株式会社帝国データバンク(以下、TDB)は2021年9月17日、後継者不在や事業継承の失敗に起因する「後継者難倒産」に関する調査結果を発表した。これにより、業界や業種別の「後継者難倒産」の現状や、新型コロナウイルス感染症拡大による影響などが明らかとなった。
コロナ禍で後継者不在による「後継者難倒産」が目立つ傾向に。発生件数は過去最高ペースを継続

「後継者難倒産」は引き続き高水準に。倒産全体の1割近くを占める

政府・民間金融機関による積極的な資金供給や、新型コロナウイルス対応のための助成金や補助金の支給などを背景に、全国の企業倒産は抑制されている。では、その中で「後継者難倒産」はどのような状況なのだろうか。

はじめに、2021年度4~8月の5ヵ月間で発生した「後継者難倒産」を調査した。すると累計で191件となり、同じ期間としては3年連続で190件を超えるなど、高水準で推移していることが判明した。また、全体の倒産件数に対して、「後継者難倒産」が占める割合は7.9%となり、昨年度の5.7%を上回るペースで推移していることがわかった。全国的に企業倒産のペースが抑制されている一方で、「後継者難倒産」の件数は高止まりの傾向を見せている。
コロナ禍で後継者不在による「後継者難倒産」が目立つ傾向に。発生件数は過去最高ペースを継続

業界別では「サービス業・小売業」で過去最高を更新。BtoC業種で急増

続いて、2020年同期比で、業種別の「後継者難倒産」の状況を見た。すると、顕著な増加を示したのは「サービス業」で、2020年同期比で26.7%増加し、38件に。また、「小売業」も同22.6%増の38件と、それぞれ2割の増加で過去最高となった。これらの結果から、「BtoC業種」での後継者難倒産が急増している現状がうかがえる。飲食店などを中心に、後継者不在に加えて、新型コロナの影響による個人消費の落ち込みが追い打ちとなったケースが多いようだ。

他方、全業種中で倒産件数が最も多かったのは、「建設業」で42件に。建設業の「後継者不在率」は、6年連続で70%となっており(2020年11月時点)、長期にわたり深刻な後継者不足に陥っている。近年の受注環境激化に加え、コロナ禍により「民間工事の案件が延期・凍結される」といった事象も発生。さらに、ウッドショック(木材価格の高騰)による収益性の低下といった事情から、将来が見通せず、事業継続を断念するケースも相次いでいる。
コロナ禍で後継者不在による「後継者難倒産」が目立つ傾向に。発生件数は過去最高ペースを継続

個人消費業種では、全業種に比べ景況感の回復に遅れも

さらに、TDBが行なった「TDB景気動向調査」を基に、「業種全体」と「個人消費業種」それぞれについて、景気に関する総合的な指標「景気DI」の変化を調査した。すると、新型コロナウイルス感染症拡大による最初の緊急事態宣言下であった2020年4月が最も落ち込んでおり、「全体」が25.8、「個人消費業種」が17.2となった。その後は両者とも上昇と下降を繰り返しながら、概ね上昇傾向となっているものの、「業種全体」に比べると、「個人消費業種」の数値が低い傾向が継続していることが見て取れる。

「宿泊業」や「飲食業」といった、いまだ需要の先行きが不透明な「サービス業」や路面店など、BtoC業種では景況感の回復が遅延しており、売り上げの減少や資金繰りの厳しさが長引くとの予想もある。このような「先行きへの不安感」と、「後継者不在」という事態により、事業の展望を描けなかった企業が、「あきらめ型」の後継者難倒産を選択し、倒産件数の増加に拍車をかけることも懸念される。
コロナ禍で後継者不在による「後継者難倒産」が目立つ傾向に。発生件数は過去最高ペースを継続
コロナ禍により、特にサービス業や小売業などの個人消費業種で、「後継者難倒産」の件数が増加していることが明らかとなった。先行きを見通せず、経営を断念せざるを得ない場合でも、政府が展開する事業承継支援を活用するなどして、自社の技術や人材といった資産を守る術を検討していきたい。

この記事にリアクションをお願いします!