先の読めないVUCAの時代において、人的資本価値を最大限に引き出し企業価値の持続的向上(創造)に繋げていくため、従業員が自身のキャリアを主体的に形成していく「キャリア自律」を推進する企業が増えている。従業員のキャリア自律を効果的に推進するにあたり、企業は従業員にどのような支援が必要で、そのためにどのような課題を克服する必要があるのだろうか。
HR総研では、企業の「キャリア自律」の実態に関するアンケートを実施した。本レポートでは、「キャリア自律の推進」の状況や、キャリア自律社員の割合によって異なる取組み状況、組織が抱える課題などについて、フリーコメントを含めて以下に報告する。

<概要>
●推進する企業は多数派の一方、キャリア自律社員は少数派
●社員個人にとってのメリットは「パフォーマンス向上」、キャリア自律社員が多い企業の特徴は?
●既に得られている効果は「仕事へのモチベーション向上」が最多
●大企業では研修や「社内FA・公募」、「中小企業では評価・処遇」を対策
●組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチへの懸念、対応に苦戦
●キャリア自律を見込んだ採用の視点とは?
●キャリア自律の推進企業で進むジョブ型雇用、パーパス共感との関係性とは?

推進する企業は多数派の一方、キャリア自律社員は少数派

企業における社員の「キャリア自律の推進」の状況を企業規模別に見てみる。
従業員数1,001名以上の大企業では、「ある程度取り組んでいる」が最多で28%、「積極的に/少し取り組んでいる」がともに17%で、これらを合計すると「取り組んでいる」(以下同じ)の割合は62%と6割以上となっている。また、「取組みに向けた検討をしている」(24%)まで合わせると、「前向きに対応している」(以下同じ)の割合は86%と9割近くにも上っている。
301~1,000名の中堅企業では「取り組んでいる」は39%で4割、「前向きに対応している」は71%と7割で、大企業よりは割合が低いが前向きな企業が大多数となっている。300名以下の中小企業でも、中堅企業と同様に「取り組んでいる」は40%、「前向きに対応している」は62%と多数派となっている(図表1-1)。

【図表1-1】社員の「キャリア自律の推進」の状況

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

取り組んでいる企業について推進期間を見てみると、大企業では「10年以上」が最も多く20%、次いで「半年~1年未満」と「1~2年未満」がともに18%で、「3年以上」(「3~4年未満」~「10年以上」の合計、以降同じ)の割合は41%と4割となっている。中堅企業では「半年未満」と「2~3年未満」が最多で23%、「3年以上」は29%と3割で、大企業より少ない傾向となっている。また、中小企業でも「3年以上」は27%で3割近くとなっており、「半年未満」が最多で29%と取り組み開始から間もない企業の割合が大企業や中堅企業より顕著に高いことが分かる(図表1-2)。

【図表1-2】社員のキャリア自律の推進期間

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

社内でのキャリア自律に前向きな社員(キャリア自律社員、以下同じ)の割合は、大企業では「2~3割未満」が最多で28%、「3割未満」(「1割未満」~「2~3割未満」の合計、以下同じ)は63%と6割を超えている。「半数以上」(「5~6割未満」~「9割以上」の合計)は16%と2割未満にとどまっている。
中堅企業では「1割未満」が最多で39%、「3割未満」が82%と8割にも上っている。さらに中小企業では、「1~2割未満」が最多で33%、「3割未満」が74%となっている。いずれの企業規模においても、現時点ではキャリア自律社員は少数派である企業が多いことがうかがえる。

【図表1-3】社内でのキャリア自律に前向きな社員の割合

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

社員個人にとってのメリットは「パフォーマンス向上」、キャリア自律社員が多い企業の特徴は?

キャリア自律による「社員個人にとってのメリット」として企業が認識しているものを見てみると、「仕事のパフォーマンス向上」が最多で60%、次いで「仕事充実感の向上」が59%、「ワーク・エンゲージメント向上」が48%などとなっている。キャリア自律することにより、本人の仕事への向き合い方が前向きになるとともに、成果も得られやすくなるという認識が持たれているのだろう(図表2-1)。

【図表2-1】キャリア自律による「社員個人にとってのメリット」

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

キャリア自律による「会社にとってのメリット」については、「仕事へのモチベーション向上」が最多で60%、次いで「生産性の向上」が58%、「従業員エンゲージメント向上」が54%などとなっている。仕事への前向きな姿勢とともに、会社としての生産性や会社に対する従業員のエンゲージメント向上が過半数で挙がっており、組織力強化に関する効果も期待されていることがうかがえる(図表2-2)。

【図表2-2】キャリア自律による「会社にとってのメリット」

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

このようなキャリア自律による「個人/会社にとってのメリット」について、社員に周知するための働きかけを行っているかについては、「まったく取り組んでいない」がともに最多で、「個人にとってのメリット」では31%、「会社にとってのメリット」では34%となっている。「ある程度/積極的に取り組んでいる」は、それぞれ27%、29%と3割程度で、取り組み状況が分散する傾向となっている(図表2-3)。

【図表2-3】「キャリア自律によるメリット」の周知に向けた働きかけ

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

キャリア自律による「個人/会社にとってのメリット」の周知の働きかけレベル(5段階評価)について、キャリア自律社員の割合が「3割以上」(「3~4割未満」~「9割以上」の合計、以下同じ)の企業群と「3割未満」の企業群に分けて比較してみた。
その結果、「個人/会社にとってのメリット」いずれについてもキャリア自律社員の割合が「3割以上」の企業群の方が顕著に高い取組みレベルであることが分かる。キャリア自律社員の割合が「3割未満」の企業群では「個人/会社にとってのメリット」の周知の働きかけレベル平均値はともに2.2であるのに対して、キャリア自律社員の割合が「3割以上」の企業群では3.3と3.2となっており、平均値で1ポイント程度の差異が生じている。
したがって、企業が社員に対して「キャリア自律によるメリット」の周知に向けた働きかけに積極的に取り組むほど、キャリア自律社員の割合が高い傾向が見られていることが分かる(図表2-4)。社員がキャリア自律によってどのようなメリットが得られるのかを理解することで、キャリア自律に対する意欲が高まることが期待される。

【図表2-4】キャリア自律社員の割合別 「キャリア自律によるメリット」の周知に向けた働きかけレベル平均値

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

既に得られている効果は「仕事へのモチベーション向上」が最多

キャリア自律の推進に取り組んでいる企業において「既に効果が得られている会社にとってのメリット」を見てみると、最も高い割合なのが「特にない」で47%と半数近くに上っている。取り組んではいるものの、目に見えた効果を実感するほど上手くいっていない企業が多いというシビアな実態がうかがえる。
ただ、そのような中でも得られている効果として最も多く挙げられているのは「仕事へのモチベーション向上」で26%、次いで「従業員エンゲージメント向上」が19%などとなっている(図表3-1)。

【図表3-1】既に効果が得られている「会社にとってのメリット」

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

全体ではシビアな実態となっている「既に効果が得られている会社にとってのメリット」について、キャリア自律社員の割合が「3割以上」の企業群と「3割未満」の企業群に分けて比較してみると、顕著な違いが見られる。
まず、全体では半数近くに上っている「特にない」については、キャリア自律社員の割合が「3割以上」の企業群では19%と2割未満となっているのに対して、「3割未満」の企業群では58%と6割近くにも上っており、39ポイントもの差異が生じている。また、「3割以上」の企業群では「仕事へのモチベーション向上」が最多で48%、次いで「従業員エンゲージメント向上」35%、「優秀人材の発掘・採用」が24%などとなっており、既存社員の仕事や組織への向き合い方に関する効果だけでなく、新たな優秀人材の獲得にも効果が感じられている。一方、「3割未満」の企業群ではすべての項目について効果が得られている割合は2割未満にとどまっている。
この結果から、キャリア自律社員の割合が高い企業ほど組織として得られる効果も多い状況であることが分かる(図表3-2)。

【図表3-2】キャリア自律社員の割合別 既に効果が得られている「会社にとってのメリット」

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

大企業では研修や「社内FA・公募」、「中小企業では評価・処遇」を対策

キャリア自律の推進に向けて抱える課題としては、大企業では「社内業務でのキャリア実現」が最多で52%、次いで「社員個人の意識醸成」が44%、「評価制度・処遇の見直し」が41%などとなっている。また、中堅企業でも「社内業務でのキャリア実現」が最多で55%となっている。さらに中小企業では「評価制度・処遇の見直し」(36%)が最多で「社内業務でのキャリア実現」(34%)よりやや高く、大企業や中堅企業と同程度の割合となっている。
キャリア自律の推進するにあたって、個人の望むキャリアイメージを実現することとアサインできる業務内容との間に生じるギャップの解消や意識の擦り合わせに課題を感じるとともに、キャリア自律の促進に連動した評価制度や処遇の在り方に改定し、社員からの納得性の高い取組みとする必要性を感じている企業が多いことが推測される(図表4-1)。

【図表4-1】キャリア自律の推進に向けて抱える課題

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

このような課題を解決しながらキャリア自律を推進するために実施している対策・取組みについて見てみる。
大企業では「管理職研修」と「キャリア研修」が最多で34%、次いで「社内FA・社内公募制度」が30%、「自己学習への手当・補助金」が28%などとなっており、管理職と社員個人の双方への研修や社内FAなどを行うことで、組織の方針と社員個人のキャリア実現とのギャップ解消やキャリア自律への意識醸成を図る狙いがうかがえる。また、中堅企業では「自己学習への手当・補助金」が最多で23%、中小企業では「評価制度・処遇との連動」が最多で26%などとなっており、キャリア自律推進への課題をふまえて対策をとっている(図表4-2)。

【図表4-2】キャリア自律の推進に向けて実施している対策・取組み

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチへの懸念、対応に苦戦

「キャリア自律」の推進を開始した、もしくは検討し始めた当初に懸念していたデメリットについては、「組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチ」が最多で28%、次いで「関連コストの増加」と「優秀人材の離職増加」がともに26%などとなっている。これらの項目は図表4-1で示した「社内業務でのキャリア実現」という組織課題とも重なる項目が多く、開始当初から懸念されていたことが分かる(図表5-1)。

【図表5-1】社員の「キャリア自律」の推進開始時に懸念していたデメリット

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

懸念されていたデメリットとして最多で挙がる「組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチ」について、そのような問題が生じたときの企業側の対応の事例を、フリーコメントで得られた主な内容を抜粋して以下に紹介する(図表5-2)。

【図表5-2】組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチが生じたときの対応(一部抜粋)

組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチが生じたときの対応従業員規模業種
上司・社員による1on1ミーティングを定期・不定期に実施 1,001名以上メーカー
異動の断行、あるいは現職務でスキルを活かせる業務アサイン1,001名以上メーカー
都度、人事が窓口として相談を受け付ける。 必要に応じて、また、本人の了承を得て、相談者の上司も巻き込む1,001名以上メーカー
組織目標と個人の将来像とのすり合わせ、会社全体での希望の検討などを実施すべきだが、全社員で実施できてはいない1,001名以上メーカー
上司との個別面談や、社内のキャリアカウンセラーへの相談体制で、解決方法を導き出している1,001名以上サービス
個人の希望によっては転職もやむなしと考え、転職支援も実施している、今後転職しながらキャリアアップしていく世の中になると思うので自社に囲うことはご本人の人生の選択肢を減らしてしまうと考えている、会社と従業員は対等であるべきで、従業員も仕事(職場)を選べるという意識を強く持つべき、一方企業は優秀な人材を逃さないような工夫をもっとすべきと考えている1,001名以上サービス
職員の現在の立ち位置を明確にし、今後の成長に 併せて希望が考慮されうることを共有する301~1,000名サービス
マネジメントの1on1スキル向上 キャリコンによる面談 職種・職階ごとのスキルマップの明確化301~1,000名サービス
とにかく人事も現場社員と1on1をして、話を聞くしかない。アンケートなどではあぶり出せない生の声を聞いて、個別対応するしかないと思っている301~1,000名商社・流通
業務に支障がない限り、個人の意思尊重300名以下メーカー
グループディスカッション等を実施して、擦り合わせを行い、方向性を統一していくこと300名以下メーカー
個人が獲得したいスキル内容を精査し、組織に有益なものであれば、全面協力する300名以下サービス
現実問題、組織に合わせてもらうしかないが、その納得性を高めたり、仕事の意味づけをしたりするより丁寧な作業が求められている300名以下商社・流通

キャリア自律の推進によるデメリットとして懸念の声をよく耳にする「優秀社員の離職の増加」については、実際に推進している企業での離職率の変化を見てみると、「変化がない」が圧倒的に多く65%、「減少している」と「やや減少している」の合計は17%、逆に「増加している」と「やや増加している」の合計も17%で、キャリア自律の推進によって必ずしも社員の離職が増加するとはいえないことが分かる(図表5-3)。
キャリア自律が優秀社員の離職につながる事態にならないよう、組織目標と社員のキャリアプランのミスマッチへの対応や、評価や報酬制度との連動等の取り組みを丁寧に行っていくことが重要なのだろう。

【図表5-3】キャリア自律を推進しはじめて以降、社員の離職の変化

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

キャリア自律を見込んだ採用の視点とは?

企業が人材を採用する際に重視した社会人基礎力について、キャリア自律の推進状況別に企業を分けて傾向の違いを見てみた。
その結果、キャリア自律の推進に「取り組んでいる」企業群(「積極的/ある程度/少し取り組んでいる」企業群の総称、以下同じ)では、「考える力」を6割近くが重視しているのに対して、「取り組んでいない/検討中」の企業群(「まったく取り組んでいない」と「取組みに向けた検討をしている」企業群の総称、以下同じ)では3割程度以下で、顕著な差異が見られる。その他、「ロジカル思考力」や「働きかける力」「経験学習力」についても同様に「取り組んでいる」企業群の方が顕著に高い割合となっている。一方、「強調する力」や「伝える力」などのコミュニケーション力はいずれの企業にとっても必要な力として捉えられる傾向にあり、キャリア自律の推進状況による違いは見られていない(図表6)。
このように、キャリア自律を推進する企業では、人材の採用段階からキャリア自律の素養に関わる能力の有無を考慮して採用していることがうかがえる。

【図表6】キャリア自律の推進状況別 「採用選考時に重視した社会人基礎力」

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

キャリア自律の推進企業で進むジョブ型雇用、パーパス共感との関係性とは?

企業におけるキャリア自律推進以外の施策として、「リスキリングの推進」、「人的資本経営の取組み」、「従業員エンゲージメントの定量把握」、「パーパス共感度の定量把握」の4つの施策の取り組みレベル平均値(5段階評価)の状況を、キャリア自律の推進状況別に比較してみる。
その結果、キャリア自律推進に「取組み中」の企業群の方が「取り組んでいない/検討中」の企業群より4施策の全てに対する取り組みレベルが顕著に高いことが分かる。ただし、「従業員エンゲージメントの定量把握」については「取組み中」の企業群では3.4で最も取り組みレベルが高いものの、「取り組んでいない/検討中」の企業群でも2.4と最も高いレベルとなっており、その差は1.0で他施策の差異より小さい。従業員エンゲージメントは幅広い企業で重視されるようになっていることで、全体的に比較的取組みが進んでいる施策であると推測される。一方で、レベル差が最も高くなっているのは「パーパス共感度の定量把握」でレベル差は1.4となっている。(図表7-1)
キャリア自律を推進することで社員個人の力が強化されることが組織への遠心力とならないよう、企業のパーパスに社員が共感できているかにも丁寧に向き合うことでキャリア自律の推進を組織への求心力として機能させる必要があるのだろう。

【図表7-1】キャリア自律の推進別 各種施策の取り組みレベル平均値(5段階評価)

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

キャリア自律と親和性の高いジョブ型雇用の導入状況についても、キャリア自律推進に「取組み中」の企業群と「取り組んでいない/検討中」の企業群に分けて比較してみる。
ジョブ型雇用を「導入している」(「全社員に導入している」と「一部の職種・階層を対象に導入している」の合計)の割合について、キャリア自律推進に「取組み中」の企業群では53%で過半数に上っている一方、「取り組んでいない/検討中」の企業群では23%と2割程度にとどまっており、30ポイントもの差異が出ている(図表7-2)。社員にキャリア自律を働きかけることで社員個人の専門性が高まり、ジョブ型雇用のニーズも高まってくることが見込まれる。

【図表7-2】キャリア自律の推進別 ジョブ型雇用の導入状況

HR総研:「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート 結果報告

【HR総研 客員研究員からの分析コメント】

  • 曽和 利光氏

    株式会社人材研究所 代表取締役社長/HR総研 客員研究員 曽和 利光氏

    「自由にやりなさい」と突き放すことがキャリア自律ではない
    日本人は、「自分がこうなりたい」という自己実現欲求よりも、「人の役に立ちたい」という貢献欲求の強い人が比較的多いのではないか。それは本調査で社内でのキャリア自律への前向きな社員の少なさにも顕著に現れているように思う。

    つまり、企業側は「自分のキャリアは自分で作る。やりたいようにキャリアを歩んでほしい」と親心のような思いでキャリア自律を促進しようとしているが、社員の側は「いや、自分は特にこういうキャリアでなければないということはないのです。何をしたらうれしいですか?」と考えているという、すれ違いが生じている。それが、本調査にて各社でキャリア自律施策の効果が現時点ではまだあまり出ていない根本原因ではないか。

    企業側の考える「やりたいことをやれたら社員は幸せなのでは」ということ自体は正論だが、そのやりたいことの中身が「貢献」や「期待に応えること」であったならば、本来すべきことは自由にさせることではなく、適切な要望をすることだ。「うちの会社や事業の状況はこう。あなたの能力や性格、価値観はこう。だからあなたにはこういうミッションを担ってくれないか」という要望がきちんとできていないなら、「組織目標と社員のキャリアプランがミスマッチ」が不安の第一位となっているのも当然だろう。

    自由にさせれば自律性が生まれるわけではなく、企業側が個々人に合った要望をしていくことで、その反応として自律性は生まれる。要望が刺激となって、「それは面白そうなミッションですね。ぜひやってみたい」とか「いや、それだったら、自分はこういうことがしたいです」とか考えるようになる。要望することなしにキャリア自律を促す施策をいくらいれても、バラバラに拡散するか、単に足が止まるかにしかならないのではないだろうか。

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「人的資本価値の最大化に向けたキャリア自律の課題」に関するアンケート        
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2023年5月29~6月9日
調査方法:WEBアンケート
調査対象: 企業の人事責任者・担当者
有効回答:204件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
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  ・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
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  ・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp

※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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