ビジネスシーンで用いられる「アジリティ」とは、組織の運営において状況変化に応じてスピーディーに対応できる機敏性を指す。変動性や不確実性が増すVUCAの時代において、重要視されるキーワードの一つだ。そこで、今回はその「アジリティ」の意味や、成功している組織の特徴、向上にむけてのポイントなどを解説していきたい。
「アジリティ」の意味とは? 組織運営やビジネスに役立つ向上のポイントも解説

「アジリティ」の意味や注目されている背景

「アジリティ(Agility)」とは、日本語で「機敏性」、「敏しょう性」、「軽快さ」と訳される。スポーツ分野では早くから使われていた言葉だが、近年ではビジネス用語としても広く活用されている。たとえば、サッカーで「アジリティ」と言えば、「チームの動きをスピーディに察知して機敏に反応するスキル」を意味する。このニュアンスはビジネスシーンでも共通しており、経営や組織運営において状況の変化に応じて素早く対応できる機敏性があると、「アジリティ」が高いと表現される。具体例としては、「意思決定のスピードの速さ」や「社員のフレキシブルな働き方」などが挙げられる。

●「アジリティ」が注目されている背景

「アジリティ」が注目されるようになった背景には、企業を取り巻く変化のスピードの高まりが大きく影響している。「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)」の時代と呼ばれるほど、目まぐるしい速度で変化しているだけでなく、予測不可能な出来事が起こり得がちだ。そのため、安定成長していると見られる企業でも、何かをきっかけに企業存続の危機に陥ってしまいかねない。どのような事態が起きたとしても、それに「適切かつ素早く対応するスキル」、すなわち「アジリティ」が求められている。「アジリティ」の高い組織を作り上げていくことが、これからの時代を勝ち抜く企業の条件となっていると良いだろう。

●スピードやクイックネスとの違い

「アジリティ」と類する言葉にスピードやクィックネスがある。意味を混同しがちなので、違いに触れておきたい。スピードは「速度の速さ」を、クィックネスは物事に速く反応して動き出す俊敏性を意味する。いかに素早く動けるかという「スピード性能」を表す言葉だ。

一方、「アジリティ」が重視しているのは、スピードの速さだけではない。多くの選択肢の中から、適切なものを素早く選択して迅速に行動するという意味で使われる。言い換えれば、課題に対する「対応力」、「的確性」という意味合いが強い。

●「アジリティ」のメリット

「アジリティ」のメリットについても触れておこう。

・業務のスピードアップ
「アジリティ」が高いと意思決定が的確である上に、行動が早い。自ずと、業務も迅速に進むのは言うまでもない。顧客の多様なニーズに応じた臨機応変な対応や速やかなトラブル処理を実現できる。

・柔軟性のある対応
状況が変化したときでも、柔軟性のある対応をすることができる。判断が的確であるため、効率的に行動していけると言って良い。

・ノウハウの蓄積
「アジリティ」を発揮し、物事を迅速に判断して行動する経験を積み重ねることで、組織としてのノウハウが蓄積される。それらは自社ならではの強みであり、想定外のことが起きたとしても、柔軟に対応しやすいと言える。

・リーダーシップの向上
あらゆる変化に応じて迅速かつ的確な判断をする習慣が身につくと、リーダーシップが鍛えられる。そうした職場であれば、メンバー全員がリーダーシップを高める機会を与えられていると言っても良いだろう。

「アジリティ」の高い組織の特徴とは

次は、「アジリティ」の高い組織にはどんな特徴があるのか、見ていこう。

●早く問題を解決できる

「アジリティ」の高い組織は、速やかに問題を解決できるという特徴がある。組織が今どんな状況に置かれているのかを敏感に把握し、その状況に応じた適切な判断をいち早く下すことができる。それだけに、変化に柔軟で、何かがあればすぐに動けるような組織づくりがなされている。

●状況判断の能力が高い

状況判断力が高いのも、「アジリティ」の高い組織ならではである。トップから現場の従業員に至るまで情報共有が徹底し、わずかな変化にも柔軟に対応できる体制が整っている。常日頃からチーム同士でのコミュニケーションが活発で、情報共有しあう土壌ができていることも、状況判断力の高さにつながっていると言って良い。

●ビジョンや価値観が共有できている

「アジリティ」の高い組織は、ビジョンや価値観が明確だ。しかも、それがメンバーにも共有できているという特徴がある。社員一人ひとりが企業の目指すべきあり方や方向性を理解しているので、予定外の出来事が起きても、ビジョンに基づいて自主的に判断し行動できるようになっている。もし、組織のビジョンや価値観が共有されていなければ、何らかの変化が生じた際に、どう対応したら良いかという行動指針を持てない。結果として、チームがバラバラの判断をしてしまうため、組織力は弱くならざるを得ないだろう。不確実かつ不透明なVUCA時代だからこそ、組織の将来を見据えたビジョンを共有することが重要である。

●アンテナを広く張って情報収集をしている

「アジリティ」が高い組織では、社員がアンテナを常に広く張り、積極的に情報を収集している。自ずと、最新の市場トレンドをキャッチできるので、劇的な変化が起きてもすぐに対応することができる。

●柔軟な発想力がある

組織としての「アジリティ」の高さは、柔軟な発想力にもうかがえる。旧態依然とした考え方の組織では、時代の流れをキャッチアップしていくことは難しい。そもそも、今まで経験したことのない不確定な要素にも、スピーディかつ正しく対応していかなければならないだけに、ゼロベースで自在に発想できる力が必要とされている。

●リーダーシップを発揮する社員が多い

「アジリティ」の高い組織には、リーダーシップを発揮する社員が多い。もともと、各々の社員が決定力や指導力をもって行動するカルチャーがあるからだ。組織としてもリーダーシップを持った人材育成を重視しているため、より「アジリティ」の高い人材が増えていきやすい。

組織運営に役立つ「アジリティ」を向上させるためのポイント

ところで、組織の「アジリティ」を向上させるためには、何をしたら良いのか。最後に、いくつかの方法を紹介しよう。

●現場に裁量を与える

組織として機敏に対応していくには、現場に裁量を与えることが重要だ。現場に裁量がなければ、社員は自らの判断で動くことができない。結果的に意思決定や業務にスピードも遅くなってしまう。これでは時代の変化についていけず、「アジリティ」を高めることも難しい。それだけに、現場の裁量をより大きくする必要がある。裁量を与えれば、社員は何が最適かと自ら考え、行動をとれるようになる。スピード感のある対応ができるようになるれば、問題が大きくなる前に解決できるメリットもある。

また、現場に裁量を与える時には、失敗を容認する雰囲気づくりも欠かせない。いくら、裁量が委ねられているといっても、社員全員が積極果敢に取り組むとは考えにくい。中には、「失敗をしたらどうしよう」と考え、行動になかなか移せないメンバーもいるだろう。そうした不安を払拭するためにも、組織として失敗を容認するカルチャーを醸成しておきたい。

●経営理念やビジョンを浸透させる

どれほど判断が早くても、それが組織の価値観に合致していなければ意味がない。もっと言えば、「誤った判断」を下してしまい、会社に損害を与えてしまう可能性もありえる。そのため、自分たちの組織ではどのような価値観を持っていて、何を基準に判断すれば良いのかという基準、指針を共有しておくことがとても大切だ。

●既存の業務プロセスを見直す

既存の業務プロセスを見直すことも重要だ。実際、多くの企業で現在使っている業務プロセスは、今から数十年前から全く変わっていないケースがある。いまだに紙で申請している、承認ステップに時間がかかるという企業も珍しくないだろう。それらを、ITに置き換えるだけでも「アジリティ」は確実に向上するはずだ。

●スキルアップできる環境を整える

「アジリティ」は、経験によって培われたスキルと知識をベースに、問題を機敏に解決していく能力である。これは、当然ながら先天的なものでなく後天的なものであり、環境を整えることで、その能力は格段に高まっていくはずだ。できれば、組織として必要なスキルも公開するようにしたい。社員はそれをもとに行動を決定するからだ。

●ITツールやコミュニケーションツールを活用する

組織の「アジリティ」を向上させるには、意思決定プロセスの迅速化が欠かせない。そこで、おすすめしたいのがITツールの活用だ。ITツールを導入していない企業では、紙やエクセルで業務を行うのがほとんどだ。それでは、どうしても手間や時間が掛かってしまう。システムを導入すれば、意思決定のプロセスを簡略化・効率化できるので便利といえる。また、社内SNSの活用やメッセージチャットなどのコミュニケーションツールの導入も検討したい。「アジリティ」の高い組織になるためには、社員に最新の情報が共有されている必要がある。コミュニケーションツールを活用すれば、情報を一元化しやすくなるのでメリットは大きいだろう。
日進月歩という言葉があるが、現代ではさらにスピードが加速し、秒進分歩とまで言われている。企業としては、どんな変化が起きたとしても、柔軟に対応していかなければならない。組織の「アジリティ」を高めておくことは、持続的な成長に向けての一つのガギとなるだろう。ぜひ本記事で紹介した「アジリティ」の高い組織の特徴や向上のポイントなどを整理しながら、人事施策に取り組んでいただきたい。
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