40%となり、逆に大企業メーカーが28ポイントも高くなります。

図表19 企業(人事)からみた「キャリア自律」への従業員の反応
図表20 メーカー企業(人事)からみた「キャリア自律」への従業員の反応
図表21 非メーカー企業(人事)からみた「キャリア自律」への従業員の反応

13.企業の所在地ごとの差異

企業本社の所在地により「キャリア自律」の重視度に差が出ています。

  3大都市圏とそれ以外に分けてみると、3大都市圏の企業では「重視している」(「重視している」と「やや重視している」の合計)が52%なのに対して、その他の地域の企業では23%にとどまります。後者では、42%の企業が「重視していない」(「重視していない」と「あまり重視していない」の合計)。ただし、その他の地域にある会社では規模が大きくないものが多いことなども影響しています。


図表22 3大都市圏とその他の地域では「キャリア自律」の重視度が異なる

(注)「3大都市圏」として、東京、神奈川、埼玉、千葉(以上、首都圏)、愛知、岐阜、静岡、三重(以上、東海圏)、大阪、京都、兵庫(以上、京阪神圏)を選び、それ以外の道や県を「その他」とした。

14.男性と女性との間の認識の違い

男性と女性とでは、微妙な差異があります。

男性と女性の間における「キャリア自律」の重要性をめぐる認識の分布は、全体的に大差がないようにみえます(図表23)。「重要である」(「重要である」と「どちらかといえば重要である」の合計)で、男性57%、女性58%だからです。ところが、管理職と一般社員とに分けてそれら同士で比較すると、一定の違いが出てきます(図表24)。「重要である」(同上)が、管理職同士では男性63%、女性70%、一般社員同士では男性48%、女性56%となり、女性のほうがどちらも7〜8ポイント高めとなっています。


図表23 「キャリア自律」の重要性をめぐる認識の男女差
図表24 管理職同士、一般社員同士での比較
とはいえ、次の図表25のように、「キャリア自律」にとって重要な事項を選択してもらう設問では、男女の差があまり現れません。「仕事に対する積極性」で女性が6ポイント、「高い専門性・スキル」で男性が5ポイント、それぞれ高いくらいです(大きな差があるというほどではないでしょう)。


図表25 「キャリア自律」に重要な事項の認識では、男女差が少ない

15.年代による認識の違い

男女込みでの全体的な比較ですが、意外だと思われるような結果が出ています。

今回の個人調査では、60代において「重要である」(「重要である」と「どちらかといえば重要である」を合算)とした人の割合(63%)が、全世代でもっとも高くなっています(もっとも、この調査の60代回答者の70%が管理職ということなども影響していると思われます)。

一般に学校におけるキャリア教育が進んでいる若手のほうが「キャリア自律」への意識が高く、中高年はそうした教育を受けたことがなく、それが低いように思われているかもしれませんが、人生100年時代において定年や雇用延長、再雇用、転職などの事態に直面して、自分のキャリアについて思いをはせる人が多くなると推測されます。「たそがれ研修」などと若い人たちから揶揄される中高年向けキャリア研修が、一定の影響を与えているのかもしれません。

図表26 意外や意外、60代が「キャリア自律」の重要性をもっとも意識
≪前編のご案内≫
※諏訪氏による分析・考察の前編は、以下のURLにアクセスし、共同調査元である株式会社日経リサーチのサイトからご覧いただけます。
 https://www.nikkei-r.co.jp/column/id=7508

【調査概要】

<人事向けアンケート>
アンケート名称:日経リサーチ×HR総研:「キャリア自律」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月23日〜10月6日
調査方法:WEBアンケート(SurveyHR)
調査対象:企業の人事責任者、人事担当者
有効回答:267件

アンケート名称:キャリア形成に関するアンケート
調査主体:株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月25日〜28日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:日経リサーチ保有のWEBモニターで以下条件該当者
      ・20代〜60代の 民間企業勤務の正社員
有効回答:1,213件