ニューノーマル時代の働き方 「働きがい」の最大化をめざして――対談

【対談】慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 前野隆司氏×GPTWジャパン 代表取締役社長 荒川陽子氏

GPTWセミナー対談 ニューノーマル時代の働き方 「働きがい」の最大化をめざして
最後に、慶應義塾大学大学院の前教授とGPTWジャパン荒川氏による対談をレポート形式でまとめている。

テレワーク下の連帯感(チームワーク)向上のため、意識的に声かけを


荒川氏 前野先生のお話にもありました通り、テレワークで「疎外感」の因子が悪化したという調査結果が見られます。テレワーク下で従業員に疎外感や孤独感を感じさせないために、どのような工夫をすればよいか考えたいと思います。今野の調査分析にもありましたが、「双方向型」や「全員参加型」というキーワードが重要と考えます。若手社員は特に「誰に何を相談していいかわからない」という状況になりがちなので、「働きがいのある会社ランキング」に入っている企業では、テレワークでもテレビ会議をつなぎ続けるなど、コミュニケーションを活発化させようとさまざまな取り組みがされています。

前野氏 そのように、テクノロジーや制度でできることもありますし、マインドも重要です。先日、1年半ぶりに研究室のゼミをリアルで開催しました。すると、やはりオンラインに比べてかなり雑談が多く、あっという間に2時間が過ぎました。実は、気づかないうちに行っている雑談、つまり最低限のマニュアル以外のところに、仕事のノウハウというものはあります。テレワークにおいて、コミュニケーションの機会を増やす制度を作ることはもちろん必要ですが、それに加えて、上司が部下に対して「最近どうしているか、困ったことないか」と意識して働きかける必要があると思います。

荒川氏 1on1などの場でも雑談を意識してみるとか、定例以外にも意識的に雑談をもちかけ、コンディション確認していくということですね。

前野氏 テレワークにおいて幸福度が上がっている会社では、雑談したいという欲求が自然と高まります。「お昼休みの最後の10分はオンラインで会おうよ」というように、自然と話が上がるようですね。逆に、オンライン会議が終わった途端に接続を切るような環境だと、一見効率的でも、じわじわとコミュニケーション不足になっていくように思います。

荒川氏 ビデオのオンオフも、会社によってそれぞれですね。みんなビデオオフで、音声だけで終わると、話したいという雰囲気が出にくいように思います。そういう、ちょっとした工夫も必要かもしれませんね。

前野氏 例えるなら、村社会の過干渉ですかね。これは、面倒なようで、いざというときにつながりが強いという良い面もあります。つい「過干渉は嫌だ」と村から都会に出たくなるように、ビデオをオフにしたくなる気持ちもわかりますが、これだと孤独化してしまう。もちろん配慮は必要ですが、できれば深く知り合う、関わり合うためのしかけがあった方がいいと思います。

自社にとっての「幸せな働き方」を考え、表明することが求められる


荒川氏 次に、緊急事態宣言解除以降、各企業で働き方が「出社」、「テレワーク」、「ハイブリッド」と混在している中、これからのスタンダードはどうなっていくのか考えたいと思います。多くの経営者や管理職は、今後どのような比率でテレワークを実施していこうか迷っているように思います。先行研究や、ヒントになることがあればお伺いしたいです。

前野氏 まだ研究中という部分もありますが、基本的には「スタンダードのない社会」になっていくと思います。つまり、スタンダードが多様化する。効率、生産性、またウェルビーイングの向上を目指す上では、「最も幸せに働くにはどうしたらいいか」と考えればいいと思います。テレワークで不幸になっている人も、出社で不幸になっている人もいる。その会社にとってより効率的で幸せな働き方にソフトランディングすることが重要です。そのためにサテライトオフィスを設置したり、地方に移転したりと、イノベーティブな取り組みを行っている企業がたくさんあります。そのように試行錯誤している会社と、コロナが落ち着いたら以前の形態へ戻る会社と両方ありますが、自社の「幸せな働き方」についてきちんと考えるか否かで、幸福度も生産性も差が出てきます。ひいては、企業の生き残りに差が出てくるため、今後はますます激動の時代になるのではないでしょうか。

荒川氏 確かに、幸せな働き方やウェルビーイングの最大化のポイントは、会社によって異なります。経営者にとってだけではなく、社員も含めての幸せは何か、見極める必要があるということですね。

前野氏 各社ごとに違うという意味で、ポイントがない、というのがポイントですね。コロナが落ち着いた後は働き方を従来型に戻す、という場合も、「自社にとってそれが幸せだから戻す」というように、本質を考えた結果ならいいのですが。今後はより、「幸せな働き方」について考えなければ企業として生き残れない時代になっていくように思います。

荒川氏 企業は今後、事業内容だけではなく、「働き方」や「どうありたいか」についてきちんと開示、説明してくことも必要ですね。

前野氏 まさにそうだと思います。その企業が「Great Place」かどうか、つまり「幸せな職場か」どうかは、売上かそれ以上に重要な指標になっていくのではないでしょうか。

荒川氏 これまで、働き方において画一的な体制が長く続いていましたが、そうではない世界になった今、どれだけ状況を先読みし、従業員のことを考えて意思決定していけるのかが求められます。それぞれのもっとも幸せなあり方を模索し、「なぜそうするのか」という説明とともに方向性の表明が必要ということですね。

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