「障がい者雇用&戦力化の教科書」2回目は、「社内の障がい者雇用に対する理解をどのように引き出すことができるのか」について見ていきます。障がい者雇用を会社の中でうまくいかせるためには、障がい者本人の努力も必要ですが、受けいれる職場の環境を整えることも大切です。しかし、社内の障がい者理解は自然に進むものではありません。一緒に働く社員の協力を得るために、社内全体の障がい者雇用に対する理解を深めることが必要です。どのような方法が効果的なのか、会社全体で理解を深められるのかについて考えていきましょう。
第2回:社内の障がい者雇用の理解を引き出すために有効的な方法
障がい者雇用は経営トップや経営陣、管理職だけが理解していればよいというものではありません。多くの企業で、障がい者と一緒に働く社員の大半は一般社員ですし、その方たちの理解や協力がなければ、継続的・安定的に障がい者雇用をおこなっていくことはできないからです。

経営者や部門のトップが障がい者雇用に理解を示したとしても、一緒に働く人の理解がなければ、採用した障がい者の定着は難しくなります。そのため、障がい者雇用の導入初期はもちろんですが、それ以降も機会があるごとに自社内における障がい者雇用への取り組みや、一般社会の障がい者雇用の動向などを伝えていくことは大切です。実際、「社内の障がい者雇用に関して、前向きにとらえにくい……」と考える社員が多いと、会社が障がい者雇用を進めることは難しくなります。

また、社内・社員の理解を得ないまま障がい者雇用をはじめようとすると、次々に課題が出てきてしまうものです。ですから、雇用形態にかかわらず、会社にいる従業員すべてが障がい者雇用についてある程度の知識をもつように態勢を整えることは必要なのです。

私が教育機関で就労支援をしていた時に学生を採用していただいたある企業では、障がい者雇用に対する社内理解を進めないまま採用に踏み切ってしまったため、残念ながら雇用した後、すぐに退職となったケースがありました。

この企業は、従業員数は300人程度、業種は製造業でした。障がい者雇用が進んでいない状況だったこともあり、はじめに面談した取締役と管理部長は「すぐに障がい者雇用を進めたい」と、とても積極的に話を進めてくれました。この面談時に、2週間の実習がスタートすることが決まりました。ここまではスムーズだったのですが、実際に、実習に入ってからが大変でした。

実習開始初日に、若い社員が担当者として紹介されました。しかし、この方は、自分が障がい者の担当になることを実習直前に知らされたようで、とても戸惑っており、自身の仕事で手一杯でもある様子がこちらにも伝わってきました。障がい者本人に求められている仕事内容は、慣れれば十分にこなせるものでしたが、この担当者の教え方は厳しく、終始イライラしている状態が続きました。

実習中の様子を見ていると、受けいれ態勢の状況から正式採用は厳しいように感じましたが、実習者本人と保護者が就職することを希望したこと、また、企業からも採用したいとの意思があり、採用が決まりました。

実習中に担当した方がそのまま採用後も継続して担当者となりましたが、業務への負担感があったようで、協力的とはいえない状況が続きました。そして、正式採用されたものの2ヵ月経過しないうちに退職することになりました。本人にはもう少し頑張りたいという気持ちがありました。しかし、保護者が担当者とのやり取りのなかで、このまま仕事を続けさせることは難しいと判断したのが、退職にいたった理由です。

こちらとしては、担当者がもう少し配慮を示してくれれば……という思いはありましたが、きっと担当者ご本人も障がい者雇用の情報がまったくないなか、業務も多忙であったことから、配慮がほとんどできないまま厳しい指導を続けざるを得なかったのかもしれません。実は、このようなケースは決して特別なものではありません。

それでは、何が問題だったのでしょうか。まず、「会社が担当者に、障がい者雇用を担当することを事前に知らせていなかった」ということが大きな問題点だと私は考えています。

障がい者の雇用や採用に関しては経営者・マネジメント層が決めるにしても、必要な情報の部下や直接関わる社員への周知は、絶対に必要なことです。そして、「担当を任せても大丈夫だと信頼しているからこそ担当者として選んだ」ということも伝えたほうがよいでしょう。

先述の担当者は、障がい者雇用に関する知識や情報をほとんどもっていなかったようです。担当者ご自身も、はじめてのことでどうしたらよいのか、どのように情報を得て、誰に相談したらよいのかなど、迷ってしまうことがたくさんあったのだと思います。企業が障がい者を雇用するときには、障がい者雇用に関する基本的な情報収集をおこなうとともに、それを社内にも展開しておくことが必要です。また、困ったときや課題がある場合には、どこに相談すればよいのかも決めておくべきです。

そして、社内でのフォロー態勢をつくっておくことも大切です。仕事をする大変さは同じでも、誰かが自分に関心をもっていると感じたり、相談できるような状況をつくったりしておけば、担当者が孤立することはありません。上司や同僚がサポートして、話を聞いて、一緒に対応できる仕組みを構築しておくとよいでしょう。

しかし、現状では、担当者に任せきりにしてしまう組織が少なくありません。その結果、障がい者を担当している社員が疲れ切ってしまったり、メンタル的な問題を抱えたりして、退職にいたってしまうこともあるのです。

このような状況に陥ってしまうと、会社が障がい者雇用にかけてきた労力のすべてが無駄になってしまうばかりではありません。1回失敗すると、そのときの負担やネガティブな感情が残ってしまい、社員の協力がますます得にくくなります。このような負の連鎖を起こさないためにも、事前の準備は大切なのです。

社内の理解を引き出すために考えておきたい点とは

障がい者雇用は、法律で定められたものであり、会社がおこわなければならないものであると理解している人は多いものの、実際に自分の部署に配属されることがわかったり、自分が一緒に障がい者と働くとなったりすると、なかなかそれを受けいれるのは難しい場合があります。

その理由は、障がい者と一緒に働く時にどのようなことが求められているのか、何をおこなう必要があるのかがわからずに、不安になってしまうからです。また、現時点でも十分忙しいのに、さらに業務が増えたり、新しいことを学んだり導入したりすることへの負担感もあるでしょう。

しかし、障がい者雇用は会社全体でおこなうこと、それに関して必要なサポートは会社が対応していくことを、姿勢で示すことによって、社員の受けいれ方も変化していきます。そのために「会社として、組織全体で取り組むという姿勢」を示すことが大切なのです。

経営トップや経営層から、組織として障がい者雇用を進めることの必要性を社員に伝え、それをサポートしていく組織体制も示してください。例えば、社員全体が集まるキックオフや幹部社員が出席する会議などで周知をはかることができるかもしれません。

社内の共通理解を深めるには、社員が障がい者雇用や障がいについて知る機会をつくることも必要です。例えば、社内報に障がい者雇用に関わる情報を掲載すること、ビジネス雑誌といった媒体に載っている障がい者雇用に関する記事を情報として共有すること、年末調整時に障がい者控除のお知らせをおこなうことなどができるでしょう。

また、社内研修の開催や、障がい者雇用に関する外部のセミナー・研修会を紹介することも有効的な方法です。労働局やハローワーク、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構などの公共機関で実施されるセミナーや研修会は、無料で参加することができます。下記も参考にしてみてください。

プロが教える、障がい者雇用に役立つ「無料研修」2選(「障がい者雇用の悩みと解決のヒント」より)
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2040

実際に障がい者を受け入れる部署の社員の方たちは、職場実習を実施して受けいれを体験することや、すでに障がい者雇用をおこなっている近隣の企業を見学したり、話を聞いたりすることができます。具体的な受けいれをイメージして、準備するのに役立つでしょう。

人事部や管理部に所属している方にとっては、障がい者雇用についての情報はよく聞く内容かもしれませんが、他の部署の社員にとっては、はじめて聞く話も少なくありません。情報発信していても、直接業務に関係ないこととしてスルーされてしまっていることもよくあります。「一度伝えたから、当然わかっているだろう」と判断するのではなく、何回も繰り返し社内に浸透するように伝えていくことも重要です。

自社内において浸透させるためには、どのような形で社員に伝えれば受け止めてもらいやすくなるのかを考え、実行していくかは、人事に関わる方の手腕にかかっているともいえます。ぜひ、それぞれの企業の社風や社員の方たちの雰囲気、障がい者雇用に対しての今までの取り組み状況などを考慮しながら、社内全体に浸透させていただきたいと思います。
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