終身雇用制度の崩壊や高齢者雇用安定法の改定案など、企業が組織体制の在り方の転換期を迎えている中、従業員も自身のキャリア形成について会社に依存し続けるのではなく、自律的にキャリア形成に対する行動を取っていく必要があるのではないだろうか。
日経リサーチとHR総研の共同調査として、企業の人事担当者(人事、以下同じ)と管理職から一般職までの正社員として働く人(従業員、以下同じ)の双方に対する「キャリア自律」に関するアンケートを実施した。
今回は、速報として人事と従業員の「キャリア自律に関する意識」の違いや「自社のキャリア自律の促進状況」に対する評価の違いなどを報告する。

<概要>
●「キャリア自律」の認知度、人事で6割以上の一方、従業員では2割
●キャリア自律に対する自社方針の認識、「重視している」派は人事で4割、従業員で2割
●新型コロナ感染拡大の影響を受けたキャリア自律の動き、人事も従業員も4分の3が「変化なし」
●人事の方が「社員のキャリア自律に対する支援」を実施している認識が強い傾向、従業員では「特にない」が4割近く
●最も効果が出ている支援策は「研修・セミナーに関する情報の社員への提供」、従業員では「特にない」が最多
●「キャリア自律」を促進する人事は3割、促進しない人事の割合と拮抗

「キャリア自律」とは

「キャリア自律」とは、自分のキャリア形成を企業に委ねるのではなく、個人が自分のキャリアに興味を持ち、自律的にキャリア開発を行っていくことを言う。
終身雇用制度の崩壊や高齢者雇用安定法の改定案などにより、この「キャリア自律」の重要性が、企業と働く個人の双方にとって、これまで以上に高まっている。

かつての日本では、企業側に育てたい人材のビジョンがあり、それに向けて社員を教育するシステムが構築されていたから、従業員のキャリア形成を会社に任せていくのが主流だった。しかし現在では、大きく変化し続ける社会情勢の中、企業は常に変化し続けることが求められ、従業員のキャリア自律を促す方法を探すことが急務となっている。
また、従業員側も、一人ひとりが自分のキャリアについて自律的に考え、キャリア形成を行っていくべき状況になりつつある。
このように「キャリア自律」の必要性が高まる中、人事と従業員は「キャリア自律」をどのように捉え、動いているのだろうか。
人事と従業員の「キャリア自律」に対する意識や動きの違いに関する調査について、速報結果を見てみる。

日経リサーチ×HR総研:キャリア自律に関するアンケート 速報

「キャリア自律」の認知度、人事で6割以上の一方、従業員では2割

「キャリア自律に対する認知度」について見てみると、人事では、「以前から知っていた」が最多で42%、次いで「以前から少しだけ知っていた」が22%で、これらを合計した「知っていた」派は64%と6割以上を占めている。その他は「今回初めて聞いた」が20%、「言葉は聞いたことがあった」が16%となっている。一方、従業員では、「今回初めて聞いた」が最多で62%と6割を占め、次いで「言葉は聞いたことがあった」が16%、「以前から少しだけ知っていた」が13%、「以前から知っていた」が9%となっており、「知っていた」派は22%と僅か2割にとどまっている(図表1)。

このように、人事側では6割以上の認知度となり知っている人の方が多数派である一方、従業員側での認知度は僅か2割にとどまり、「今回初めて聞いた」が6割を占めるという結果から、人事と従業員との間には「キャリア自律」に対する認知度に大きな隔たりがあるという現状が分かる。

【図表1】「キャリア自律」に対する認知度

日経リサーチ×HR総研:キャリア自律に関するアンケート 速報

キャリア自律に対する自社方針の認識、「重視している」派は人事で4割、従業員で2割

「キャリア自律」の定義を理解した上で、「社員のキャリア自律に対する自社の方針」について人事と従業員のそれぞれの認識を聞いてみた。
すると、人事では「重視している」が19%、「やや重視している」が25%となり、これらを合計した「重視している」派が44%と4割以上となっている。一方、「あまり重視していない」が15%、「重視していない」が13%となり、これらを合計した「重視していない」派は28%と3割未満となっている。
従業員では、「重視している」が6%、「やや重視している」が16%と、「重視している」派が22%となっており、一方「あまり重視していない」が16%、「重視していない」が19%と、「重視していない」派が35%で「重視している」派を13ポイント上回っている。さらに「わからない」が10%となっており、「重視していない」派と合わせると従業員の45%が、自社の社員のキャリア自律に向けた動きを感じられない状況にあることがうかがえる(図表2)。

このように、人事としては「重視している」派が4割以上を占める一方、従業員は自社が「重視している」と認識する割合は2割にとどまっているという結果から、人事の方針としては「社員のキャリア自律」を重視していても、それが当事者である従業員まで浸透するには至っていない企業が多くあることが推測される。

【図表2】「社員のキャリア自律」に対する自社の方針

日経リサーチ×HR総研:キャリア自律に関するアンケート 速報

新型コロナ感染拡大の影響を受けたキャリア自律の動き、人事も従業員も4分の3が「変化なし」

キャリア自律の動きとして新型コロナ感染拡大の影響を受けた変化を聞いたところ、人事では、社員へのキャリア自律の促進の動きとしては「変化なし」が圧倒的に多く76%と4分の3を占めており、「やや強まった」が15%、「強まった」が6%で、これらを合計した「強まった」派は21%となっている。一方、「やや弱まった」と「弱まった」は合計しても数%にとどまっている(図表3-1)。
従業員では、自身のキャリア形成に対する意識変化として「変化なし」が圧倒的に多く73%と、人事と同様に4分の3程度を占めている。「真剣に考えるようになった」が5%、「やや真剣に考えるようになった」が15%とこれらを合計した「真剣に考えるようになった」派は20%である一方、「あまり真剣に考えなくなった」が3%、「真剣に考えなくなった」が4%で、これらを合計した「真剣に考えなくなった」派は7%と1割未満となっている(図表3-2)。
このように、人事と従業員の双方において、4分の3程度は新型コロナ感染拡大によるキャリア自律への動きの変化がない中、人事では社員への促進の動きが2割、従業員では自身で真剣に考える動きが2割といずれも割合としては少ないものの、一定の割合で新型コロナ感染拡大を契機として積極的に動いている層があることが確認できる。

【図表3-1】新型コロナ感染拡大による、社員へのキャリア自律の促進の変化(人事)

日経リサーチ×HR総研:キャリア自律に関するアンケート 速報

【図表3-2】新型コロナ感染拡大による、自身のキャリア形成に対する意識変化(従業員)

日経リサーチ×HR総研:キャリア自律に関するアンケート 速報

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HRプロとは

【調査概要】

<人事向けアンケート>
アンケート名称:日経リサーチ×HR総研:「キャリア自律」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)、株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月23日~10月6日
調査方法:WEBアンケート(SurveyHR)
調査対象:企業の人事責任者、人事担当者
有効回答:267件

<従業員向けアンケート>
アンケート名称:キャリア形成に関するアンケート
調査主体:株式会社日経リサーチ
調査期間:2020年9月25日~28日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:日経リサーチ保有のWEBモニターで以下条件該当者
      ・20代~60代の 民間企業勤務の正社員
有効回答:1,213件

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詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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