企業は全従業員に対して一定以上の割合で障がい者を雇用する義務がありますが、雇用には尊厳と自立を支援する重要な役割を担っています。「障害者虐待防止法」とは、障がい者の権利と福祉を保護するための基本的な枠組みを定めたものです。企業はこの法律の目的を理解し、どのような責任があるのか、どのような行為が障がい者虐待に当たるのかを理解しておくことが求められます。今回は、企業が知っておきたい「障害者虐待防止法」について解説していきます。
企業が理解しておくべき「障害者虐待防止法」とは? 基本と対応措置をわかりやすく解説

「障害者虐待防止法」とは

「障害者虐待防止法(正式名称:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)」は、障がい者が被害を表現するのが難しい場合や自己防衛の方法を知らないことから起こる虐待を防ぐための法律です。この法律は2011年6月に制定され、2012年10月に施行されました。

この法律の目的は、障がい者の尊厳を保護し自立や社会参加を妨げる虐待行為を禁止して、障がい者の権利を擁護することです。また、虐待の予防と早期発見のための取り組み、さらに障がい者を支援する人々(養護者)への支援策も定めています。

この法律で言う「障がい者」とは、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者(発達障がいを含む)、および日常生活や社会生活において継続的な制限を受ける心身の機能障がいを持つ人々を指します。これにより、広範な障がいの種類をカバーし、これらの障がいを持つ人々の権利保護と福祉の向上を目指しています。

障がい者の虐待防止というと福祉機関の虐待をイメージするかもしれません。しかし、法律では、「養護者による障がい者虐待」、「障がい者福祉施設従事者等による障がい者虐待」、「使用者による障がい者虐待」の三者の防止等を規定しています。

「養護者」とは擁護する親、家族等を意味します。また、「障がい者福祉施設従事者」は、障害者総合支援法で規定している障がい者支援施設、障がい福祉サービス事業、相談支援などに関わるスタッフ等が該当します。「使用者」は、障がい者を雇用する事業主、上司、担当者、同僚などを指します。工場長、労務管理者、上司などの責任者だけでなく、人事担当者や同僚、障がい者と一緒に働くあらゆる社員、職員、スタッフが含まれることに注意が必要です。

「虐待」にはどのような行為が含まれる?

「障害者虐待防止法」において虐待として含まれることは、次の5つです。

(1)身体的虐待
身体的虐待は、障がい者の身体にケガをさせたり、またはケガをさせる恐れのある暴力や暴行を加えたりすること、正当な理由なく障がい者の身体を拘束することを指します。具体的な行為としては、平手打ちをする、殴る、蹴る、叩きつける、つねる、食べ物や飲み物を無理やり口に入れる、やけどさせる、縛り付ける、閉じ込める等が含まれます。

(2)性的虐待
性的虐待は、障がい者にわいせつな行為をすることや、障がい者にわいせつな行為をさせることを指します。具体的な行為としては、性的な行為や接触を強要する、障がい者の前でわいせつな会話をする、わいせつな映像を見せる等が含まれます。

(3)ネグレクト
ネグレクトは、障がい者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護を著しく怠ることを指します。具体的な行為としては、食事や水分を与えない、入浴や着替えをさせない、排泄の介助をしない、掃除をしない、病気やけがをしても受診させない、第三者による虐待を放置する等が含まれます。

(4)心理的虐待
心理的虐待は、障がい者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うことを指します。具体的な行為としては、怒鳴る、ののしる、悪口を言う、仲間に入れない、子ども扱いする、無視をする等が含まれます。

(5)経済的虐待
経済的虐待は、障がい者の財産を不当に処分することや、障がい者から不当に財産上の利益を得ることを指します。具体的な行為としては、年金や賃金を渡さない、本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用する、日常生活に必要な金銭を渡さない等が含まれます。



企業(使用者)の虐待として報告されているのは、経済的虐待と心理的虐待が最も多くなっています。「令和4年度使用者による障害者虐待の状況等」では、次のような事例が報告されています。

・心理的虐待が認められた事例
障がい者が同僚の業務を手伝ったところ、事業主から「勝手なことをするな、ボケ」、「辞表を出せ」などといった暴言を吐かれたとして、労働局に相談があった。

・経済的虐待が認められた事例
業務に関して最低賃金の減額特例許可を受けていた障がい者を、当該許可で認められた業務とは異なる医療に関わる業務に従事させていた。(減額特例については、文末の参考記事をご覧ください)

・心理的虐待・放置等による虐待が認められた事例
事業主が、業務中に作業場から抜け出した障がい者を保護せずに放置したり、ミスをした別の障がい者を「何やってんだ」、「ふざけるな」などと大声で罵ったりしたとして、市町村に相談があった。

なお、令和4年度に通報・届出のあった事業所数は1,230事業所で、虐待が認められた事業所数は430事業所でした。虐待種別・障がい種別障がい者数は、以下の表の通りです。
令和4年度使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

出典:令和4年度使用者による障害者虐待の状況等(厚生労働省)

企業がおこなうべき障がい者虐待防止のための措置

企業は虐待を未然に防ぐために研修の実施や苦情対応の体制構築などの対策をおこなうことが求められます。

・研修の実施
社員研修を通じて、障がい者の人権についての理解を深めるとともに、職場内での障がい者への適切な接し方や支援の方法を学ぶことができます。研修の内容は、障がい特性や障がいの特性に適した仕事の教え方や接し方などを含め、障がい者虐待の法律やどのような行為が障がい者虐待に該当するのか、障がい者虐待を事業所で発見した場合にどこに報告し、事業所としてどのような措置を行うのかなどを扱います。

特に注意しておくべき点は、虐待が発生している事案でも、虐待をしている人(虐待者)、虐待を受けている人(被虐待者)に自覚があるとは限らないということです。ときには、虐待をしている人が「指導、しつけ、教育」という名のもとに虐待を行っている場合が見られます。研修を通して、同じ職場や会社の中で働く社員、職員、スタッフが障がい者の人権や障がいの特性を理解することは、障がい者雇用の促進にも役立ちます。

・苦情処理体制の整備
障がい者やその家族が安心して相談できる窓口を設置し、その存在を広く周知します。事業所内で発生した障がい者虐待の場合、専門の部署や相談担当者を設定し、人事部門との連携を図ることで、迅速かつ適切な対応が可能となります。この体制の確立は、障がい者雇用への理解の促進にも寄与します。

・不利益取扱いの禁止
障がい者が通報や届出をしたことを理由に、解雇や不利益な取り扱いをすることを、企業に対して禁じています。

なお、企業や会社、組織の中で、虐待を発見した時には、事業所所在地の市町村または都道府県の障害者虐待対応窓口に連絡します。虐待対応窓口に連絡すると、以下の図のような流れで、都道府県労働局へ報告されます。
使用者による障害者虐待をなくそう(厚生労働省)

出典:使用者による障害者虐待をなくそう(厚生労働省)

上記の都道府県労働局等への報告では、通報などの秘密は守られるとされていますが、外部機関に連絡することはハードルが高いと感じることもあるかもしれません。可能であれば通報する前に会社や組織の上司、部門長、相談窓口に相談すると良いでしょう。

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