2024年4月から2025年4月にかけて、「労働基準法に関する法律」や「労働契約に関する法律」など、人事労務業務にかかわる法改正が多数施行されます。法改正の内容を押さえ、実務対応のポイントを確認することで、滞りなく対応できるようにしておきましょう。

【社労士監修】2024年度 法改正:人事労務分野で対応が必要な“実務対応のポイント”を解説《詳細資料あり》

内容別に「法改正の対応ポイント」を解説

“対応が必要な内容”で法改正を分類し、「誰が」、「いつまでに」対応すべきか整理しやすくしてみます。

1.「労働基準法」(労務管理)に関するもの
2.労働契約(フリーランス含む)に関するもの
3.年金、社会保険に関するもの
4.雇用保険被保険者への給付に関するもの
5.障がいがある方に関するもの
6.定額減税

それでは、改正概要と実務対応ポイントを確認していきましょう。施行される順番は、図をご覧ください。
2024年度 人事労務関連 法改正一覧

1.労働基準法(労務管理)に関するもの

●「働き方改革法」(労働基準法)時間外労働の上限規制の猶予措置の終了
(建設業、医師、自動車運転者、砂糖製造業)

4月1日以降の労働時間について“適用猶予”が終了することにより、すべての事業者で「時間外労働の上限規制」が適用となります。

36協定書の起算日を4月1日としている事業者については、新様式の協定書により、36協定を締結しなければなりません。協定の起算日が4月1日以外の場合は、前年に締結した協定の終了日以降に新様式での協定を締結することになります。適用猶予対象の事業者は、36協定の締結日を確認し、正しい様式で協定を締結できるよう準備しておきましょう。

2.労働契約(フリーランス含む)に関するもの

「すべての事業者が対応必須の改正」と、「該当する対象者がいる場合に対応しなければならない改正」があります。

労働契約に関する事項は、明示しておかないと後々のトラブルや係争に繋がります。就業規則で会社が異動について命じられるように定めていても、“労働条件”として明示しなければ無効になる可能性があるのです。採用時や労働条件の更新時には、対象の労働者の契約期間や将来の異動(業務・転勤)の可能性も含めて確認し、労働条件通知書(雇用契約書)に明示した上で、労使双方で保管するようにしましょう。

●労働条件の明示・無期転換ルールの変更
●裁量労働制の条件変更
●フリーランスへの委託業務の内容の明示義務

3.年金、社会保険に関するもの

●短時間労働者への社会保険各法の適用拡大
これまでも社会保険の加入対象が順次拡大されてきましたが、今回は「被保険者数51人以上(50人超)の企業」まで拡大されます。新たに対象となる社員がいる企業では、社員との労働契約を見直す必要があります。早めに準備を進めていきましょう。

また、“被保険者数が51人前後で推移している企業”については、毎月末の被保険者数を確認し、過去1年間のうち6ヵ月で月末の被保険者数が51人となった場合、加入義務が発生し、年金事務所(健康保険組合)から通知が届きます。この通知が届いてから進めるのでは、社員との契約の見直しの時間が取れず苦慮することになってしまうため、2024年10月から加入対象になるわけではなくとも、毎月末の被保険者数を確認し、準備しておくことをお勧めします。

●確定拠出年金の拠出限度額の見直し
制度改正により「企業型DCの拠出限度額」の算定方法が見直され、“加入者が加入しているDB等の他制度ごとの掛金相当額を月額55,000円から控除した額”となります

4.雇用保険被保険者への給付に関するもの

雇用保険被保険者への給付は、「高年齢雇用継続給付金」については縮小、「育児に関する給付金」は増額となります。

「高年齢雇用継続給付金」の縮小は、給付金の支給を見込んで定年後の給与を減額している場合、給与額の見直しが必要となるケースもあるかもしれません。給付金対象となっている高年齢者の給与についても確認しておきましょう。

「育児に関する給付」については、緊急の子育て支援策として、2024年1月からの通常国会に法案として提出され、2025年4月には施行される予定となっています。賃金登録が必要な手続きとなりますので、人事労務担当者としては、しっかりと内容を確認し、社員への説明や手続きができるようにしておかなければなりません。法律の成立の動向にも注目しましょう。

更に、2028年度には、雇用保険被保険者の加入条件が「労働時間が週20時間以上」から「週10時間以上」に拡大される予定になっています。複数事業者に雇用されている方について、どのような手続きが必要かも今後示される予定です。“そのような改正がある”ということを押さえておきましょう。

●高年齢雇用継続給付金の縮小
●出生後休業支援給付金(仮称)
●育児時短就業給付(仮称)
●雇用保険被保険者資格の見直し

5.障がいがある方に関するもの

法定雇用率の引き上げや、除外率の引き下げがあります。自社が法定雇用の対象となるかを確認し、除外率の対象となっている事業者は、内容を確認し対応できるように準備しておきましょう。

また、「障がいのある方への合理的配慮」が、民間事業者にも義務化されます。自社の業務や事務のどのような場面で対応が求められるか、行政のリーフレットを参考に考え、個々の担当者が対応できるようにしておきましょう。

●障がい者の法定雇用率引き上げ:民間企業2.5%(40.0人以上の事業主)
●「障害者差別解消法」の改正 合理的配慮が努力義務から義務に
●障害者雇用の除外率の引き下げ

6.定額減税

2024年限りではありますが、2024年1月からの通常国会に法案として提出され、2024年6月には、事業者が対応していかなければなりません。源泉所得税については、6月の給与(賞与)から対象者1名について3万円を控除していきます。6月に控除しきれない場合は7月というように、順に控除し、2024年の年末調整で控除額を確定させます。法案の段階では、「6月以降の退職者の源泉徴収票に、定額減税で控除した額を記載しなければならない」等、対応すべきことが多くあります。個人住民税については、7月分から11ヵ月に均して控除することとなる予定です。



以上、2024年以降に人事労務分野で対応しなければならない法改正についてご案内しました。今年限定の制度や、法成立から対応までのスケジュールがタイトなものも多くあります。対応の要否を確認し、施行日までにしっかり準備しておきましょう。


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