企業の戦略を実現するためには、今や人的資本経営が必須となっている。2022年7月以降、男女間賃金格差の開示が義務付けられ(常時雇用労働者301人以上事業主対象)、2023年3月期以降は有価証券報告書で人的資本と多様性の状況の開示が求められている。女性活躍をはじめとしたダイバーシティの推進によって、企業内にイノベーションを創出し、グローバル競争力を向上しようと政府が旗振りをしているためだ。そうした人的資本経営は世界では今、どのような状況だろうか。

株式会社ペイロールは今回、日本で初めて「ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー」の認証を取得された慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆氏をお招きし、人的資本経営の最新動向とダイバーシティマネジメントについて、基調講演をいただいた。

また、セミナーの最後には株式会社ペイロール 事業開発部 松田氏から、人的資本の可視化と他社比較ができる新サービス「e-pay HR KPI」についてご紹介する。


プロフィール


  • 岩本 隆氏

    岩本 隆氏
    慶應義塾大学大学院
    政策・メディア研究科 特任教授

    東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授。2022年12月に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の特任教授に就任。HRテクノロジー大賞審査委員長、HR総研アドバイザー、(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事、(一社)デジタル田園都市国家構想応援団理事、(一財)オープンバッジ・ネットワーク理事などを兼任。2020年10月、日本初のISO 30414リードコンサルタント/アセッサー認証取得。

  • 松田 兆仁氏

    松田 兆仁氏
    株式会社ペイロール
    事業開発部

    2018年よりカナダのITコンサルディング会社にて従事。
    その後2021年7月より事業開発部へ参画し、2022年7月よりペイロールに本格的にJOIN。
    人的資本経営が活発化する中、自社の人的資本情報と統計情報を比較し課題発見やリスク低減に向けたアクションを取りやすくする新サービス、人的資本レポート「e-pay HR KPI」の企画、販売推進等に従事。現在、HRTech と FinTech を掛け合わせたサービス「e-pay sugumo(イーペイスグモ)」など様々な案件の企画・推進をリードしている。

岩本先生・松田様

人的資本経営の最新動向【第1部】登壇者:岩本 隆氏

岩本先生

はじめに


産業構造においてソフトウェアやデータなどのビジネスが大きくなり、企業価値に占める無形資産の割合が高まっています。なかでも特に重要な人材力・組織力に関して、「指標(人的資本KPI)」と「目標」を設定して人的資本経営を推進することが、世界的に”当たり前化”してきました。人的資本報告の国際標準化も進んでおり、主にISSBとISOの2機関によってグローバル基準開発が進められていて、日本もそこに寄与すべく産官学で活動しています。

なかでも賃金透明化の政策は先に動いていて、男女間賃金格差(ペイギャップ)については有価証券報告書での開示が義務化されたので、報告が急務となっています。

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)における人的資本報告


ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、乱立するサステナビリティ基準団体の統合を目的として、2021年11月にIFRS(国際会計基準財団)の中に設立されました。日本のリエゾン組織であるSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2022年7月に設立され、ISSBを基にSSBJがサステナビリティ基準の日本版を策定しています。2024年3月までに草案を公開し、2025年3月までに確定させる予定です。早ければ2026年6月の決算報告で、ISSB基準に沿って開示する企業もあるでしょう。

サステナビリティ報告に関しては、日本では統合報告書での報告が増加しており、2022年12月末時点で、上場企業のうち2割以上となる872社が統合報告書を発行しています。それらの企業の合成株価はTOPIXより高値で推移しており、株式市場からも統合報告書発行企業が評価されていることがわかります。

ISSBが今後深掘る候補となっている4つのプロジェクトのうち1つが「人的資本プロジェクト」です。「DEI(Diversity, Equity, Inclusion)/コグニティブダイバーシティ、ワークフォースのウェルビーイング(メンタルヘルス、福利厚生含む)、従業員エンゲージメント、ワークフォース投資、代替ワークフォース、バリューチェーンにおける労働条件、ワークフォースの構成とコスト」が、今後調査を深める可能性のあるトピックとして挙がっています。

ISO(国際標準化機構)における人的資本報告


ISO(国際標準化機構)では、2011年に人材マネジメントの専門委員会であるISO/TC 260が創設されました。人的資本報告のための測定基準の開発が進められ、すでに30の国際規格が出版されました。日本は2023年2月にPメンバー(Participating member)となって国際規格開発に貢献することとなり、私は国内審議委員会の副委員長に就任しています。現在稼働しているワーキンググループ(WG)のうち、WG7:Human Capital Reporting(IS0 30414)とWG13:HRMS Requirements(ISO 30201)に関して積極的に参加しています。

ISO 30414はすでに皆様もご存じかと思いますが、内部・外部への人的資本報告のためのガイドラインとして2018年12月に出版され、11の人的資本領域において58のメトリック(測定基準)が示されています。
ISO 30414が示す人的資本領域

参照:ISO 30414が示す人的資本領域

人材マネジメントは領域が広いので、皆様の企業が人的資本経営をしていく上で、どの領域にどのような投資をしていくか、優先順位をつけていかなければなりません。投資額が大きいのは給与・報酬ですが、他にも採用・人材育成、ダイバーシティ、従業員エンゲージメント、ウェルビーイング、コンプライアンス、後継者計画などへ投資をしていく必要があります。その時に、どの領域への人的投資が自社の業績や企業価値向上につながるのか、ROI(投資利益率)が最も高くなる領域をデータで見極めて投資判断をしていくことが重要です。

協力:株式会社ペイロール



この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。

●ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とISO(国際標準化機構)それぞれにおける人的資本報告について解説
●ヨーロッパで成立した男女間賃金格差透明化指令、 今後世界に影響を及ぼすとされるその中身とは?
●人的資本経営におけるKGIとKPIとの関係
●概念的な進化が著しい、ダイバーシティの最新動向
●平等と公平の違い、日本企業の女性登用に関する傾向を探る

  • 1

この記事にリアクションをお願いします!