グローバル化やデジタル化、コロナ禍で加速したライフスタイルの多様化など、企業を取り巻く環境の変化は一層激しくなっている。こうした中、企業の持続的な価値向上のために求められているのが、経営戦略と人材戦略を連動させた「人的資本経営」だ。本講演では、人的資本経営が重視されている背景や実装のポイント、また経産省が取りまとめた『人材版伊藤レポート』の内容などについて、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長 島津 裕紀氏が解説。後半部分では、ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長 寺澤康介がファシリテーターを務め、両者によるトークセッションも行われた。

講師

  • 島津

    島津 裕紀 氏

    経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長

    2004年 経済産業省入省。航空機産業政策、新エネルギー政策、原子力政策などの担当の後、大臣官房総務課政策企画委員を経て、2021年より現職。 経産省の人材政策の責任者。 人的資本経営の推進、多様な働き方の環境整備、リスキル政策などを担当。



  • 寺澤

    寺澤 康介

    ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長

    1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。

個人を活かし、持続的に企業価値を創造する「人的資本経営」の実装
経済産業省 経済産業政策局 産業人材課長 島津 裕紀氏

新型コロナは経済にどのような影響をもたらしたのか?

はじめに、新型コロナウイルスがもたらした経済への影響について簡単にご紹介させていただきます。「世界全体の実質GDP成長率の推移」において、2020年は過去30年間で最も急角度の下落となっています。また「世界の不確実性指数の推移」においても、新型コロナが発生した2020年1〜3月において世界の不確実性は一気に高まり、過去40年間で最大の数値を記録しています。さらに、「G7各国の新型コロナ対策の財政支出」において、アメリカは対GDP比で25%を超える規模の財政支出を行っており、イギリス(16.2%)、日本(15.9%)がそれに続きます。コロナ禍の景気悪化に対し、すでに十数年前から取り組みのある環境問題対策を筆頭に、安全保障、健康、雇用、人権といった「社会課題の解決」を重視し、持続可能な社会を志向しているのが、最近の経済対策の傾向でしょう。

こうした変化の中、経済においてもいくつかのトレンドが起こっています。まず、「2021年1月前半の日本の小売業への消費支出(前年同期比)」の調査において、「アパレル小売」は対面販売が34.2%減なのに対し、オンライン販売は9.2%増加(図1)。さらに「飲食料品小売」ではオンライン販売が59.9%も増加しており、ビジネスモデルが一気にデジタルに振れていることがわかります。

▼図1

しかし同時に、こうした経営戦略実現のための人材が不足しており、特に、デジタル専門人材の育成・処遇が大きな課題にもなっています。「経営戦略の実現のために必要な人材の採用・配置・育成状況」についてのアンケートによると、3割以上の企業が「経営戦略の実現に必要な人材を採用・配置・育成できていない」と回答(図2)。また、「社外から採用したデジタル専門人材の処遇」についてのアンケートでは、6割強の企業が「社外から採用したデジタル人材に対して一般社員と同じ賃金制度を適用している」と答えています。

▼図2

続いて、グリーンに関する各国の取り組みをご紹介しましょう。今や様々な国において、コロナ禍の復興の中で地球環境の保護や維持を強力に推進しています。例えば、アメリカ、カナダ、日本では温室効果ガス削減の目標を大きく引き上げるなどの動きがありました。その他にも各国では、新型コロナからの経済回復に際して、気候変動対策との両立を目指す経済対策を志向しています。

アメリカは、「グリーン技術・インフラへの投資を含む経済対策パッケージ案」に10年間で約240兆円を投入すると発表。気候関連技術・研究への高額投資などを示しています。またEUでも、官民の「グリーンディール」投資計画に10年間で120兆円を投入するとしています。脱炭素、グリーン社会に向けた産業シフトが起きているということです。

もう一つの大きなトレンドは、やはりリモートワークの浸透です。「在宅勤務の平均日数」のアンケート結果を見てみますと、大企業では週に4.5日、中小企業では週に3.6日となりました(図3)。また「ポストコロナの在宅勤務の実施意向」のアンケート結果においても、「同じ頻度で在宅勤務をしたい」が48.1%、「少なくしたいが在宅勤務をしたい」が30.9%と、在宅勤務を希望する人の割合が非常に大きくなっています。

▼図3

では、こうしたテレワークの進展は、勤務・報酬体系の在り方にどのような影響をもたらすのでしょうか。急激なテレワークの進展を受け、一部の企業では、ホワイトカラー業務の労務管理の在り方を、従来の「メンバーシップ型」の時間管理から、「ジョブ型」のタスク管理へと切り替える動きが出ています。こういった変化は、業務の無駄の可視化をもたらし、メンバーシップ型のホワイトカラー業務の一部が余剰として認識される可能性もあるでしょう。
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