少し前まで、企業の人材育成上の課題と言えば、「ゆとり世代の育て方」が話題になることが多かった。企業の採用担当者や育成担当者からは、ゆとり世代は基礎能力が低い、競争にもまれていない、怒られたことが無い、仲間内だけと付き合うことが多く他の世代と価値観が共有できない、果ては「異星人だから、分かろうとするのが無理」という感想まで聞かれた。
「管理職育成」が企業の人材育成上の最大の課題に

現在利用している人材育成サービスと今後利用度が高まる人材育成サービス

 しかし、最近あまり聞かれなくなった気がする。「脱ゆとり教育」が進行しているからなのか、最近の国際的な若者の学力比較調査で日本が上位に復帰したからなのか、まだゆとり世代の就職は続いているものの、企業の人材育成上の課題として話題になることは減ってきたようだ。

 では、それに変わって最近主役に躍り出たものは何か。管理職層の育成である。最近、HR総合調査研究所が企業の育成担当者に人材育成上の課題を聞いたところ、管理職の能力向上が最も高かった。今後利用が高まる研修は何かという質問に対しても、管理職研修がダントツに高かった。

 もともと日本の中間管理職の能力評価は高かった。現場重視の傾向が強い日本では、職場での実際の仕事を通じた育成、すなわちOn the Job Training(OJT)がうまく機能し、責任感のある優秀な管理職が自然と輩出される仕組みがあったと言える。高度成長期にはこの中間管理職の層が厚かったからこそ、経営者が誰であっても会社は回っていたのかもしれない。

 しかし、潮目は完全に変わった。日本が経済の成熟期に入り、一方で国際化が急速に進行する中で、企業間競争が激しくなり、中間管理職は管理だけでなく、一プレイヤーの役割も求められるようになる。また、事業環境の変化がますます激しくなってきた現代、これまで培ってきた経験、スキルに頼る中間層は、「変化に対応できないお荷物」という見方までされるようになる。しかも、低成長の状況では上のポストを目指せる人はごく一部となり、管理職から一現場社員に戻らざるをえない人も当然増えている。

 育成担当者の管理職育成に関する実際のコメントを見てみよう。
 「管理職のマインド、能力、知識の向上(が課題)」
 「管理職層の教育不足、次期管理職候補の不足」
 「管理職層の、研修に対するモチベーションが低い」
 「プレイングマネージャーがほとんどの為、部下のマネジメントができない」
 「管理職のマネジメント力、社員の自律的キャリア開発志向の欠如、およびそれらをサポートする仕組みの欠如」
 「ミドル層の管理能力向上、中長期的視点での選抜、自燃型人材の育成」
 「社内の高齢化が進み、管理職のポジションが少なくなっていくことによって、社員のモチベーションが低下してきている」
 「プレイングマネージャーがプレイヤー業務に時間をとられすぎ、部下を育成する時間がなくなっていること。結果として部下育成の意識が低い従業員が次の管理職となり、悪循環となりつつあります」
 「社員の大半がミドル層となり、今後会社の中でのキャリアパスが描きづらく、モチベーションをどのように維持し、活用していくべきなのか課題と感じる」
 「中堅社員より上位について、今までやってきたところを視点を変えたビジネス創造やコンサルティングなど、上流へのシフトを求められている。職種転換も含めて、何をどんな順番でやっていくことが効果的なのか測りかねているのが実態」
 
 人材育成担当者の悩み多き現状がよくわかる。管理職層にとっても受難の時代だが、そもそも全員が管理職になれる時代はとっくに終わっているし、管理職=出世の象徴=偉い、という意識そのものを変えないと、うなだれた中間層が多数生まれる職場になってしまう。管理職育成が企業の課題として重みを増していることは、成熟化社会、高齢化社会で、新たな組織の価値観を生み出さなければならないことの裏返しとも言えるだろう。


HRプロ 代表/HR総合調査研究所 所長 寺澤康介

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