終身雇用制度の崩壊や高齢者雇用安定法の改定案など、企業が組織体制の在り方の転換期を迎えている中、従業員も自身のキャリア形成について会社に依存し続けるのではなく、自律的にキャリア形成に対する行動を取っていく必要があるのではないだろうか。
日経リサーチ社とHR総研の共同調査として、企業の人事担当者(人事、以下同じ)と管理職から一般職までの正社員として働く人(従業員、以下同じ)の双方に対する「キャリア自律」に関するアンケートを実施した。
前回の速報に引き続き、本レポートでは、「キャリア自律に関する意識」の他、「自社でキャリア自律を重視する理由」や「効果があったキャリア自律の支援策」など、人事の調査結果をメインとして従業員の調査結果との比較も交えながら、詳細な調査結果についてフリーコメントを含めて報告する。

<概要>
●「キャリア自律」の認知度、大企業で85%、中小企業で55%
●キャリア自律に対する自社方針の認識、「重視している」派は大企業で6割以上
●キャリア自律を重視する理由、「社員の仕事のモチベーションアップに繋がる」が最多
●新型コロナ感染拡大の影響を受けキャリア自律の促進を強める動き、大企業では4割
●革新型企業でキャリア自律を重視する割合が最多で6割以上、自然型では2割未満
●重視している派の企業では、「キャリア自律」が人材配置や業績評価に反映される傾向
●最も効果が出ていると思われる支援策は「研修・セミナーに関する情報の社員への提供」
●支援策の効果は重視度による格差が顕著、重視している派で31%、重視していない派で7%
●「キャリア自律」に対する従業員の反応、「歓迎している」派は3割未満
●「キャリア自律支援」への従業員ニーズ、大企業の認識が従業員に近い傾向

「キャリア自律」の認知度、大企業で85%、中小企業で55%

「キャリア自律」とは、自分のキャリア形成を企業に委ねるのではなく、個人が自分のキャリアに興味を持ち、自律的にキャリア開発を行っていくことと定義し、本調査を実施している。
まず、「キャリア自律に対する認知度」について見てみると、人事では、「以前から知っていた」が最多で42%、次いで「以前から少しだけ知っていた」が22%で、これらを合計した「知っていた」派は64%と6割以上を占めている。これらに続いて「今回初めて聞いた」が20%、「言葉は聞いたことがあった」が16%となっている(図表1-1)。
また、企業規模別に見ると、「知っていた」派は企業規模が大きいほど多く、従業員数1,001名以上の大企業では85%、301〜1,000名の中堅企業では70%、300名以下の中小企業では55%となっている。最も認知度の低い中小企業では「知っていた」派が半数以上ではあるものの、「今回初めて聞いた」が27%と3割近くに及んでおり、大企業との認知度の格差が顕著となっている。

【図表1-1】企業規模別 「キャリア自律」に対する認知度
また、従業員の認知度と比較してみると、従業員では「今回初めて聞いた」が最多で62%と6割を占め、次いで「言葉は聞いたことがあった」が16%、「以前から少しだけ知っていた」が13%、「以前から知っていた」が9%となっており、「知っていた」派は22%と僅か2割にとどまっている。このように、人事側では6割以上の認知度となり知っている人の方が多数派である一方、従業員側での認知度は僅か2割にとどまり、「今回初めて聞いた」が6割を占めるという結果から、人事と従業員との間には「キャリア自律」に対する認知度に大きな隔たりがあるという現状が分かる(図表1-2)。

【図表1-2】人事と従業員の比較 「キャリア自律」に対する認知度

キャリア自律に対する自社方針の認識、「重視している」派は大企業で6割以上

前述した「キャリア自律」の定義を理解した上で、「社員のキャリア自律に対する自社の方針」について人事と従業員のそれぞれの認識を聞いてみた。
すると、人事では「重視している」が19%、「やや重視している」が25%となり、これらを合計した「重視している」派が44%と4割以上となっている。一方、「あまり重視していない」が15%、「重視していない」が13%となり、これらを合計した「重視していない」派は28%と3割未満となっている。
企業規模別に見ると、これもやはり大企業での「重視している」派が最も多く64%と6割以上を占めているものの、「認知している」派の85%よりは、割合が少なくなっている。
この認知度と重視度の差異が最も大きく出ているのは中堅企業であり、「認知している」派の70%に対して「重視している」派は38%と半分程度にまで下がり、人事は「キャリア自律」を認知していても、企業としては重視しているとは言えない状況にある企業が多いことがうかがえる。

【図表2-1】企業規模別 「社員のキャリア自律」に対する自社の方針
従業員では、「重視している」が6%、「やや重視している」が16%と、「重視している」派が22%となっており、一方「あまり重視していない」が16%、「重視していない」が19%と、「重視していない」派が35%で「重視している」派を13ポイント上回っている。さらに「わからない」が10%となっており、「重視していない」派と合わせると従業員の45%が、自社の社員のキャリア自律に向けた動きを感じられない状況にあることがうかがえる。

このように人事と従業員の認識を比較すると、人事としては「重視している」派が4割以上を占める一方、従業員は自社が「重視している」と認識する割合は2割にとどまっているという結果から、人事の方針としては「社員のキャリア自律」を重視していても、それが当事者である従業員まで浸透するには至っていない企業が多くあることが推測される(図表2-2)。

【図表2-2】人事と従業員の比較 「社員のキャリア自律」に対する自社の方針
 ※従業員向け調査でのみ「わからない」の選択肢を設けている。

キャリア自律を重視する理由、「社員の仕事のモチベーションアップに繋がる」が最多

キャリア自律を「重視している」派の企業において「重視する理由」を見てみると、全体では「社員の仕事のモチベーションアップに繋がるから」が最多で76%と8割近くを占めており、この理由はいずれの企業規模においてもトップとなり7〜8割を占めている。それに次いで、「顧客ニーズの多様化に対応するため」が47%、「より優秀な人材を発掘できるから」が39%などとなっている。この上位3項目を見ると、キャリア自律を重視する企業では、キャリア自律を促進することで企業と従業員が共にメリットを見出せるものだと捉えていることがうかがえる。

【図表3-1】重視する企業が「社員のキャリア自律が必要である」とする理由
一方、キャリア自律を「重視しない」派の企業における「重視しない理由」については、全体では「社員が求めていないから」と「他の施策を優先して実施する必要があるから」がともに最多で30%、次いで「必要性が分からないから」が28%、「会社主導によるキャリア形成は都合が良いから」が19%などとなっている。キャリア自律に対してそのメリットを測り兼ねており、より緊急性の高い施策を優先する傾向がうかがえる(図表3-2)。

【図表3-2】重視しない企業が「社員のキャリア自律が必要でない」とする理由

新型コロナ感染拡大の影響を受けキャリア自律の促進を強める動き、大企業では4割

キャリア自律の動きとして新型コロナ感染拡大の影響を受けた変化を聞いたところ、人事全体では、「変化なし」が圧倒的に多く76%と4分の3を占めており、「やや強まった」が15%、「強まった」が6%で、これらを合計した「強まった」派は21%となっている。一方、「やや弱まった」と「弱まった」は合計しても数%にとどまっている(図表4-1)。
全体では圧倒的に「変化なし」が多い一方、大企業では「強まった」派が41%であり、中堅・中小企業と比較すると、コロナ禍においてキャリア自律の促進の動きが強まった企業が顕著に多いことが分かる。
多数の従業員を雇用するとともに、グローバルに事業を展開する大企業だからこそコロナ禍の影響は甚大で、事業方針の転換を余儀なくされる企業も少なくなく、従業員一人ひとりに対して「キャリア自律」を含めた自律的な動きを求める大企業が中堅・中小企業より多くなっているのだろう。また大企業では、ジョブ型雇用を志向する企業が増えていることも一因だろう。

【図表4-1】新型コロナ感染拡大による、社員へのキャリア自律の促進の変化(人事)
従業員では、自身のキャリア形成に対する意識変化として「変化なし」が圧倒的に多く73%と、人事と同様に4分の3程度を占めている。「真剣に考えるようになった」が5%、「やや真剣に考えるようになった」が15%とこれらを合計した「真剣に考えるようになった」派は20%である一方、「あまり真剣に考えなくなった」が3%、「真剣に考えなくなった」が4%で、これらを合計した「真剣に考えなくなった」派は7%と1割未満となっている。
このように、人事と従業員の双方において、4分の3程度は新型コロナ感染拡大によるキャリア自律への動きの変化がない中、人事全体では社員への促進の動きが2割、従業員では自身で真剣に考える動きが2割といずれも割合としては少ないものの、一定の割合で新型コロナ感染拡大を契機として積極的に動いている層があることが確認できる(図表4-2)。

【図表4-2】新型コロナ感染拡大による、自身のキャリア形成に対する意識変化(従業員)

革新型企業でキャリア自律を重視する割合が最多で6割以上、自然型では2割未満

続いて、キャリア自律を重視する企業の特徴を探るため、回答した企業の経営戦略の形式を4つに分類してみると、「バランス型」が最も多く50%、次いで「保守型」が27%、「革新型」が13%、「自然型」が10%となっている(図表5-1)。
経営戦略型4分類の内容は以下のとおり。
  保守型:高品質の製品・サービス、低価格製品等により、業界変化に関係なく限定した領域の事業を守る。
  革新型:リスクを取っても積極的に幅広く新規事業・市場を開拓し、市場変化に他社より迅速に対応する。
  バランス型:既存事業を守りつつ将来性のある事業等に高品質の後発製品・サービスを展開する。
  自然型:特定の戦略にこだわらず、市場や競合の動きに翻弄されながら事業展開する。

【図表5-1】回答企業の経営戦略型
このように4分類した経営戦略型別の企業の人事部における「キャリア自律の認知度」を見ると、「保守型」「革新型」「バランス型」の3分類の企業では「以前から知っていた」派が過半数を占め、中でも「革新型」の企業では75%と4分の3を占めている。一方、「自然型」の企業では42%と4割程度にとどまり、「今回初めて聞いた」が最多で46%と半数近くを占めている。
また、同様に経営戦略型別の企業の「キャリア自律の重視度」を見ると、「重視している」派が最も多いのは「革新型」の企業で64%、次いで「バランス型」で48%、「保守型」で39%、「自然型」では僅か16%となっており、経営戦略型別による差異が顕著に出ている。

【図表5-2】経営戦略型別 「キャリア自律」の認知度
【図表5-3】経営戦略型別 「キャリア自律」の重視率

この先は、会員の方だけがご覧いただけます。会員の方はログインを、会員でない方は無料会員登録をお願いします。

HRプロ会員の方はこちらから

まだ会員でない方はこちらから

登録無料!会員登録された方全員に 「人材育成マニュアル」をプレゼント!

HRプロとは

【調査概要】

<人事向けアンケート>
アンケート名称:日経リサーチ×HR総研:「キャリア自律」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月23日〜10月6日
調査方法:WEBアンケート(SurveyHR)
調査対象:企業の人事責任者、人事担当者
有効回答:267件

アンケート名称:キャリア形成に関するアンケート
調査主体:株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月25日〜28日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:日経リサーチ保有のWEBモニターで以下条件該当者
      ・20代〜60代の 民間企業勤務の正社員
有効回答:1,213件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当ページのURL記載、またはリンク設定
3)HRプロ運営事務局へのご連絡
  ・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
  ・引用先名称(URL) と引用項目(図表No)
  ・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp

※HR総研では、本共同調査における「人事向け調査」及び「人事向け調査と従業員向け調査の比較結果」に関して、集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。