株式会社働きがいのある会社研究所(Great Place to Work(R)Institute Japan、以下GPTWジャパン)は2021年11月1日、「テレワーク環境下における働きがい」をテーマとするオンラインセミナーを開催し、「テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査」の結果と分析レポートを発表した。また同セミナーでは、幸福学(ウェルビーイング)の研究者として知られる慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野隆司氏が「幸せな働き方」について講演を行ったほか、前野氏とGPTWジャパン代表 荒川陽子氏が対談し、ともにニューノーマル時代における「働きがい」と「ウェルビーイング」向上の秘訣を語った。
テレワークにおけるコミュニケーションの実態調査から、ニューノーマル時代の「働きがい」を考える。慶應義塾大学大学院 前野教授に聞く、ウェルビーイングを高める働き方とは
GPTWジャパンは、“マネジメントと従業員との間に信頼があり、各従業員の能力が最大限に生かされている会社”を「全員型働きがいのある会社」と定義し、その普及のための支援活動を行っている。事業内容の一つが、「働きがいのある会社」についての調査および分析だ。従業員を対象とした「働く人へのアンケート」と、人事担当者や経営者を対象とした「会社へのアンケート」の2種類の調査から、「信頼・人の潜在能力の最大化」、「価値観・リーダーシップの有効性・イノベーション」を評価基準として、調査対象企業の「働きがい」を評価している。

同社は今回、「従業員の働きがいに関する企業内の実態調査2021」として「テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査」を実施。結果をオンラインセミナーで解説するとともに、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野隆司氏による講演や、前野氏とGPTWジャパン代表 荒川陽子氏の対談も実施し、「テレワーク環境下における働きがい向上」に迫った。本記事で同セミナーの内容を紹介する。

コミュニケーションの実態調査から読み解く、テレワーク環境下でも「働きがい」の高い組織の条件とは――調査結果発表

【分析・解説】GPTWジャパン シニアコンサルタント 今野敦子氏

テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査 【分析・解説】GPTWジャパン シニアコンサルタント 今野敦子氏
最初に、GPTWジャパンシニアコンサルタント 今野敦子氏による調査分析報告を、サマリーで紹介する。日本国内では新型コロナウイルスの感染拡大は落ち着いたものの、依然としてその脅威は続いている。社会活動もWithコロナを前提とした「新たな生活様式」が取り入れられており、その波は働き方にも及んでいる。そこで一気に浸透したのが「テレワーク」だ。数年前、テレワークは働き方改革において、DX化や健康経営の観点から注目されていたが、なかなか企業には受け入れられていなかった。これが、コロナ禍で一変。感染拡大を防ぐべく導入し、そのまま続けている企業は多く、今では、「多様な働き方」の有力な選択肢の一つとなっている。そこでGPTWジャパンは、「テレワークにありがちな組織課題を回避しながら、働きがいの高い組織であるための条件」を分析しようと、「テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査」を実施した。概要は図表1の通りだ。

図表1:調査概要

テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査 分析手続き1
講演の冒頭で今野敦子氏は、「テレワークにありがちな組織課題」について「マネジメント層にとって従業員の様子がわかりにくいこと、また従業員にとって評価が適切にされるのかが不透明であることなど、いずれも共通点は『コミュニケーション』に起因している」と紹介。本調査の分析においては、「コミュニケーションの実態に着目し、コロナ禍前後の状況の変化も含め、テレワークで成果を上げている組織とそうでない組織の違いを調べた」という。

図表2:分析した手法の紹介

テレワーク環境下における縦・横コミュニケーションの実態調査 分析手続き2

テレワークの成果実感をもたらす要因とは

テレワークを導入している企業にテレワークの成果実感を尋ねたところ、「期待通りの成果が出ている」が37.2%、「ほぼ期待通りの成果が出ている」が49.4%と、合計86.6%が成果実感を持っているという結果だったという。一方、「あまり期待通りの成果が出ていない」が5.5%、「期待通りの成果は出ていない」が0%、無回答が7.9%と、一部、成果が出ていないと感じている人もいたそうだ。

では、テレワークにおいてどのような変化があれば、テレワークの成果実感が上がるのだろうか。「生産性」と「ワークライフバランス」の2つの指標で分析したところ、「テレワークで生産性が上がった」と感じている群では、「テレワークの成果実感」において統計的な有意差がみられ、「テレワークでワークライフバランスが向上した」と感じている群では、成果実感の有意差が見られなかった(図表3)。この結果を踏まえ、今野氏は「つまり、『生産性の向上』が確認できなければ、たとえ『ワークライフバランスの向上』の実感があったとしても、テレワークの成果実感は得にくいことが推測される」と考察した。

図表3:テレワークの成果実感に影響する職場の変化

テレワーク成果実感に効く職場の変化

テレワークの成果実感と、コミュニケーションの実態の関係

「縦・横のコミュニケーション」が「テレワークの成果実感」にどう影響するのだろうか。結果では、成果実感が得られている群ほど「縦のコミュニケーション」と「横のコミュニケーション」の両方の得点が高かった(図表4)。今野氏はこれを「縦・横のコミュニケーションが良好であることは、テレワークの成否と関係していると考えられる」と分析。さらに、テレワークの成果実感が高い群では、総合設問によって数値化した「働きがい」のスコアも高い結果になったという。

図表4:テレワーク実施企業とコミュニケーションの関係

テレワーク実施企業のコミュニケーションと働きがい
さらに、新型コロナがコミュニケーションに与えた影響について調べている。コロナ禍前(2020年度版調査)とコロナ禍(2021年度版調査)で「縦・横のコミュニケーション」の得点を比較すると、「縦のコミュニケーション」は2020年版調査で65.9%、2021年版調査で69.2%と、3.3ポイント上昇。「横のコミュニケーション」は2020年版調査で69.9%、2021年版調査で71.8%と、1.9ポイント上昇という結果に。いずれのコミュニケーションにおいても、コロナ禍後の方が活発化していた。この点について、「私どもの調査企業においては、コロナ禍に際し、縦・横のコミュニケーションに力を入れた企業が多い」と今野氏は語る。

コミュニケーションの経年変化から紐解く、テレワークで重視すべきポイント

加えて、テレワークの成果実感別に、コミュニケーションの経年変化を調べている。「縦のコミュニケーション」の得点は、成果実感について「期待通りの成果が出ている」と回答した群と、「ほぼ期待通りの成果が出ている」と回答した群で、2020年度から2021年度にかけて統計的に有意に上昇。なかでも「期待通りの成果が出ている」と回答した群では、70%(2020年版調査)から74.7%(2021年版調査)と、最も上昇した(+4.7ポイント)。さらに2020年版調査、2021年版調査の両方において、成果実感の群間に統計的な有意差が確認されたという(図表5)。今野氏はこれを「コロナ禍前から『縦のコミュニケーション』が活発な企業ほど、コロナ禍で『テレワークの成果実感』が高くなる可能性が考えられる」と解説する。

図表5:「縦のコミュニケーション」の経年変化

テレワーク成果実感別の縦のコミュニケーション経年変化
「横のコミュニケーション」の設問項目のうち、テレワークの成果実感の群間で有意差があるのだろうか。調査結果では、「この会社で自分らしくいられる」、「特別なことがあれば祝い合っている」、「必要なときに周囲の協力を得られる」の3項目において有意差が確認できた。これらは「相互支援」や「相互尊重」といえる内容であり、「コロナ禍でその重要性が高まったため、テレワークの成果実感にも影響しているのでは」と今野氏は分析する。

図表6:テレワークの成果実感と横のコミュニケーションの関係

テレワーク成果実感別の横のコミュニケーション経年変化
本講演の最後に触れたのは、「コミュニケーション以外のテレワークの成功条件」について。テレワークの成果実感別に有意差が生じた設問項目は「報酬に対する納得感が高い」、「経営・管理者層の言行が一致している」、「安心して働ける環境がある」などだったそうだ。成果実感向上のポイントとして、今野氏は「『経営管理者層に対する信頼(報酬・言行一致)』と『会社からの配慮(ワークライフバランス、安心安全)』も、コミュニケーションと同等に重要である」と話した。

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