企業が障がい者雇用をスムーズに進めるため、利用できるのが「就労支援機関」です。障がい者雇用で「人材を採用できたのであれば、雇用後に支援機関との関わりは必要ない」と考える企業もありますが、できるだけ就労支援機関との連携や関係づくりをしておくことをおすすめしています。なぜ、就労支援機関との連携を取るとよいのか、また、どのような支援機関があり、どんなときに活用できるのかについて解説していきます。
障がい者雇用で利用できる就労支援機関とスムーズな連携のポイント

障がい者の就労支援機関とは

障がい者雇用は企業で行うものですが、障がい者雇用や採用を進めやすくするために準備されているのが「就労支援機関」です。障がい者就労支援機関は、運営母体やサービス提供内容など、いろいろなものがあります。行政が運営するものもあれば、民間が運営するものもあり、サービス内容や関わり方なども機関によって変わります。ただ、共通しているのは、「障がい者の一般就労の機会を広げ、安心して働き続けられるために、就労面と生活面の支援を行うこと」を目的に活動しているということです。

企業が障がい者を採用するときには、ハローワークを活用することがほとんどです。そのため、採用だけを考えるのであれば、就労支援機関を活用しなくてもよいという考え方もあります。しかし、障がい者の状況をより深く理解するため、また職場定着を促すためには、就労支援機関からの情報が役立つことがあります。それは、障がい者が就労支援機関に定期的に通って訓練を受けているため、企業が実習や面接で知る以上の情報を持っていることが多いからです。

実習やトライアル雇用などを経て、「この人なら大丈夫だ」と思って採用した場合でも、障がい者の生活環境などが変わると障がい者社員が働くことに対する困難さが急に出てくることがあります。例えば、障がい者社員の家族の中で、介護が必要な人が出てくることがあります。それまで、保護者が障がい者社員の身だしなみや生活リズムなどに対してサポートしていたのに、優先順位が変わってしまったことで障がい者社員の生活が乱れ、その結果、職業生活に影響が出ることも少なくありません。

このような場合、企業側が障がい者社員の問題にどのような関わり方をするのかは、慎重に判断する必要があります。こういった障がい者社員への個別のサポートが、その後どれくらい必要になるかがわかりませんし、他にも障がい者社員がいる場合、1人にそのようなサポートをすると、他の社員にも同じように対応する必要が生じてくるからです。直接業務に関係することであれば、企業が対応すべきですが、そうでない場合には、企業が対応するよりも支援機関を活用することをおすすめしています。

企業が活用できる就労支援機関の種類と活用方法

企業が活用できる就労支援機関には、具体的にどのようなものがあるのか、どんな場面で活用できるのかについて見ていきましょう。

●就労移行支援事業所

「就労移行支援事業所」は、就労を希望する障がい者に対し、必要な知識や技術を身に付けるための訓練を行うところです。「障害者総合支援法」に定められた、障がい福祉サービスのひとつとして位置づけられています。障がい者が就職してから半年は定着支援を行いますが、それ以降の定着支援は、「就労定着支援事業所」に引き継がれることになります(定着支援は、最長3年間行われます)。

●障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)

「障害者就業・生活支援センター」(通称:なかぽつ)は、障がいの身近な地域において、障がい者の就業面と生活面をサポートする一体的な相談受付・支援を行っています。「就労移行支援事業所」や「就労定着支援事業所」の定着支援期間が終了した後、また「特別支援学校」のフォローが終わった後に、引き続き就労継続のために支援を行う機関です。

●地域障害者職業センター

全都道府県に配置されているセンターで、障がい者に対する専門的なリハビリサービスと事業主への雇用管理に関する相談受付、援助を行います。最近では、精神障がい者の職場復帰となる「リワーク支援」に力を入れています。

また、障害者職業センターには、「配置型ジョブコーチ」も在籍しており、障がい者が職場になじめるような具体的な支援をするほか、障がい者を雇用する事業主に対しても、教育の場や具体的なノウハウを提供しています。

●特別支援学校

「特別支援学校高等部」を卒業した障がい者を対象に、進路指導の教員が職場定着支援を行います。地域や学校によってフォローする年限は異なりますが、1~3年程度、支援を行うところが多いようです。

これらの就労支援機関に、どのようなことを相談するとよいのでしょうか。業務や職場の人間関係等、職場に関することは、基本的には社内での解決をめざします。ただ、企業では対応が難しいような障がい特性への配慮が必要な場合や、ジョブコーチの支援などが求められるときは、「障害者職業センター」に相談してみるとよいでしょう。

その他、職業生活に求められる生活リズムの構築や、医療との連携などを含む職場定着については、障がい者社員が就労前に在籍していた機関にサポートしてもらいます。ただし、「就労移行支援事業所」のサポート期間は就職後6ヵ月となりますので、それ以降は「就労定着支援事業所」か「障害者就業・生活支援センター」に相談するケースが多くなります。本人または家族を含めた生活に関する相談や、福祉サービスの活用などは、障がい者社員の居住している地域の福祉課との連携などが必要であり、厚生労働省が運営する「障害者就業・生活支援センター」とも連携することができます。

障がい者就労支援機関と連携をとるためのポイント

企業が就労支援機関と連携をとるメリットとして、「障がい者社員に関し、問題や課題が起こったときにアドバイスがもらえる」ということがあげられます。就労支援機関は、日々、障がい者と接していますので、いろいろな問題や課題などにどのように対処したらよいのか、また、問題を大きくしないためにどのような対処をすべきかの知識や情報を持っています。特に、「障害者就業・生活支援センター」や「地域障害者職業センター」には、豊富な経験があり、地域の障がい者雇用の情報を把握している職員が多くいますので、何かあるときには、社内で悩んでいるよりも相談することをおすすめします。

一方で、全ての就労支援機関やスタッフが障がい者雇用の問題に精通しているわけではないということも覚えておく必要があります。「就労移行支援事業所」は新設されるところも多く、スタッフが未経験だったり、スタッフ自身が企業勤務経験が少なかったりすることも珍しくありません。そのため、方針が異なり、合わせるのが難しいと感じる機関とは距離をおいて、自社の方針に合う支援機関を選ぶことをおすすめしています。

最近の雇用は、労働者の権利が重視されることが多くなっています。これは大切なことではあるものの、障がい者雇用の場合も、その責任を企業が問われることになります。採用などの判断は、支援機関の「大丈夫」という声で決めるのではなく、企業自身が「本当に雇用できるかどうか」を判断することが大切です。

障がい者の採用が決まった場合には、企業と就労支援機関との役割分担を明確にしていきましょう。企業には、「採用した障がい者の安定的な職場定着」を実現させるための努力が求められます。社員の仕事のマネジメントや、社員同士のコミュニケーションの機会の創出は、企業が行うべきことです。

しかし、障がい者雇用の場合、企業が職場で対応できることばかりではありません。例えば、「身だしなみや清潔感の課題が出てきた」、「消費者金融から会社に連絡がきた」、「生活費に困っているようだ」、「家族関係がうまくいっていない」……など、職場以外の問題や課題が出てくることがあります。障がい者社員本人が自身で解決できないトラブルもありますし、障がい者社員の家族からの支援も難しいなどという状況が出てくることもあります。このように、個人的な問題に介入する必要がある場合には、企業が直接解決しようとするのではなく、就労支援機関と連携して対応することが望ましいでしょう。“企業としてできること”と、“福祉などの支援機関としてできること”との役割を分けることができます。

なお、課題や問題が大きくなってから就労支援機関とコンタクトを取ると、状況把握や対応、問題解決までに時間がかかることがあります。障がい者社員の採用時や定着支援などの際に、就労支援機関にも企業の方針を伝えておくとともに、障がい者社員に関する課題や問題が小さいうちから各機関と情報共有して、連携を取っておくように心がけてください。

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