厚生労働省の「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、配偶者のいる女性パートタイム労働者の21.8%は、その年収を一定額以下に抑えるために就労時間を調整する「就業調整」を行っているようです。「就業調整」とは、税制や社会保障制度、配偶者の勤務先で支給される「配偶者手当」などを意識して行われるものですが、これにより企業にはさまざまな影響が生じています。しかし、パートタイム労働者が「損しない働き方」や「働き損」を考えて就業調整を行うことで、逆に「損」をしたり、機会損失をしたりしている可能性もあります。そこで今回は、そうした就業調整について、企業がパートタイム労働者に伝えるべきことをお伝えします。
パートタイム労働者が「就業調整」を望む理由とは? 必要な人材確保に向け企業がパートタイム労働者に伝えるべきこと

パートタイム労働者が、就業調整により「損しない働き方」を求める理由

配偶者のいる女性パートタイム労働者が就業調整をする理由には、以下のようなものがあります。
配偶者のいる女性パートタイム労働者が就業調整をする理由
上記のそれぞれの理由は、本当に「損」をしてしまうようなことなのでしょうか。

まず、「(1)一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから」について考えてみましょう。自分で健康保険や厚生年金保険の被保険者になれば、健康保険の給付や将来の厚生年金の受給額が増えます。年金には、歳を取ったときの「老齢年金」、障がいを持った場合の「障害年金」、死亡した場合の「遺族年金」がありますが、これらの年金受給額を増やすことで、自分や家族が将来安定して生活することにつながるのではないでしょうか。

次に、「(2)自分の所得税の非課税限度額(103万円)を超えると税金を支払わなければならないから」および「(3)一定額を超えると配偶者の税制上の配偶者控除が無くなり、配偶者特別控除が少なくなるから」については、税制改正による配偶者控除等の見直しにより、収入が103万円を超えると所得税負担が発生しますが、世帯全体(夫+妻)の手取り収入は増加する仕組みになっています。
また、「(4)一定額を超えると配偶者の会社の配偶者手当がもらえなくなるから」については、配偶者手当がいくらかによって影響が異なります。しかし、厚生労働省が女性の活躍を促進していくために、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めており、書面での呼びかけなども行なっています。

「機会の損失」をしないために、企業がパートタイム労働者に伝えるべきこと

日本では毎年、最低賃金が改定されています。例えば東京都の最低賃金は、2021年度時点で「1041円」だったものが、2022年度時点では「1072円」と、1年あたり31円アップしています。このように賃上げの傾向は強まっていますが、会社が「昇給する」と言っても、パートタイム労働者の方は「労働時間を調整しないといけないので困ります」と言って喜びません。あるいは、「賞与を支給する」と言っても、「年収が一定額を超えてしまうので困ります」と辞退されてしまうこともあるでしょう。評価をしても賞与を支給しても本人が喜ばない状況に、悩んでいる経営者も多いのではないでしょうか。

賃上げによって年収が上がると、所得税の負担や社会保険負担は増えます。しかし、就業調整を行わない場合は、「限度額を気にすることなく収入を増やせる」、「勤務時間が増え、正社員登用の可能性がある」、「社会保険に加入したことで、将来もらえる年金額が増える、出産手当金や傷病手当金の給付対象になる」など多くのメリットがあります。就業調整をしている人は、それらの機会を損失してはいませんでしょうか。

単に「手取り額」のみでメリット・デメリットを判断するのではなく、社会保険加入によるメリットなど、自分の将来も含めて「損」をしない働き方を選んでいただき、せっかくの機会を損失しないようにしていただければと思います。

皆さんの会社で就業調整をしている人が、上記の内容を理解していない可能性もあります。ここまででお伝えしたことを踏まえ、企業経営者や人事担当者の皆さんには、将来の働き方について、パートタイム労働者と話し合ってみることをおすすめします。パートタイム労働者の方が今後どのような働き方を希望するのかを確認し、状況によっては、今後の契約内容を見直しする提案をされてはいかがでしょうか。

ぜひ、多様な人材の能力を最大限発揮できる、従業員のモチベーションを高められる企業にしていただければ幸いです。
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