使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を「最低賃金」といいます。障がい者雇用でも、最低賃金を参考にしながら給与額を検討することがあります。この最低賃金制度とはどのようなものなのか、現在の最低賃金はいくらなのか、また最低賃金制度にある「減額の特例許可制度」について解説していきます。
障がい者雇用を始めるときに知っておくべき「最低賃金」と「減額特例」

障がいの有無にかかわらず適切な賃金設定をする

「障害者雇用促進法」では、雇用における「障がいを理由とする差別的取り扱い」を禁止しています。この差別の中には、募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練などにおいて、障がい者であることを理由に排除することや、不利な条件を設けることが含まれています。そのため、障がいのない人と障がいのある人が同じ能力を持っているのであれば、障がい者であるという理由で給与額に差が出ることは認められません。

また、障がい者雇用の場合も、一般雇用と同じように「最低賃金制度」を遵守する必要があります。最低賃金は、雇用主が労働者に支払わなければならない賃金の最低額のことです。もし仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされることになります。

この最低賃金は、「地域別最低賃金」として都道府県ごとに定められています。また、特定の産業ごとに設定されている最低賃金を「特定(産業別)最低賃金」といい、産業の労使が「地域別最低賃金」よりも高い水準で最低賃金を定めることが必要と認めた場合に設定されています。使用者が地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められており、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。

なお、2023(令和5)年10月から順次、地域別最低賃金が改定されています。各都道府県で最低賃金が39〜47円引き上げられ、全国の平均時給は2022年度より43円高い1,004円となり、はじめて全国平均が1,000円台に達しました。

最低賃金の対象は、通常の労働時間に対応する賃金です。具体的には、実際に支払われる賃金から、以下の賃金を除外したものが対象となります。

【最低賃金の対象となる賃金】
・臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金、深夜割増賃金等)
・所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金等)
・精皆勤手当、通勤手当および家族手当


障がい者雇用を始める際に、「どれくらいの給与を設定すればいいのか」と気になる企業も多いようです。しかし、障がいの有無にかかわらず、給与額を決める上で大きな要素となるのが「仕事内容」や「従業員に求める役割」です。「障がい者雇用だから賃金は……」と決めるのではなく、仕事に合わせて適切な賃金設定をしていくことが求められます。「障がい者雇用」の給与設定のポイントについては文末のリンク記事でも解説しています。

最低賃金の「減額特例」とは?

障がいの有無にかかわらず、仕事に合わせて適切な賃金設定をすることが求められるとはいえ、障がいによっては、業務遂行のスピードがゆっくりだったり、できる業務が限定的であったりと、当事者にとって企業側が求めている業務量をこなすのが難しいこともあります。また、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれが生じることもあります。このような場合、一般的な給与と同水準の金額を設定するのは難しいと感じるでしょう。

「最低賃金で雇用することが難しい」と思われる場合には、「最低賃金減額の特例許可」が認められる制度があります。適用には、雇用主が労働局に申請書を提出し、許可を受けることが必要です。しかし、単に特定の労働者に障がいがあるというだけでは、許可の対象とはなりません。障がい者のもつ障がいが、従事しようとする業務に直接支障を来していることが明白であり、その支障の程度が著しい場合に適用されるものとなります。

なお、減額特例の対象となる労働者は、下記の条件に当てはまる場合です。

【最低賃金の減額特例を受けられる労働者の条件】
・精神または身体の障がいにより著しく労働能力の低い者
・試の使用期間中の者
・基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている者のうち厚生労働省令で定める者
・軽易な業務に従事する者
・断続的労働に従事する者


減額特例の許可を受けようとする雇用主は、所定様式による申請書を作成し、所轄の労働基準監督署に提出して都道府県労働局長の許可を受けることが必要です。また減額率は、厚生労働省によって上限が定められています。雇用主は減額対象となる労働者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を総合的に検討して、減額率を定めることになります。

なお、中途障がいなどのケースでも減額特例が必要になるかもしれませんが、多くの場合は採用時の業務マッチングがうまくできれば、特例が必要になる可能性は減らすことができます。職場で障がい者に活躍してもらうために、どのような点に留意すべきかを見ていきましょう。

職場で障がい者に活躍してもらうために留意すべきポイント

障がい者を採用したものの、業務のスキルが足りない、マッチングがうまくできていないと感じる場合には、採用方法や業務創出方法を見直すことが必要です。採用してから、個別に合わせた業務を考えていく方法は、企業や職場にとって現実的ではなく、現場で一緒に働く社員の疲労感と不満を増大させる原因になりかねません。

「障がい者や障がい特性に合わせた業務を創出しなければならない、しかしそのような業務はない……」と考えている企業や担当者にお会いすることがありますが、このような考え方をしていると障がい者雇用は進みません。業務の創出が難しい場合には、まず企業に求められる業務、必要とされている業務は何かを考えることが大切です。そして、その業務ができる人材を採用していくことがポイントになります。

障がい者雇用といっても、いろんな障がいの方がいます。「障がい者だから○○できない……」とステレオタイプに決めるのではなく、求める業務ができる可能性があれば、障がい種別にかかわらず、実習やトライアル雇用などで実務を任せながら判断していくとよいでしょう。

特に近年では、精神・発達障がいのある求職者が増えています。このような人たちの中から特定の分野での能力やスキルがある人材を対象にインターンシップを行い、期間雇用の中で実務力を身につけてもらって本採用していく方法に取り組む企業もあります。一般的な採用で思うような人材が採用できないと感じるのであれば、業務を創出する考え方と採用方法を見直してみましょう。このような取り組みができている企業や職場では、障がい者が本業で活躍している事例が見られます。


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